ルビアとの再会

「という訳で属国のアンペ国に到着でーす! 馬車って便利ですね!」

「そんな名前だったのかこの国」

「いえ、最近ここの女王によってつけられたのですよ。発展がめざましく我らが王も若干危機感を抱いているそうですよ? 笑っちゃいますよね!」


 なるほど、ルビアも頑張っているようだ。これは心配しすぎだったかな?

 そして、そこら辺で暇そうにしている兵士に女王への謁見を頼んだのだが、


「いくら勇者とはいえルールはルールです。アポイントメントは一年前に取っていただかないと!」


 無茶言うな。まあコイツも俺に恨みを抱いている人間の一人なのだろう。


「勇者様、どうしましょうか?」

「とりあえず女王に会いに行く」

「え?」


 呆気にとられているローズを置いて、壁を飛び越えて中庭に侵入。特に騒ぎにはなっていないところを見ると誰にも見られなかったようだな。ついでに、ローズも置いてこれて一石……


「もう、急に行動しないでくださいよ~でもさすがは勇者様ですね! あの高い壁をひとっ飛びなんて!」

「……だろ?」


 お前の身体能力のほうがすげえよ、と言いたかったが我慢した。この女やはり油断ならないな……。


「でもいきなり女王に会うなんて無茶じゃないですか? それに居場所、分からないでしょう?」

「まあとりあえずやってみようぜ」

「とりあえず、での行動が重犯罪者レベルの行動なのですが」


 何やら呟いているローズを置いて女王の部屋に向かう。以前と変わっていなければそこが寝室のはずだが……。途中に巡回している兵士やメイドなどをやり過ごし目的地に到着。一応ノック。


「いないな……」

「いませんね……あ、不味いです」


 何がだ? そう言おうとして俺も気がついた。兵士に見つかった事を! しかし俺より早く気がつくとはこの女……。


「どうします? 消しましょうか?」

「馬鹿。この国の兵士なら俺らと仲間みたいなものだろう」

「いやいや、許可もなく女王の寝室に入ろうとしているなんて重罪ですよ! 何とかしないと」


 すぐにでも兵士を殺しにかかろうとするローズ。だが俺はとある考えが閃いた。


「いいから落ち着け。大丈夫だ。これは全て俺の作戦通りだ。」


 全くの嘘だがそう言ってローズをたしなめた。そうしてすぐに兵士に囲まれる俺たち。あえなく地下牢に連れて行かれた。当然別々の牢屋だった。


「貴様らが女王と知り合いだと!? 笑わせるな! 如何に勇者であろうと犯罪は犯罪だ! ふん、やはり黒い悪魔は黒い悪魔だな……」

「あんなこと言われてますけど?」

「ほっとけ、すぐに迎えが来るさ」


 何の確証もなかったが、アテはあった。それにしても久しぶりだなその謎あだ名。

 そしてしばらく牢屋で昼寝をしていると……


「ルビア様! お待ち下さい! 女王ともあろうお方がこんな汚らしいところに――」

「黙りなさい。勇者様を捕らえるなど何を考えているのですか!」

「しかし奴らは女王の寝室に! やはり黒い悪魔なんですよ! 危険です!」

「あの方なら別に構いません! というか入ってきて欲しいですし! いいから離しなさい!」


 なんか騒がしくなってきたな……。そしてしばらくの問答の後、俺の視界に懐かしい顔が入り込んできた。少し顔つきが変わったかな。


「よう。元気そうだなルビア」


 そう言ってルビアを見ると、とんでもなく申し訳無さそうにして頭を下げてきた。


「申し訳ありません! フユキさんにとんでもないことをしてしまって……いかなる罰もお受けします」

「国のトップが気軽に頭を下げるんじゃねえよ。それにあいつらがやったことは間違いなんかじゃない。正しい行動だ」

「ですが……」

「とりあえず俺の目的が叶ったから良いんだよ」

「目的、ですか……?」


 そう言って首をかしげるルビア。その顔は以前良く見た顔だった。


「お前に会いたくてな。立派に女王やってるようで何よりだ」


 そう言うと、鍵を開けて牢屋に入ってくるなり俺の前に倒れ込んでくるルビア。


「全然、全然駄目です私……。不安なことだらけで毎日がいっぱいいっぱいなんです。フユキさん、貴方に頭を撫でていただかないと私は……」


 そう言って上目遣いでこちらを見てくるルビア。兵士に見られているのだが……まあ、良いか。


「良くやってるよルビアは。偉いな」


 そう言って頭を撫でていると涙を流して俺の胸に倒れ込み、まるでマーキングでもするように顔をグリグリと擦りつけてきた。コイツ、まだ動物調教の名残が残っているな……。目がトロンとしてやがる。そしてその光景をガン見する兵士AとB。あとで脅しておこう。


