ゴミの中の天使
紅音こと乃(こうねことの)
第1話真琴と誠
ちょうど昼食を取ろうと、席を立った時だった。警察から
血が
◇
九月の空に白い煙が昇っていく。今、真琴の体は煙となって天に昇っていくのだ。後に残るのは、この世に存在していたという証の骨だけ。
父、
思春期の男が四つ違いの姉の前で、名前を呼ばれる具合の悪さ。そんな誠の繊細な気持ちを、誰ひとりわかろうとしなかった。むしろ
何をするにも一緒だった
じわりと汗が流れた。
木々に囲まれた日陰に居るといっても、ここ数日続いている残暑は、一切の出来事を忘却の彼方へ連れ去る。夏を惜しみ鳴く一匹の蝉は、時間の感覚も麻痺させるようだ。
この暑さの中で、真琴は死んだ。閉め切った部屋で、たった一人で、誰からも看取られることなく。
孤独死だった。
誠は短くなった煙草を、靴の底で潰した。
ーーー誠。
日差しの中に人影が見える。一瞬、それが真琴の姿に見えて目を細めた。
人影は
直義は
「大丈夫か?」
誠の顔色を
直義は足元に落ちている煙草の吸殻に気付くと、右手を口元に持っていき煙草を口にくわえる仕草をした。
「吸うのか?」
「ええ、まあ。伯父さんも吸いますか?」
意外とも感慨深いともとれる表情をした直義が「悪いな」と、差し出された煙草ケースに手を伸ばした。
「いえ、俺の方こそ助けてもらって。本当に、ご迷惑をかけてしまいました」
「いや、そんなことは、どうでもいいんだ」
直義は灰を地面に落とすと、煙草を口にくわえながら虚空を見つめた。
「こっちこそ悪かったな。もう少し真琴の様子を見に行けてればよかったんだが、なんせ、あんな具合だから。悪く思わんでくれ」
誠は苦笑し「はい」と応えた。
直義が口を濁すのは、誠が育った家が二年前から、近所では有名な " ゴミ屋敷 " になっているからだ。
そして、今回の件。
真琴の遺体が発見された時など、更に酷い状態だった。
開け放たれた玄関の扉の向こうには、ダンボールやら新聞、ゴミ捨て場に捨てられたアルミ缶の袋など、明らかに資源ゴミとして投棄されたものが天井まで
離れていても漂ってくる異臭。何かが腐った臭い。汚物の臭い、生ゴミの臭いもある。しかし、それらよりも、もっと強烈な。肉や魚とかの匂いではない、人間の腐った血の臭い。
窓ガラスには何匹もの大きく太った蝿が、ぴったりと張り付いていた。
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