闇大会潜入捜査
76.触れた瞬間
夏休みが終わって、大学は後期に入る。
そろそろ就職活動に身を入れないといけなくなってくるんだけど、自分のやりたいことって何だろう。
大学に行かないといい就職先はないって理由で大学に入ったし、大学に通えばやりたいことは見つけられるんじゃないかなって軽く考えてた。
けどいざ就職先を探さないとという段階に入ってきても、自分の未来が見えない。
僕らが所属してるのは情報科学科だ。コンピュータ関係に就職する人が多いところだ。
ここを選んだのもコンピュータ関連の技術や知識を身につけておけばどこかに就職できるだろうってこれまた安直な考えだ。
多分、就職するだけならいけるんだろう。
けどそれでいいのかな。
松本はそこそこ大手のSEを狙ってるっぽい。
水瀬さんはお兄さんが務める探偵事務所のお手伝いがしたいって言ってるみたいだ。
そして紗由奈は。
「トラストスタッフにそのまま正社員で雇ってもらうつもり。あ、もちろん試験はきちんと受けるよ」
やっぱりな。
うーん、僕は……。
九月の末の土曜日、紗由奈から連絡が入った。
明日の昼から半日ぐらい仕事に付き合ってほしい、って。
仕事ってつまり諜報の? 僕なんかにできるの?
『電話で話すのもなんだし、そっち行っていい?』
来てもらうのはもちろんOKだ。とにかく話を聞かないことにはね。
夜、紗由奈が買ってきてくれたお総菜をつつきながら仕事の話を聞く。
倉庫で開かれてる闇格闘大会があって、その黒幕の正体を掴みたいらしい。
紗由奈が選手で出場し、僕が彼女の応援、つまり観客という立場でついていく。
実際の捜査は紗由奈がするから基本的に僕は何もしなくていいらしいけど、もしも何か手伝えることがあったらやってほしい、と。
「どうして一緒に行くのが僕なの?」
「うちの社員だけじゃ密偵かって怪しまれるかもしれないから。社長がカレシと一緒に行ってこいって。彼ならわたしがどんな仕事してるか知ってるからうってつけだろうって」
トラストスタッフに諜報部があることって、大きな犯罪組織には知られてるらしい。だから紗由奈の身分はトラストスタッフのバイトじゃなくて格闘好きの大学生をメインに押し出して、彼氏と旅行するためのお金を稼ぎに来た、みたいな感じで行きたいらしい。
「ごめんね。できるだけ関わらないようにって言ったのに」
「まぁ、観客として見に行くぐらいなら、いいよ」
実は紗由奈の戦ってる姿は、ちょっと見てみたかったんだ。
他にも、闇大会の実態と、極めし者についても改めて聞いておいた。
現在の法律では金品を賭けて個人的に戦うこと、いわゆる賭けファイトは禁止されている。けれど正式な手続きを踏んで開かれる格闘大会については大丈夫なのだそうだ。
対して、大会主催者が多額の利益を得るために未届けで大会を開くこともままあって、それを闇大会と呼んでいるそうだ。別に闇ってついてるからって必ず犯罪組織とかが絡んでいるわけじゃなくて個人でやっちゃってる場合もあるんだとか。
「今回の大会が個人で開かれたのか、バックに暴力団とかがいるのか、聞き出してくるか盗聴器を仕掛けるかしてこい、っていうのがわたしの受けた任務よ」
続いては極めし者の話だ。
格闘に長けていて、特殊な呼吸法で闘気を操れるようになった人、というのは前にも聞いた。
闘気を扱えるか扱えないかで、純粋なスポーツマンガが現代ファンタジーになるぐらいの違いらしい。
「ほら、スポーツマンガで選手が分身したり、ありえないスピードで走ったり超反応したりって出てくるでしょ。もうそうなったら現代ファンタジーじゃない? 極めし者が闘気を使うと、ほんとに現代ファンタジーな世界になっちゃうんだよ」
「具体的にどんなことができるんだ?」
「そうだね。壁を蹴りながらビルを登ってったり。車の下敷きになった人を車を少し持ち上げて助けちゃったり。あ、一番すごいのは鉄砲で撃たれてもかすり傷ですんじゃったりとか」
超人すぎるっ。
「極めし者が闘気を攻撃に使ったら、一般人は触れた瞬間、ふっとんじゃうよ。だから闘気は凶器扱いなんだよ。暴漢が武器振り回してるところに遭遇しても闘気を使って身を守っただけで過剰防衛にとられることが多いって」
「それはなかなか厳しいな」
「力を持つには責任を持たないといけないって、よく黒崎さんに言われてるよ」
トラストスタッフの社長さん、高慢そうに見えるけどそういうところはしっかり教育してるんだな。
「とにかく、ともくんは観客として試合みててくれるだけでいいからね」
「判った。けど紗由奈も無茶しちゃ駄目だぞ」
「うん、判ってる。ともくん心配性だもんね」
腕にぎゅっとしがみつかれた。
やわらかぁ……。
幸せ気分を味わったからには、明日は紗由奈の応援頑張るぞ。
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