第17話 学校にて その2


 「茉由ちゃん……大丈夫?」

 「うん……この称号も聞いたことないけど、お金全部ギルドに預けて装備も初期装備にしてやってみようかな?ポイント狙いで……能力値半減しても死に戻るだけなら問題ないし、誰でも取得できる可能性があるなら情報屋に持っていけば結構高値で売れるかも」

 「ふーん、みんなあんまり死に戻ってないんだねー……」

 「ほとんどのプレイヤーは出来るだけ死に戻らないようにしてるし、3回は死に戻ってもアイテムロストを嫌ってそこで街の外に出なくなるからなぁ……だからこの称号が今も話題になってないんだよ」

 「わたしだって死に戻らないように頑張ったよ!スキルだって取ったのに……」

 「どんなスキル?あ、もちろん秘密にしたいなら聞かないけど……」

 「ん?別にいいよー。えっとねー……毒耐性と麻痺耐性でしょー。あと気配察知と隠密かなー」

 「ほー……あれ、はじまりの街の周辺に毒持ちなんていたっけ?」

 「いっぱいいるよー……蜂に刺されると麻痺になるし」

 「ごめん、その辺走り抜けて森の奥でレベ上げしたんだった」


 自慢かー!むー……

 あー、美味しかった。ごちそうさまでした。


 「わたしが始めた時はさ、β組と第1陣だったでしょ?ほとんどが前線目指してたし、レベルアップのためにモンスターの奪い合いになるのが目に見えてたから少し無理して奥に行ったんだよ」

 「へー」


 なんだ、そうだったのか……もしかしたらあの森の奥では第3陣のプレイヤーがたくさんいるのかも。わたしが最後にはじめたならそういうこともあるかー……

 

 「でもさー、思ったより街の外のモンスターが強くてすぐ死んじゃうんだよね……」

 「んー……そんな強くないはずだけど……由莉奈、武器は?」

 「武器……投擲ナイフ?もしくは石?」


 うん、間違ってはない……むしろ石を投げてることの方が多いからね!


 「由莉奈さ、なんでそんな扱いの難しいの選んだの?」

 「え、難しいの?確かに最初は全然当たんなかったけど……」

 「難しいっていうより、素人がメインにするには頼りないっていうか。ナイフも拾わないと消滅してお金かかるし……」

 「へー……スキルポイントが短剣より高いってだけで初回ボーナスでお得な方を選んだだけだよ」


 茉由ちゃんは若干呆れた様子で


 「はぁ、そんなことだと思ったよ……」

 「そうだ!ナイフはねー、無くしたくないからロープをくくりつけたよ。それまではひたすら石を拾っては投げて練習だよー……何度死に戻ったことか」

 「へー、ロープとかつけられるんだ。何気に努力したんだね」

 「そうだよー!街の外を歩くときは石を初期装備のズボンのポケットに入れてナイフの予備にしてあるよ!街中では危ないからナイフはアイテムボックスにしまってるけどね」

 「……まだ初期装備なんだ?」

 「うん、あれって便利だよねー。いくら死に戻っても汚れないし破れないもん」

「あー……そういう考え方もあるね。防御力は紙だけど」


 あれ、茉由ちゃんが遠い目をしてる……変なこと言ったかなー?


 「あっ……そーいえば、種族レベルって死に戻るだけじゃ上がらないのかなぁ?やっぱモンスターを倒さないとダメなの?全然モンスター倒せる気がしなくて、いかに長時間ウロウロできるかを目標に頑張ってるんだけど……」

 「うーん、死に戻っても微々たる経験値は入ってるはずだよ?もちろん倒せば最初はあっという間に上がるけどさー」

 「そっか。じゃあ、いつかは種族レベルも上がるかもしれないねー」

 「そうだね……ま、合流できたら少しは手伝ってあげるから安心して」

 「ありがとう」


 その後もお昼休みの間、根掘り葉掘り聞かれ、話すたびに茉由ちゃんが頭を抱えた。特に迷いの案山子さんのことを話したら全然知られてない情報だって驚いてた。確かにグランツさんしか所有してないんだから知られてなくて当然だよねー。


 「はぁ、とにかく早急に待ち合わせないと……いい?はじまりの街に今日のリアル時間の18:00、噴水前で待ち合わせしよう?」

 「あ、それ無理……迷子になっちゃうから西門の前にして。そこなら迷わずにいけるから」

 「へえ、ゲームの中でも方向音痴は変わらずか……そっか地図持ってないのか、はじめたばかりだとお金足りないもんね……わかった。西門の前に行くから動かずに待ってて。リアルで1時間経っても会えなかったら一旦ログアウトして電話するから」

 「りょーかい」

 「そうだ、念のため由莉奈の容姿とプレイヤー名教えてくれる?」

 「うん、プレイヤー名はリリー。髪の毛は腰くらいまであって色はオリーブグリーン。瞳は黄色っぽい黄緑だよ!多分、麦わら帽子かぶってるからそれのがわかりやすいかも」

 「麦わら帽子……」

 「うん、もらったんだー」

 「あ、そう……」

 「そういえば茉由ちゃんは魔法メインの戦闘職だっけ?」

 「うん、プレイヤー名はベルだよ。容姿は赤い髪のショートカットかな。楽すぎてリアルでも短くしたいくらい」


 おおー、リアルとは正反対だね……リアルの茉由ちゃんは天然パーマの柔らかい髪を2つに結んで外見だけは美少女さんだからね。中身はちょこっと辛口の姉御肌のゲーム好きだからギャップに驚く人もいるらしいよ……


 「そうなんだー。鈴木茉由だからベル?」

 「そう、わかりやすいでしょ?由莉奈も名前からでしょ?」

 「うん、最初リリィにしようとしたらもう使われててさぁ、リリーになったの。そうだ、しゅーへいくんは?」

 「兄貴はシュウだよ……β版の時からそのまま使ってるんだって。そのうちゲーム内でも会えるはずだよ」


 茉由ちゃんとしゅーへいくんは同じクランに入ってるけど、メンバーがそこそこいるのでパーティとして一緒にすることは少ないみたい。しゅーへいくんがβ版からのつきあいの生産職や戦闘職でクランを作ったとかで、クセの強い人が多いんだって。決して悪い人じゃないらしいけど……


 「そっかー……でもさ、茉由ちゃんは前線攻略?とかで忙しいんでしょ……大丈夫なの?」

 「うん、今ちょっと停滞してるんだよね……フィールドボス倒しても先に進めなくて、なんか仕掛けがあるんだろうって……」

 「へー」

 「みんな北の山が怪しいとかいって篭りっきりだよ。あー、早く夏休みにならないかなー」

 「夏休みまであともうちょっとじゃん」

 「まあ、そうなんだけど……待ち遠しい。他のメンバーはわたしがログインしてない間にどんどんレベルアップしてるんだもん」

 「そっか……ところで茉由ちゃん、次の授業、移動だけど……お昼、早く食べないとやばくない?」


 茉由ちゃんのお弁当ほとんど減ってないけど間に合うのかな?


 「えっ、やば!」

 「食べるの手伝おーか?」

 「大丈夫!とにかく18:00待ち合わせ忘れないでね」

 「りょーかい!」


 茉由ちゃんはなんとか食べ終え授業に間に合ったのでした。※茉由ちゃんは特別な訓練を受けています。皆さんはよく噛んで食べましょう。

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