39.類は友を呼ぶ
赤城さんの友達の水瀬さんと喫茶店で顔を突き合わせて話すことになった。
僕としては、赤城さんが僕のことをどう思ってくれているのか、ちょっとでも手掛かりが欲しいところだけど、水瀬さんは一体何を聞こうとしてるんだろう。
……ん? 僕のバイト先まで来てたってことは、この場所は赤城さんに聞いたってことにならないか? だって僕は水瀬さんにバイトのことなんか話してないし。
となると、赤城さんが水瀬さんを使って僕の何かを聞きだそうとしていることになるのか?
「どしたの? なんか眉間にしわよせちゃって」
水瀬さんが笑いながら小首をかしげてる。
「あぁ、いや。ところで水瀬さんは僕のバイト先があそこだって、どうして知ってたの?」
「サユちゃんに聞いたんだよ。新庄さんとちょっと話がしたいから連絡先教えてーって。そしたら、連絡先は知らないけどバイト先なら知ってる、って」
え、じゃあ、赤城さんが探りを入れてきたんじゃないってことか? それとも……。
まぁいいや。話を進めた方が早そうだ。
「で、話って何かな。赤城さんのバイトについて?」
赤城さんがエージェントやってるって知ってショックだとか?
「というより、新庄さんの話。サユちゃんのバイトが何なのか知ってて、それでもサユちゃんと付き合いたいって思ってんの?」
うーんっと、これって、サユちゃんに手を出すなって警告?
僕の顔を見ている水瀬さんが、あははって笑った。
「新庄さん、判りやすーい。そんな心配しなくても、答え聞いてどうのこうの言わないよ。ただちょっと心配なだけ」
「心配?」
「うん、新庄さん、極めし者でもないし、裏のことに詳しいわけでもないでしょ」
僕の心配をしてくれてるのか。水瀬さんって優しいなぁ。さすが赤城さんの友達なことはある。
ん? でもちょっと待てよ。その尋ね方からして……。
「水瀬さんは、その、そういうことに詳しいの?」
「詳しいわけじゃないけど、お兄ちゃんが探偵事務所で働いてるから、まったく無知なわけでもないよ。それにわたしは極めし者だから、少々のことがあっても自力で何とかできるし」
なるほど。さすが赤城さんの友達。
となってくると、これも興味深いことなんだけど、尋ねちゃえ。
「ひょっとして、赤城さんがどうして極めし者になったのかとか、どうしてああいうバイトをしているのかとか、聞いてたりする?」
「サユちゃん、イギリス行きたいらしいよ。で、バイト探してたら今の勤め先が募集してるのを見つけて、割がいいからって応募したみたい。本当の仕事内容を知っても、元々スパイとかに興味津津だったみたいだから、むしろ渡りに船だったんじゃない? 極めし者になった経緯は、わたしと一緒に運動してて突然って感じだからかなり特殊だけど」
闘気は本来なら極めし者に師事して会得するものらしい。けど赤城さんは水瀬さんと運動して見様見真似で使えるようになったそうだ。
それだけ赤城さんに才能があるってことなのかな。
それにしても、旅行をしたいからバイトを探してたってのは本当だったんだ。
水瀬さんはにこにこ笑って答えてくれた。何だか彼女の顔が「他にも聞きたいことがあったらどうぞ」って言ってくれてるような気がする。僕の都合のいい読み違いなのかもしれないけれど。
「水瀬さんは平気なんだ? 友達がそういうバイトしてること。赤城さんは、最初僕には『危険だから近づくな』みたいなこと言ってたけど」
僕の質問に、水瀬さんはあっさりとうなずいた。
「わたしは全然平気だよ。サユちゃんも、わたしが極めし者の中でも結構強いって認めてくれてるから、時々お仕事の手伝いを頼んできたりするよ」
心配どころか協力関係だったとは。
ふむふむとうなずく僕に、水瀬さんはきっぱりと言い放った。
「わたしとしては悪人をやっつけられれば万々歳だし! 悪、即、斬よ」
……えぇっとぉ?
「なによぉ、そんな引かなくてもいいでしょ。悪人が減った方が世のためじゃない。まぁ斬は言い過ぎだと認めるけど」
「そりゃそうだろうけどさ」
水瀬さんがこんなにアツい人だって、赤城さんは知ってるんだろうか。
「サユちゃんもわたしの考えに賛同してくれてるんだからねっ」
ふんっ、と胸を反らせて水瀬さんは主張する。
賛同してるんだ、赤城さん。そんなところまで類友でなくていいのに。
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