【0】プロローグ

私達は手を繋いで、横たわっている

自分達の姿を宙に浮かんで眺めていた。


「ねぇ匠君?もしかして…死ぬのかな?」


『どうだろうね、まだわからない。

でも翼と一緒ならどちらでもいいよ。』


声ではなく直接語りかけるように頭の中に

響き渡る相手の声。これが有名な幽体離脱というものなのだろうか。


救急車やパトカーが続々と到着し二人の回りが慌ただしくなってきた。私達はこれから

病院へと運ばれ治療をうけるのだろう。

青信号を横断中に突然、私たちに衝突してきた車、それは霊柩車だった。



───二週間後。

「はぁ、長かったー!!ようやく退院できますね。匠君は退院一発目のご飯は、何が食べたい?私は無性にハンバーグが食べたいんですけど!」


『本当、二人して入院なんて…しかも葬儀屋が霊柩車に衝突されるとか、笑い話にしかならないよ。俺は天ぷらとざるそばだな!』


「匠君は天ざるですか。それも捨てがたい献立だねー。明日からはまた仕事に戻らないといけないし、体力つけとかないとね!幸栄達も首を長くして待ってくれてるわよ、きっと。」


『幸栄さんと寿郎、本当驚いただろうね。まさか突然仕事仲間の二人が一緒に入院しちゃうなんてさー。四人でやってる小さな会社だし商売上がったりだもんな。』


私がジャンケンに勝ったことから

ハンバーグを食べる羽目になった匠君。


『翼さ~この歳になって、このこってりデミグラスソースのチーズハンバーグ…さすがに俺の胃袋が悲鳴をあげています…』


「匠君?いくつになったの?私と同じはずでしょ?もしかして年齢詐称してます?

さぁ肉も食べたし明日から、またバリバリ

仕事して休んでた分、取り返すわよ!」


『一緒に退院したばかりなのにその元気…

源は、やはり肉ですか?それにしても会社の留守を護ってもらった山田夫婦には今度きちんとお礼をしないとね?でも、何がいいんだろ?』


「決まってるじゃない!スイーツか焼肉よ~!寿郎君の好みはよくわからないけど、

幸栄が喜ぶことは拒否しないでしょ?とりあえず明日、手土産にケーキで焼肉は後日ってところかな?明日二人に予定を聞いてみましょう。」


昼食兼夕食を食べ、二週間ぶりに帰って来た我が家。職場の明かりは消えているので、既に二人は帰宅しているのだろう。私達の職場は自宅の横の敷地に隣接しており通勤時間は

徒歩一分。二十四時間いつでも対応しないといけない職業柄、匠君の両親から譲り受けたここに住んでいる。


『さーて、久しぶりの我が家のベッドですな。翼、先にお風呂行ってきていいよ?あ、それとも退院祝いに一緒に入りますか?』


「退院祝いに一緒にお風呂の意味もわからないし、入院してなくても一緒には入りません!一人でゆっくり浸かって疲れとりたいでしょ?」


『入りたいくせに強がっちゃってさ~?とにかく今日は明日に備えて早く寝ようね~。』


私、岩崎翼いわさきつばさ岩崎匠いわさきたくみは夫婦である。

私の友達である山田幸栄やまださちえとその旦那さんの山田寿郎やまだとしろうと共に、東北地方の片田舎で匠君の両親から引き継いだ家族葬専門の小さな葬儀屋【輪廻會舘りんねかいかん】を営んでいるのだが、今回の事故を境に、四人の運命が激変していく事をこの時の二人はまだ知るよしもなかった…。

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