第70話 戦闘狂って……


 ふと、顔を上げると……さっきまですぐ側にいたはずのふたりがいない。


 「……あれ?シュウとハリーは?」

 「あー、さっきまでウズウズしてたんだけどねー。いつの間にかあっちに参加したみたいだよ……我慢できなくなったんだろうね」

 

 ベルの指差した先には嬉々として戦闘中のひとたちが……シュウ、あなたも戦闘狂だったのか。わたしが悩んでる間に我慢できなくなったってことかー。

 しかも、ゴーレム班も合流しててさー……はたから見ると大乱闘の様相なんですけど。

 

 「うわぁー……」

 「ま、いつものことだよ」

 「ええー……これがいつものことって」


 え、このパーティなんだか戦闘狂率高くないですかねー?それとも攻略組とかいわれるひと達にとってはこれが普通とか?

 ていうか、外に戦闘音が聞こえたら新型が気付いてやばそうなんだけど?

 一応、ここの部屋は扉を閉め切ると防音仕様らしい(ハリーが言ってた)とはいえ、それでも大きな音を出せば聞こえる場合もあるよね?って思うじゃない?

 たださー……その辺はルールを決めてるみたいで大乱闘なのに結構静かなんだよ?なんか、アレみたい……大乱闘ゲームの音声消したバージョン。画面だけめっちゃ忙しいやつ。気配も薄いような感じだし……ねぇ?おかしいよね?そう思うわたしは正常だよねっ?

 うん、ほら……わたし常識人枠だし、きっと正常な……はず、だよ?

 

 「……ハリーも他のマシンナリー達も全然、負けてないね」

 「うん、マシンナリーって結構強いんだねー」

 「マシンナリー恐るべし……」


 みんな、なんだか目がギラギラしてるしさ……もし、わたしがあの中心にいたなら秒速で死に戻りそうな予感。

 今でも離れてるのにも関わらず、時々結構な風圧を感じるのとかマジでびびる。


 「えっ、ちょっとHP減ったんですけどー!なんでーっ?」

 「……まじで?」

 「うん、まじでっ!」


 これって、ここでは禁止されてるPKとかいうやつじゃないのっ?

 えー、ルールも決めてあるし、パーティ内での模擬戦は問題ない。それにPKはプレイヤーを襲って所持金や装備を奪うことを指してるから……だと?これが模擬戦だって?

 たしかに、所持金や装備を奪おうとはしてないけどもっ!……こらそこ、所持金も装備もあっちの方が上とか言わないっ!ぐすん。


 カンッ……


 「あ!これかっ……」

 「あー……これかー」


 わたしのHPを減らしていた犯人は風圧で飛んできた小さな部品やら床や壁のカケラでしたー。そして、ホコリが結構な勢いで舞い上がってる。

 ……このままホコリの中で耐えたら、耐塵スキルとか覚えないかなー?でも、使う場所がないかー。あ、でも砂漠とかなら役立ちそうだけどなー……ちらっ……ちぇー、覚えられないか。残念。


 「え、このままだとわたしずっとHP減り続けるんじゃ……」

 「ん?避ければいいんじゃないかな?」

 「むー……ベルみたく器用に避けられないよー!こうなったら、瞑想でチキンレースするしかないかな?」


 瞑想の回復が早いか、HPがなくなるのが先か……


 「んー、その心配はないみたいだよ?」

 「あっ!HPが回復してるーっ!」

 

 ……なんで?まだ瞑想してないよ?


 「ルティが回復させてくれたみたいだね?」

 「ルティが?え、でも戦闘してるよね?」

 「ま、いつものことだよ」


 ベルに言われて、戦闘してるルティが回復してくれたってどういうこと?って思って観察してみたら、ルティ……めっちゃ素早く移動しつつ殴ったり蹴ったりしててさー、しっかり参加してる。あれで回復までしてるってこと?

 ルティは戦闘に参加した上、器用にみんなに回復かけてるみたいで……わたしにもしてくれたのはありがたいんだけど、殴った相手に回復してまた殴るってどえすちっくだー……って思ってしまったよね。


 「うわー……ルティもすごいね……AGIどれくらいか聞いたら教えてくれるかな?」

 「リリーになら教えてくれると思うけど、ルティはプレイヤースキル半端ないだからなかなか真似は難しいかもねー」

 「そうなんだ……あれぐらい素速かったら少しは長くうろうろできそうだと思ったんだけどなー」



 うん、まだまだ長引きそうだなー。

……よし、彼ら(戦闘狂)のことは見なかったことにしようかな。ちょっとホコリっぽいけど我慢できないほどじゃないし、耐塵スキルもらえるかもだし……うん、まだ諦めてないよ?

 下手に声かけたら余計被害が出そう……そんな気がする。ただ言えるのは戦闘狂って……わたしとは世界が違うってことかなー。うん、強すぎて言葉も出ないっていうか……半分以上何してるのか理解できなかった。決してわたしの動体視力に問題があるとかではない……はず。


 ……ふぅ。そぉっーとベルを盾にしてっと……ベルは苦笑いしつつもちゃんと意図を感じとって盾になってくれた上、時々飛んでくるカケラを杖で器用に弾いてくれる……すごー。わたしもベルの真似してオリジナル武器を振り回してみたんだけどことごとく空振りだった……ぐすん。

 

 ……さて、なんの話してんだっけ?


 えーっと……あっ、思い出した!ポイントで何を交換するか悩んでたんだった!

 いやー、戦闘狂たちがいろいろと衝撃的すぎて……すっかり、ね?

 転移陣設置キットは正直使うかわかんないし(使いこなせないとも言う)そもそもマシンナリーさんとこ以外の街とか行ったことないから設置場所にも困っちゃうもんねー……えっへん←

 そういえば運営さんの販売所でも買えるって聞いたような……あー、これとは性能が段違いな上、販売所の転移陣桁がひとつふたつ違うんだって……つまりめちゃくちゃ高い。買えるのはほんのひと握りだとか……

 え?マシンナリーさん達のところに設置すればいい?鐘の下の転移陣があるから必要なくない?

 まぁ、ひとりじゃMP全く足りないから転移できないんだけどさぁー……ふむ。わたしひとりでも転移陣使えるようにMPについてもどうにかしないといけないなー。ひたすらレベルアップ目指して頑張るとすれば……えっと、レベルアップした時のステータスポイントも全部振り分けるとしてー……うーん、レベル18くらいまで上がればひとりでも使えるようになる、かな?

 な、長いっ!先が長すぎる……他の方法を探さなくちゃダメかなー。


 「さて、リリーさんや……どうするか決まったのかい?」

 「あー……ごめん、まだ。ベルもあっちに参加したい?それなら行っても大丈夫だよ?」


 ……もしかしたらわたしは死に戻るかもしれないけど。いや、きっと、大丈夫。案山子さんが気づいて守ってくれる……はず。多分。


 「あー……遠慮しとくわ……あれはちょっとキツイからリリーの相談係兼盾に徹するわ」


 ほっ……助かったー。

 ふむふむ。ベルはガチ勢だけど戦闘狂ではないのか……そして盾役も継続してくれると。ありがたい……だって今も結構な勢いでいろいろ飛んできてるからね!


 「そっかー。じゃあ遠慮なく」

 「うん、これくらいの盾役ならよゆーだから安心して」


 ん?これがよゆーって……ベルもすごいんだねぇー。ますます、前線ってやばいひとしかいない予感がするわー……


 

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