第13話 二校目のジンクス

 私はため息をついた。職員室の座席に腰を下ろしたまま、何度時計を見つめ返しただろうか。まもなく二時間目が終わってしまう。あの教室に行かなければならないと思うと、心が重くなった。

 二年四組、それは私、浜島紗栄子が学級担任を務めるクラスだった。教師になって十年。ずいぶんと子どもたちの様子も変わってしまった。年を重ねれば、経験を積み重ねれば、先生業は楽になると先輩からも教えられた。けれどもどうだろう。私の教室は学級崩壊寸前だった。

 初めて赴任した学校は、とっても荒れた学校だった。毎日のように事件が起こった。けれど、職場の仲間は本当にいい人ばかりだった。講師としての経験しかなかった私を、職場の仲間は何度も助けてくれた。落ち込んでいる私を、飲みに誘ってくれたことは、一度や二度ではない。そのたびに私の愚痴をみんなが聞いてくれた。


 ところが今は、そんな仲間はいない。学級がうまく行っていないのはわかっている。一見うまく行っているように見える学級だけど、子どもたちは不満を抱えていた。陰で私の悪口を言っているのを聞いてしまったのだ。

 そのうえ、周囲の先生からは「四組は授業がやりづらいな。担任なんだから、しっかり指導してよ」と言われる。「二校目なんでしょ?最初の学校で何をやってきたの?」なんて言われたこともある。私は孤独だった。

 子どもたちが私のことを快く思っていないことを肌で感じていた。そのうえ、職員室でも私は孤独だった。



 「このままではいけない」



そう感じていたのだけれど、私には何もできなかった。

 ふと視線を上げると、斜め向かいの先生と目があった。この春一緒に異動になって市立青山中学校にやってきた葉山先生だ。葉山先生は、子どもたちからハテンコー先生などと呼ばれて親しまれている。

 葉山先生は、心配そうな目で私を見ていた。



「浜島先生、なんだか、さっきからため息をついたばかりだね。大丈夫?」



 私は「大丈夫です」と、きっぱりした口調で答えた。負けたくない、そんな想いがあった。二校目という自負。一人前の先生としてのプライド。もう初任者じゃないのだ。

 この学校には若い先生がたくさんいた。青山中学校が初めての学校という先生ばかりだった。だからこそ、私は負けたくなかった。

 葉山先生は何か言いたげな表情で私を見つめていたけれど、私は気づかないふりをして職員室をあとにした。私は負けない。

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