13.一つ、賭けをしようか
カラオケの帰り道、女の子達は買い物によるからと別行動になった。
男軍団と手を振って別れてから、和気あいあいと話しながら雑踏に消えていく彼女達がうらやましい。
残されたのは僕と親友と要注意人物というなんとも微妙なメンバーだ。
やっぱりあの態度、竹中も赤城さんのことを気に入ったんだよなぁ。
松本はいいとして、初対面で嫌がらせをしかけてくるヤツと一緒ってのは更に雰囲気が悪くなりそうだから、僕も立ち去った方がいいのかもしれない。
なんて考えてる僕を、とりあえず茶でも飲もうと、なぜか竹中がリーダーになって近くの喫茶店に引っ張ってった。
「いやぁ、今日は楽しかった。ヒマだからってんで松本の話に乗ったけどヒマつぶし以上の収穫だった」
竹中はなぜか上機嫌だ。
どうやら松本がダチらに「ヒマなヤツ、先着一名カラオケ来ないか」ってメールしたらしい。そこに一番乗りで返信したのが竹中だったってわけだ。
「カワイイ子と知り合いになれたし、ヒマつぶしで遊べそうなヤツもいるし」
竹中がニヤニヤ笑って僕をちらっと見た。なんだよそれ、僕のことか?
「なぁおまえ、新庄って言ったっけ? おまえ赤城さんって子が好きなんだろ」
突然図星をつかれて心臓が大きく跳ねた。松本に聞かれた時もアセったけど、コイツはもっとヤバい。
「わっかりやすっ!」
竹中がゲラゲラ笑いやがった。松本が軽く頭を抱えてる。
「判りやすいのはあんたもだろ。あんな露骨な態度で邪魔してきて」
むかっとしたからちょっと言い返してみた。
「あー、ありゃ、おまえがあんまりにも声かけんのにビビってるからからかいたくなっただけだ。――けど」
ニヤニヤ笑いを口元に残したまま、竹中はとんでもないことを言いやがった。
「確かに赤城さんはかわいいし、本腰入れて狙ってみるのもいいかもなぁ」
とんでもない! 赤城さんに近づくのでも絶大なる勇気がいるってのに、この上ライバルなんてできたら……。
「けどまぁ、おまえが先に目ぇつけてたんだし、ここは譲歩してやるか」
ん? 今の「狙ってみる」発言もからかいってことか? 譲歩って言い方は気に入らないけど。
「ひとつ、賭けをしようか。おまえに五日間の猶予をやるよ。その間におまえが赤城さんにコクることができたら、俺は遠慮してやる」
「なんだそれ? つまり五日間の間に僕が赤城さんにアプローチしなかったら、あんたが動くってことか」
「そういうことだ。俺としてはおまえが動けない方に賭けてるってわけだ」
「おいおい本気か? ちょっとそりゃ急すぎないか?」
ここで松本の助け船が入った。こいつにしても予想外の展開だったんだろう。
「本気だぞ。いまどき草食系がモテるとか言われてるけど、そんな世間の流行りに騙されて大人しくなってちゃ女なんていつまで経ったって落ちゃしない。女はある程度強引ぐらいに引っ張ってくれる男がいいんだよ」
そして自分はそれで成功してきた、って顔だな。
なんか、ムカつく。大体、女の子と仲良くなるのに賭けとかって言ってるのが気に入らない。
「お、ちょっとはやる気出してきたって顔だな。そんじゃそういうことで。松本がこの賭けの証人だ。公平な判断でヨロシクな」
竹中は言いたいことだけ言って、コーヒーを一気飲みして席を立った。
「やれやれ、なんかミョーなことになったな」
要注意人物から超危険人物になった竹中が残してったコーヒー代を引き寄せて握りながら松本が肩をすくめた。
「悪いな。まさかこんな展開になるなんて。アイツがあんなこと吹っ掛けるなんて思わなかった」
そりゃそうだよな。松本としちゃ僕の手伝いのつもりが、いきなりダチのライバル宣言で妨害したみたいだもんな。
しかし、五日か。
いろいろと、どうしようかな。
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