015―前置き

 俺の通っている高校は一応国立の学校となっている。


 『国立関東区対特異犯罪警備育成高等専門学校』。通称、特異高専。字面にすると馬鹿みたいに長い名前だがこれでも“特警”を育成する機関としては日本に7つある特警校ではトップの成績を誇り、世界規模で見てもトップクラスの学校である。そのため、教師の質も高く生徒も優秀であり、ある意味では日本で一番安全な場所でもある。


 と、世間一般のうちの学校に対するイメージはこうだ。大体間違ってはいない。


 が、一つ間違っている。


 ここほど危険な場所は日本にはないだろう。


 教師の質が高い?


 ああ高いさ。高いが、普通のまともな神経を持っている教師なんて本当に少数だ。


 元警官、元軍人、元傭兵(⁈)、etc。とにかく特異犯罪者たちと第一線で戦っていた人たちだ。もちろん野沢もそうだ。そんな人たちが普通に教師なぞできるはずはない。


 実際月に数十人単位で怪我人が出るし、中には死人も出てるという噂もある。


 それだけじゃない。教師だけでなく生徒側にも危険な奴は多いということも理由の一つだ。


 血の気が多すぎるのだ。皆が皆そうという訳ではないが基本的に戦闘狂が多い。


 教師も生徒もそんな感じだから、模擬戦(という名の教師のいじめ)やら実践訓練(という名の命がけの戦い)が怪我人の数と同じ位にある。


 まあ、そんな危険で安全な所だからこそ今まで一度としてテロなんかにあったことは無い……テロ紛いの事をする教師なんかはいるが襲われたことは無い。


 そりゃそうだ。なんせそんなところでテロを起こすなんて、自分から死にに行くようなもんだ。


 が、そんなうちの学校が襲われたのは、メデスとの『公園パンダさん殺人事件』の起こった一週間後の事だった。


 その時の俺は、あまりにも馬鹿で、愚かで、哀れで、滑稽で、そして弱かった。


 結局自分では何もできなくて、他人に頼るしかなくて、守ろうとしたものに守られて。

 結果を言えばその事件は犯人が逃走したことで解決した。と、表向きはそうなっている。


 だいたいはそう。間違ってはいない。が、実際は違うのだ。犯人は逃走したのではない。犯人は逃走したのではなく敗走したのだ。誰かが交戦したことが公になっていないのだ。

 実際は。

 事件は犯人が倒されたことで解決したのだ。

 

 その日の事を、俺は一生忘れないだろう。建物が壊れ、人の赤い血が流れ、大切なものが傷ついた事を。

 人を知り、裏切りを知り、嘘を知った事を。


 俺は一生忘れてはならないだろう。俺が、初めて人を殺す覚悟をした、その日の事を。

 

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