属国日本

豊崎信彦

第1話 属国日本

 太平洋戦争が日本の敗戦で終結してから八十年が経った。戦勝国アメリカは日本を占領下に置いた。アメリカによる統治の仕方は「占領」から「属国」に変わっていた。ほとんどの日本国民はこの事実を知らない。そのお蔭で、戦後の日本が隣国からの侵略に遭わず「独立国家のように平穏で静かに存続出来た」ことも日本国民は知らない。

 数年前から独立国家日本の存続が怪しくなってきた。アメリカの自国第一主義が顕著になり、アジア軽視が加速し始めたのが要因だった。いや、見捨てられたのだ。

 大韓民国の駐留アメリカ軍は完全撤退し、北による侵攻が秒読みに入っていた。日本に駐留しているアメリカ軍も大幅に縮小された。敵対する二大国は「日本属国化」に向けて動き出した。


 ソビエト連邦が崩壊しロシアに変わった。ロシアの指導者となったエヴゲーニ・ミハイロヴィチ・イワノフ大統領は、ロシア大帝国の再構築を目指した。ウクライナやバルト三国、中央アジア諸国を属国にした。更に、トルコを同盟国に引き入れユーラシア大陸で圧倒的優位に立った。

ロシアは、アメリカに対抗すべく軍備を大幅に増強した。音速の八倍で飛行し、撃墜されることなく目標地点に着弾することが出来る極超音速巡航ミサイルや無限の航続距離を有する原子力推進核魚雷を配備した。

 中国の指導者、李紅運リ・ホンユンもロシアと歩調を合わせた。宇宙空間から敵対国を攻撃出来るシステムの構築を急いでいた。

 敵対国の戦術変化はアメリカの国土防衛作戦を大きな変えた。アメリカ本土の水際で防衛しなくてはならなくなったのだ。多額の軍事予算も必要になった。「イエローたちの国」を守っている場合ではなくなった。


 シベリア鉄道終点ウラジオストク市内中心に佇むスターリン帝国様式の重厚な建物の中で、三人の独裁者が密かに会談をしていた。

 会談の主催者は、イワノフ大統領。ロシア人にしては小柄な体格だが、目つきの鋭さには他人を萎縮させる力があった。洞察力に優れ、時の権力者に取り入るのが上手かったのと、KGBので対外諜報活動の経験や国家秘密警察を束ねていたので、権力者たちの弱みを多く握っていたこともあり、四十二歳の若さで首相に就任した。その七年後には、策略を巡らせ当時のルドルフ大統領を獄中死させた。イワノフは大統領に就任すると憲法改正を行い、終身大統領の地位を手に入れた。これで、イワノフが目指すロシア大帝国復興の足場が固まった。

 招待されたのは、中華人民共和国李国家主席と朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員長全栄進ジョ・ヨンジンの二人だった。

 会談から一ヶ月後「日本属国化計画」が始動した。

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