第39話 ミッション5-4 その5
マザーコンピューターの部屋に入ると、10人がやっと入れるぐらいの広さの部屋で、全ての壁にモニターとコンソールが設置されていた。
そして、暗い部屋の中で作業するドローン機械を、モニターの画面と点滅するライトが照らしていた。
すぴねこ 『……思っていたよりも狭いな。それで、どれがマザコンなんだ?』
ねえさん 『略し方が酷い』
すぴねこ 『そいつは失敬』
ミケ 『すぴねこが酷いのは何時もの事でしょ』
ミケがゴキブリを見る様な目で俺を睨んだ。
アンダーソン『恐らくこの部屋は管理コントロールルームだ』
俺が首を傾げていると、アンダーソンが部屋を見回してから答えた。
ちなみに、俺が首を傾げていたのは、マザコンの所在ではなく、俺の何が酷いのか分からず考えていたから。
ボス 『どういう事だ?』
アンダーソン『慌てるな。何故か今の俺はバグス語が分かるらしい。調べてみる』
アンダーソンはそう言うと、部屋の中央にある一回り大きいモニターの前に立ち、コンソールを操作し始めた。
シークレットクリアの報酬のバグス語……今まで謎だったバグス語を理解したというメッセージは、俺達が理解したという意味ではなく、アンダーソンが理解したという意味だったのか?
アンダーソン『このコンソールは有線でマザーコンピューターに繋がっている。この近くにあるのは間違いない……リモートでシャットダウンは権限がなくて無理か……やはり直接の破壊しか手段はなさそうだ。それと、これは……!?』
説明しながらコンソールを弄っていたアンダーソンだったが、口を閉ざすとモニター画面のバグネックス語を読んで何かを考え始める。
そして、30秒ほど経ってから、アンダーソンが口角の片方を尖らせて笑みを浮かべた。
アンダーソン『ここからサーバールームのセキュリティーレベルを下げられるらしい。こいつは、バグネックス語を全部理解しないと分からなかったな』
そう言って、アンダーソンがコンソールを再び操作する。
ボス 『セキュリティーレベルが下がるとどうなるんだ?』
アンダーソン『マザーコンピュータールームはセキュリティー対策で、侵入者に対する排除装置があるらしい。今、ソイツを解除した』
すぴねこ 『……なるほど。これがシークレットミッション全クリアの恩恵か』
アンダーソンはコンソールを弄ると、俺達が立っていた場所の左の床が左右に割れて、エレベーターリフトが現れた。
アンダーソン『そのリフトでマザーコンピュータールームに降りれる。準備ができたら乗ってくれ』
アンダーソンの指示に全員が頷いて、エレベーターリフトに乗る。
アンダーソン『行くぞ』
アンダーソンがエレベーターリフトのパネルボタンを押すと、俺達を乗せたエレベーターリフトは下へと降り始めた。
管理コントロールルームの下は、青い電飾の光り輝く壁に囲まれた場所だった。
幻想的で美しい壁の中を、エレベーターリフトがゆっくり降りて行った。
チビちゃん 『きれいな場所だね』
チビちゃんが「ほわぁぁ」と口を半開きにして呟くと、ミケとねえさんも彼女に同意して頷いていた。
アンダーソン『これが全てマザーコンピューターだ』
ドラ 『マジか!?』
アンダーソンの話にドラだけではなく、全員が驚いて改めて光る壁を見ていた。
アンダーソン『何億人居るか分からないが、改造された全バグスを管理しているんだ。その分だけ巨大化してるのだろう』
すぴねこ 『冗長性の無さそうな設計のコンピューターだな』
清掃のおばちゃんがコンセントに足を引っかけたら遮断しそうだ。
そして、光の壁を百メートル下に降りたエレベーターリフトは、野球場ぐらいあるドーム型の場所に出るとその床で停止した。
ドーム状の部屋の壁は、リフトで降りた時の壁と同じ青い電飾で囲まれ、まるで海の中に居るみたいだった。
部屋の中は、中心を囲むように用途不明の大小様々なサーバーラックが配置されていて、そのドームの中心には高台があり、ガラスケースが置かれていた。
そして、そのガラスケースの中には、今まで見た事のない生物が水溶液の中で光り輝き浮いていた。
水溶液に浮かぶ謎の生命体の姿は、人間の少女に似ていた。
身長は見た感じ150センチ前後、やせ型で背中の中ぐらいまである髪が液体の中でゆらゆらと揺れていた。
体は白い光に包まれていて、青いドームの部屋の中で存在感が際立っていた。
そして、少し近づいて顔を見ると……その額には、人間にはない第三の目が付いていた。
チビちゃん 『可愛いね』
俺はゲームキャラでも女の顔の良し悪しは分からないが、チビちゃん曰く、どうやらこの光る生物は可愛い部類に入るらしい。
ねえさん 『これもバグスなのかしら?』
すぴねこ 『ドラ、喜べ。お前の好きなロリータ……いや、お前はミルフ専だったか?』
ドラ 『彼女が1歳年上なだけで、別に熟女が好きなわけじゃねえよ』
ボス 『お前等、緊迫な状況でアホな事を抜かすな』
ねえさん 『ありがとう。今の会話で緊張が全て吹っ飛んだわ。全てが台無しとも言うけどね』
ミケ 『2人共、お願いだから一度死んでその性格を直して』
チビちゃん 『死んでも直らないと思う』
ドラ 『今のは俺は悪くねえぞ』
俺とドラの会話に全員が緊張を解いて、その代償にため息を吐きだした。
すぴねこ 『それで、結局のところ、あのLED幼女は何なんだ?』
アンダーソン『あれは……恐らく…人工頭脳だと思う』
すぴねこ 『……人工頭脳』
アンダーソンの口から人工頭脳という言葉を聞き、昨日のチャーリーとの会話を思い出して眉を潜める。
電話先でチャーリーは、ビショップが完全なゲーム管理を目的とした人工頭脳を開発していて、このゲームのどこかに存在していると言っていた。
ゲーム管理の人工頭脳……そう、このミッションは最初から何処かおかしかった。
今までの敵と異なってAIが防御に徹していたり、逆に攻撃型だったり、また、俺達の侵攻具合で敵の増援があって、決められたシナリオではなく、まるでリアルタイムでバランス調整をしているみたいだった。
そして、一番の異質でもあるアンダーソンの存在。
ミッションの初めにミケに言ったが、このアンダーソンはNPCなのに何となく人間臭かった。
普通に会話をして、名前どころか愛称で呼ぶ。そして、戦闘も俺達に合わせて戦っていた。
彼の思考と行動は、AIの範疇を超えていた。
そうか、それで分かった。
ビショップが生きていた時、シークレットについて頑なに何も言わなかったのは、恐らく人工頭脳の事を秘密にしたかったからだろう。
だけど、何故秘密にする必要があったのか?
それは、ビショップの性格を知っている俺だから分かる。アイツはゲームが絡むと、時々他人の理解を超えた馬鹿を仕出かす。
冗談だと思うかもしれないが、このミッションは……ビショップが俺を驚かせようと仕組んだドッキリだ。
しかも、俺が全部のシークレットを見つけていなければ、ボツになっていたぐらい手が込んでいる。
何故なら、このイベントはケビン達にも内緒で仕込んでいる筈だからだ。
あのケビンは公平なルールがあるからゲームが面白いと考えている。そんな彼が、俺の為だけに特別なミッションを許可するとは思えない。
だけどさ……ゲームが好きだからって、たった1人でここまで人類の技術を向上させるか?
天才だけど、どこかアホ。それがビショップという人間だった。
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