じゃない女

@fuyu0219

第1話

『絶世の美女じゃないんだけどな〜』


あ、またその台詞。


心の中で思うけれど、笑顔をむける。


今まで何度となく言われてきた台詞だった。


テーブルを挟んで向かい合わせに座った彼が優しい笑顔で悪気もなく言ってくる。


彼、は私の恋人だ。


くしゃっとした髪の毛で

くしゃっと笑う顔。

犬みたいで可愛い。


そんなことを考えていたら返事をするのを忘れていた。


『今なに考えてるの?』


聞かれてしまった。


なに考えてたんだろう。


『どこか行きたいなって』


本当に思ってることとは違ったけれど

笑顔で答えた。



夕飯を食べ終えてソファーに2人で座る。


テレビを見ながら、また今日もどろっと溶けたようにここで寝てしまうんだろうなあ。


うとうとする時間の中で

思い出したくない思い出が頭をかすめる。


思い出したくない、のもあるけれど

もはや鮮明に思い出せない。


人間の頭ってうまくできてる。


良くも悪くも、人生で最も。

感情をフルに使って生きた時間を

思い出せなくもなれるのだから。


なんだったっけ。

あの人が好きだったもの。

あの人とよく行ったところ。


もう今なら思い出してもいいような

今さら思い出さなくてもいいような。


今日はベッドで眠ろうとしてたのに

彼の頭が私の太ももにあって動けない。


時計は1日の終わりをこえて

新しい1日の始まりを指差していた。

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