一寸先はキミ
さくらとろん
一話
学校生活が終わると、
「
背中から声をかけられて、思わず震えてしまった。慌てて振り返ると、二人のクラスメイトが磨弥を見つめていた。
「よかったら、カラオケパーティーに行かない?」
「カラオケパーティー?」
予想していなかった言葉に緊張した。うん、と頷き、クラスメイトはさらに話した。
「そう。今日の放課後カラオケパーティーするの。駅前に新しいカラオケボックスできたじゃない」
全く知らないことで、ぶんぶんと首を横に振った。
「私、カラオケなんてできない。歌なんか下手だし」
「歌わなくても、座ってるだけでも構わないよ。しかも今日は
満木高校は、現在磨弥が通っている
「ごめん。私は行けない」
「どうして? 用事があるの?」
「用事っていうか……。門限があるの」
「門限かあ……。悠崎さんのお母さんって、けっこう厳しいんだ」
「それほどでもないけど。とにかく、早く帰らなきゃ怒られちゃう」
「そっか。じゃあしょうがないね。次また機会があったら一緒に来てね。悠崎さん、めっちゃ可愛いし頭もいいし、彼氏できるかもよ?」
「そんなわけないよ。こんな真っ黒な眼鏡かけてダサいのに」
磨弥は生まれつき遠視で、大きな黒縁の眼鏡をかけている。はっきり言って地味な印象だ。女の子らしさはどこにもない。友だちも少ないし、ガリ勉としか思われなさそうだ。
「ダサくないよ。すっごく可愛いし似合ってるよ?」
「……可愛いなんて……ありがとう。嬉しい。誘ってくれたのにごめんね」
深々と頭を下げると、二人は教室から出て行った。こういう時は断らない方がいいとはわかっている。申し訳ないし二人も残念だろう。男子が嫌いなわけでもないし、歌に興味がないわけでもない。ただ磨弥には一息つけるひとときが必要なのだ。
ゆっくりと磨弥も昇降口に向かい歩いた。誰にも話しかけられないように注意しながら、よく利用している古本屋に着いた。かなり古く客も店員もいない。本の数も少ない。この古本屋の隅に置いてある椅子に腰かけて、ぴんと張った神経を緩やかにほぐすのだ。独りになるのも大切だ。しばらくぼんやりしていると、五時の鐘が鳴り我に返った。まだ暗くはなっていないが、女子高生が一人でいるのは危ない。鞄を抱き締め、急いで走った。
磨弥の家は割と新しいマンションで学校からも駅からも遠くない。マンションには磨弥と同い年くらいの学生はいない。ドアの前で深呼吸をし、不安を追い払った。なぜ不安になるのかはすでにわかっている。母である
何度も深く息を吐き、ぐっと手に力を込めてドアの取っ手を掴んだ。華弥は何をしているだろう。どんな言葉をかけてくるだろう。ただそれだけで、胸の中が暗くどんよりとした気持ちでいっぱいになる。母親が苦手な子供などいるだろうか。普通は子供は母親が好きなものだ。しかし磨弥と華弥は、どこか寒々とした
溝ができているのだ。
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