「で、いつまでそうしてラブラブしてるんです?」


 痺れを切らしたローズが言葉を投げ込んできた。むしろここまで黙っていたことに俺は驚いたが。意外と空気読めるのかコイツ。


「え!? あ、す、すみませんフユキさん! ご迷惑おかけしました……。え、あの、あちらの女性は……?」


 やや混乱しているが目は元に戻っているな。しかし、なんと説明しようか?


「どーも! 勇者様の愛人のローズです! 宜しくお願いします、ルビア様!」

「え、あ、愛人!? ふ、フユキさん! 本妻は誰なんですか! 愛人は何人まで良いんですか!」


 あ、まだ混乱してるなコイツ。


「ルビア、あの女は俺の監視役だ。アイツの言葉は全て無視していい」

「ひどーいです」


 別段気にしてねえじゃねえか。


「あと、いい加減兵士の目も鬱陶しいし、別のところで話さないか?」


 俺がそう言うとルビアは今更兵士の存在に気がついたようで正気を取り戻した。


「こ、コホン。勇者様たちを部屋に案内しなさい」


 そう言って急いで階段を上がっていった。


「しかしルビア様と知り合い、どころか凄く親しそうでしたね? イーナが知ったら怒るでしょうね!」


 そう言ってニコニコ笑うローズ。その目はバラしますよ? とでも言っている目だ。いい性格しているな。


「大丈夫だ、アイツは知ってるからな」

「ふふ、それでも感情が抑えられないのが女、なんですよ?」


 その言葉は妙に説得力があり、先程のやり取りを思い返し何となくイーナに罪悪感を抱いた。

 部屋に案内される途中、兵士たちを脅し、先程の光景をバラさないように誓わせようとしたが……。


『憧れのルビア様が勇者のことが好きだったなんて……興奮します!』

『俺も……。安心して下さい、この事は俺達だけの秘密です。こんな興奮材料、絶対に他の奴には教えてあげません!』


「世の中変な性癖持ちもいるんだな」

「人の数だけ性癖がありますからね。人の性癖を馬鹿にしちゃ駄目ですよー」

 

 案内された部屋で性癖談義をしていると部屋に響き渡るノックの音。返事をし入室を促すとルビアが入ってきた。ん、ちょっと服変わっているか? 先ほどの服とは少し印象が違っている。


「公務を行える服装の中でも出来るだけ可愛いオシャレな服に変えてきて、髪も整えてくるなんて可愛いですね、ルビア様」


 俺にだけ聞こえる声でそういうローズ。なるほど、さすがはハニトラの天才。女を見る目もあるんだな。


「似合ってるな」


 そう正直な感想を言うと、


「あ、ありがとうございます。そ、その、それでですね……先程の話の続きなのですけど……」

 まだ続けるかそれ。


「フユキさんが憑き物が落ちたように凄い良い顔をしているので、その、そういう事でもあったのかな、と思いまして」


 自分では分からないが、やはり違うのだろうか? そういえばトルストも言ってたっけ。


「ああ、イーナを覚えているか? アイツに色々お世話になってな」

「ああ……やっぱりですか……」


 ルビアの顔に一瞬影が差したがすぐに、


「ところで、先程監視役と仰っていましたが」


 と努めて平静に話題転換してきた。俺もそれに乗っかった。


「そのままの意味だ。俺を自由にさせるのが恐いんだろうなボルツ国は」

「まあ酷い。監視役だなんてそんな事ありませんのに」


 オホホ、と似合っていない笑い方をするローズ。ちょっと試してみるか。


「だったら何処かに行ってくれないか? これから二人っきりで大事な話があるんだ」

「え!? ふ、フユキさん!?」


 本気にするなよルビア。


「あ~イケないんだ! イーナというものがありながら! ふ~ん、そういう事なら仕方ないですね。私、この国散歩してきますのでごゆっくり~」


 そう行って部屋から出ていった。良し。


「さてルビア話がある。アイツをここに置いていきたいんだ、協力してくれるな?」

「……はい。分かっていました」


 だったらそんな顔するんじゃねえよ……。罪悪感が湧いてきたのでせめて目一杯褒めて頭を撫でた。そしたら滅茶苦茶体擦りつけられた。

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