第40話 親友 ーside 茉由ー

 わたしには親友がいる。

 小さな頃からだから、かれこれ10年以上一緒だ。

 その子はマイペースというかなんというか……うん、いい子なのに違いはないけど、いつも自分がついてないと言ってる。

 いや、由莉奈がついてないならほとんどの人が不運になっちゃうよってくらいリアルラックが高い。福引とかも結構当たってるみたいだし……まぁ、大概本人が欲しいものじゃないからついてないっていうんだろうけど、由莉奈のお母さんはそれをわかっててあえてくじを引かせてるっぽい……うん、由莉奈のお母さんは策士だからね。


 そして、由莉奈がまたやってくれたっ!福引でゲームをゲットしたというのだ。しかも超レアなヤツ!事前登録が怪しいって電話がきたから、ちゃんと登録しなよって言ったけど大丈夫かな……


 ここ数ヶ月、いつにもまして自分が付き合いが悪くなった自覚はある。それはゲームのせいだ。ゲームが面白すぎるのがいけない!

 でも、由莉奈も福引でゲットした(これのどこがついてないんだか)のでちゃんと登録できていればゲームの中で一緒に遊べる!ふふ、楽しみ……


 「そうだ、兄貴!由莉奈が『Select Life Online』ゲットしたって」

 「へー……どうやって?」

 「ほら、最後のパッケージで有名なアレで」

 「まじか……さすがリアルラック高いな」

 「うん、ゲーム内で会えたらうちのクラン誘うつもりだけどいいよね?」

 「あー、俺は構わないけど……うちのクラン、クセ強めなんだよなー……由莉奈ちゃんが嫌がらないかな」

 「んー……多分大丈夫だと思うよ?由莉奈だし」

 「なら、俺は全然いいぞ。多分、クランメンバーも由莉奈ちゃんなら問題ないだろ……」


 はぁー……由莉奈もハマってくれたらゲーム内でたくさん遊べるんだけど……まぁ、最初は色々教えたり、レベル上げたりしないといけないけど……楽しみだなー。

 あっ、クールタイムも過ぎたしログインしなくちゃ。


◇ ◇ ◇


 その後も由莉奈からもたらされる情報が多いこと……職業を農家にすると畑と家が貸し出されるということを知ったり、キャラメイクの時の情報が意外と重要だったりして驚いたり……もちろん速攻でアイテムボックスの容量をふやそうとギルドに行って、てんやわんやしたのは言うまでもない。

 兄貴やクランメンバーを巻き込んで検証してから情報屋に持っていった。情報屋もかなり奮発してくれたから由莉奈もそこそこの装備が揃えられるはず。

 検証を手伝ってくれたメンバーには由莉奈の取り分はそのままにわたしの方の取り分を分けることにした。これで、由莉奈もクランメンバーに受け入れられやすくなったはず。うん、好印象……というのもクセ強めだから仲良くなるのに時間かかる人もいるんだよね。

 それとみんなで初期装備で5回ほど死に戻った……うん、無事に称号ゲット。他のプレイヤーの目?そんなのスキルポイントのためなら何でもないよ?これも同様に情報屋へ持ち込む……


 今日は由莉奈……いや、リリーとの待ち合わせだからキリのいいところまでって思ってたら時間ギリギリになっちゃった!やばっ。急いで待ち合わせ場所へ向かう。


 確か、リリーの容姿は髪の毛は腰くらいまであって色はオリーブグリーン。麦わら帽子が目印だっけ……ん?そんな子どこにもいないんですけどっ!


 「おかしいなー……」


 方向音痴な由莉奈のことだからもしかしたら間違えて違う門にいるかもしれないと念のため他の門も回ってみる……が、いない。


 「あれー、いないな……」

 

 リアルで1時間経ったので、拠点に戻りログアウトして電話……


 「もしもし、由莉奈?本当にいた?」

 「うん、西門の内側にいたよ?花壇のそばのベンチにずっと座って待ってたけど……」

 「……そう。見つからなくて全部の門回ったんだけどなー」

 「うーん……すれ違ったのかな?」

 「……どうだろう」


 見落とし?……タイミングが悪かったのかな。


 「ま、会えなかったのは仕方ないしもう少し1人で頑張ってみるよ……茉由ちゃんだって忙しいでしょ?」

 「でも……」


 せっかく、由莉奈と一緒に楽しめると思ったのに……


 「んー、どうしても困ったらまた相談するから。そうだなー……夏休みはゲーム内で一緒に遊ぼう?」

 「わかった。困ったらすぐ言ってね?またはじまりの街に行くことがあれば待ち合わせしようね!今度は確実に会える場所でさ!」

 「うん、街中で迷子にならないよう道覚えるね」

 「期待しないで待っとくわー」


 はぁ……ま、いいや。会えたらいろいろ楽しもう。


 そんなこんなしてるうちに誰かが天籟の鐘を鳴らして次のステージが開放されて、なかなか次の街へつながる洞窟は見つからない上、最初に見つけたガチ勢も情報を流さない……きっと自分たちが次のステージに一番乗りするまでは情報屋に売らないんだろうな……って思ってたらようやく情報屋に情報が入った!みんなすぐに出発……しかし、洞窟のモンスター強すぎてちゃんと準備しないとダメだわ……チッ、なんてタイミングでログイン制限!はぁ。


