61.表の顔と裏の顔
格闘フリークスの兄ちゃんが、諜報員?
驚く僕に紗由奈が説明してくれた。
諜報員にはある程度共通のボディサイン暗号なんかの符丁があって、彼がそれを使って紗由奈の正体を確かめてきたから応えたんだって。どれがそれにあたるのか、僕にはさっぱりだ。
多分ともくんにもそれとなく訪ねてると思う、と紗由奈は言う。
「そんなに怪しかったのかな」
自然にしてるつもりだったのに。
「ううん、きっと話しかけられそうな人、みんなにやってると思うよ」
で、格闘フリークスっていうのは多分半分は本当なんだろう、と。
「嘘を混ぜるには真の中。裏の顔を混ぜるのも表の顔の一部、ってとこね」
そっか。まるっきりの嘘はバレやすそうだし。
「うちの課にはいない人だから多分同業他社ね。うちともう一つ、大手さんがあるから。彼が実はすっごい変装ってか変身上手なうちの社員さんだったら驚きだけど」
諜報組織に大手とか中小とかあるのか?
あ、そういえばこんなのんびり試合見ながら話してるけど、肝心の仕事の方は大丈夫なんだろうか。
「紗由奈も行く?」
捜査にとは言わなかったけど通じてるはず。
「最初はそのつもりだったけど、一定の収穫は得られたし、やめとく」
言いながら紗由奈は試合会場に目をやった。
ちょうど決勝戦が始まりそうだった。
紗由奈を負かせた遠野が余裕の表情で構えた。
あれ? 闘気出てないぞ。
「最終試合は闘気なしか。今まで見てきた相手の試合で闘気オフでも勝てるって踏んでるんだ。余裕ね」
ちょっと悔しそうな紗由奈。
「わたしももっと強くなりたいな」
彼女の言葉と試合開始の声が重なった。
遠野は相手の攻撃をバンバン受け流してる。攻めてる方がだんだん息が上がっていってるのがモニター画面から伝わってくる。
対戦相手がひときわ大きな気合いの声をあげてパンチをうったが遠野は正面からブロック。そのまま押し返した。
よろけた相手の腹にストレート。
素人の僕が見ても綺麗に入った。
倉庫内に大きなどよめきと歓喜の声。
相手選手は足から崩れ落ちた。
「そこまで! 優勝、遠野選手」
レフェリーの宣言に喝采が渦巻いた。
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