 「あ、由莉奈との待ち合わせ……」


 このままだと気づかないうちにすっぽかしちゃう!やばい……電話してみよ。


 「不在かー……由莉奈もログイン中かな?」


 お風呂やご飯を済ませていると……あ、電話。


 「もしもし?」

 「もしもし、由莉奈だけど電話くれた?」

 「うん、そうそう」

 「で、どしたの?」

 「えっと昨日……いや、ゲーム内だと数日前か。ワールドニュース流れたじゃん?」

 「はいはい、あれね!」

 「それで次のステージへ行くための洞窟の場所がやっとわかったんだよ!」

 「へー……意外と時間かかったんだね」

 「うん……結構厄介な場所にあってさ、情報買うまでわからなかったんだ……だから街への1番乗りはダメだったー。やっぱり最初に発見した人たちが1番乗りらしい」

 「そっかー」

 「だからさ……悪いんだけど待ち合わせの日を数日遅らせてもいいかな?」

 「ものすごく申し訳なさそうに言うから何事かと思ったよー……すっぽかされたわけじゃないし、待ち合わせまでまだ日付があるのに」 

 「いやー、それもそうなんだけどさ。毎日ログイン制限ギリギリまでやってるから早めに言っとかないと忘れちゃいそうで、余裕を持って電話したんだよね」


 由莉奈も快く延期を受け入れてくれた。よかった……

 

 「じゃあ待ち合わせを来週の月曜日に変更でもいい?」

 「うん、また変更したかったらいつでも言ってね?」

 「うん、ありがとー。頑張って次の街へたどり着くわ!そうだ、由莉奈は何して過ごしてるの?」

 「うーんとね……畑仕事したり、案山子さんと行動したり……あとは農業ギルド行ったり?」

 「案山子?」


 案山子って鳥避けとかのアレだよね?


 「うん、畑のお世話を手伝ってくれてるんだー」

 「へー。そういえば……方向音痴はどうなった?少しは改善した?」

 「うん?相変わらず地図スキルを頼りにしてますけど?」

 「流石にはじまりの街の地図は埋まったよね?」

 「……え?」

 「……は、まさか」

 「えへへ」

 「はいはい。迷子にならないよう頑張って……ま、はじまりの街はそんな広くないからなんとかなるよw」


 多分、迷子にならなければ由莉奈でも1日くらいで埋められるはず……


 「え、はじまりの街であんな広くて困ってるのに……他の街より小さいだなんてっ!」

 「うん、今のところ次の街へ進むごとに広くなってる感じかなー……」

 「へー……そうなんだ」

 「ということで、わたしそろそろクールタイムあけるから!」

 「うん、頑張ってー」

 「じゃ、来週の月曜日に!迷子にならず待ち合わせ場所で待っててねー」

 「りょーかい!」


 早速ログインし、深夜まで頑張ったけど次の街へたどり着けないまま……またログインの時間制限でログアウト。


 「はぁ……1日のログイン時間のびないかなー。足りない、時間がもっと欲しい……」


 いくら夏休み入って深夜までゲームできるとはいえログイン制限はどうしようもない……とか言ってたらその間に兄貴たちが次の街へ進んだらしい。ログインしたら自慢されてしまった。しかも、金にモノを言わせて拠点までしっかり手に入れたとのこと。まぁ、その資金もクランから出してるからわたし達も貢献してるんだけどね。

 先越されて悔しいけど、わたし達のパーティでは火力不足のため手伝ってもらうことになった。

 拠点にある程度メンバーが揃ったので早速出発……みんなでわいわいと街を歩いていると……ん?あの格好。いや、まさか……うーん、由莉奈ならありえるかも。


 「あっ!シュウ……あの子見て」

 「ん?……え、まさか」


 あ、目があった……似てる。


 「ベル?どうしたの?」

 「うん……ちょっとごめん知り合いかも。行ってきていい?」

 「うん」

 「いってらっしゃい」

 「じゃあ、ギルドでクエストでもチェックしてようかしら?」

 「りょーかい」

 「あ、ベル!俺も行くぞ!」

 「うん」

 

 ほぼ確定だろうけど……いろんな疑問で頭がいっぱいだ。

 気付けば麦わら帽子にエプロン姿、隣に案山子がいるその子の元へ走り出していた。

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