かみよむ!
黒江 ロフスキー
プロローグ
「ん…… 」
僕は草木の匂いとまるで土の上に寝ているような感覚を覚え、閉じていた目をそっと開いた。
目を開けると目には頭上をおおう巨大な木と、その太い枝の上からこちらをうかがう額に水色の宝石のような物をはめたリスのような生き物が目に入った。
「あれは魔リス? それにこの景色は……始まりの森……だよね? 昨日の続きじゃなくて? あれ? 視点が低い……いやいやいや、ちょっと待って! 色々とおかしい! 」
僕は寝転がっていた状態から上半身を起こし、自分の身体を確認した。
青いローブに革のズボンにブーツ、そして腰には護身用のナイフと足もとに横たわっている1mほどある木の杖。
それは何度も見た、あの世界の主人公の初期装備そのものだった。
「この装備は主人公のユウの物……夢……じゃないよね? 」
僕は自分の手をみつめ、何度も開いたり閉じたりを繰り返した。そこへふと暖かい風が頬を撫でるように通り過ぎていった。
このリアルな感触……夢じゃない。ならここは本当にあの世界……
「ス、ステータス! 」
僕はここがあの世界なのか確認するために、ステータスを確認しようとした。
ここがあの世界ならウィンドウが現れるはず。
ユウ
Lv.1
職業: 賢者
HP: 28
MP: 30
力: 12
防御: 12
魔力: 15
素早さ: 13
SP: 0
魔法: ファイアーボール・ウインドカッター・ヒール・シールド
加護: リアラの加護(成長率2倍)
「本当に現れた……」
僕は目の前に現れた、半透明のステータスウィンドウを見て呆然としていた。
そしてあることに気がついた。
「あれ? 成長率は20倍に設定したはずなのに2倍? でもそれ以外は全く同じステータスだ……」
加護がダウングレードしているけど、でも間違いない。
僕は……僕が創った物語の主人公になっている。
でもなぜ? 今までは夢で見ているだけだったのに……
もしかして総合ポイントが100ptを超えたからその特典?
だとしたら凄い……自分で創作した物語の世界に行けるなんて凄すぎる。
まさかあの時に受け取ったタブレットに、ここまでの能力があったなんて……
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
ーー 5日前 ーー
春休みも残すところあと5日となり、週明けから高校2年となる僕は家でドラクーンクエストのレベル上げをしていた。
「今日はこれくらいにしておこうかな。ふぅ……早く学校始まらないかな」
僕はゲームをやめ、腰掛けていたベッドにそのまま寝転がり天井を見つめながらそう呟いた。
別に学校が好きなわけじゃない。生まれつき身体が弱い僕は武道が盛んなあの学校には場違いな存在だ。
それを言ったら男子は強くあるべしという、昔ながらの風潮が未だに根強いこの日本
でもあそこには2年想い続けてきた好きな女性がいる。
強くて美しくて、常に凛としている憧れの女性。
「
ピンポーン
「あれ? こんな時間に誰だろ? 」
僕が先輩を思い浮かべていると、玄関のインターホンが鳴った。
もう夜の8時だ。母さんは……今日はいないんだった。高校の同窓会に行ってて遅くなるって言ってたっけ。
部屋から出てリビングにあるインターホンの画面を覗くと、そこには宅配便の制服を着たお兄さんが立っていた。
父さんからのお土産かな?
僕の父さんは皇国海軍の巡洋艦の副艦長をしている。仕事柄一度海に出ると3ヶ月は帰ってこないんだけど、帰港した国からよくお土産を送ってきてくれるんだ。
僕はまた変な置物だったら嫌だなと思いつつも印鑑を持ち、玄関のドアを開いた。
「こんばんは〜 佐竹急便です。
「あ、はい。僕です。あ、ここに印ですね。はい。ご苦労様でした」
僕は伝票に印鑑を押し、配達員の人から荷物を受け取った。
荷物は60cm四方の小包で、荷物の送り主の欄をを見るとカミヨム運営と書かれていた。
「カミヨム? カミヨム……あっ! あれか! 」
当初カミヨムってなんだかわからなかった僕は、記憶を辿りその名前を思い出した。
あれは今から2ヶ月ほど前。
M-tubeを見てたら新規の小説投稿サイトが立ち上がるっていう広告が出ていて、Web小説サイトはよく見に行くからどんなサイトか気になって詳細を開いてみたんだ。
そしたらそこにはカミヨム小説投稿サイトという名で、自作の小説を書いて投稿すれば抽選で300名に最新型のタブレットが当たるって書かれていた。
それを見て僕は、え? 300人も当たるの!? と驚いた。これは応募するしかないと、応募方法を見たら応募期間が残り3日しかなかった。
どうやら短編でもいいみたいだったので、僕は急いで何を書こうか考えた。
それまで小説なんて書いたことがなかったけど、ラノベやネット小説はかなり読んでたからそれほど難しいとは思っていなかった。正直アマチュアの小説投稿サイトは、僕でも書けるんじゃないかと思えるような物も投稿されてたしね。
そんな風に思っていた時期が僕にもありました。
甘かった。書くには書けた。家族や友人には絶対見せられない、僕に似た主人公が最強になるものを書くことができた。
エルフの可愛い女の子も登場したりして、仲良くなったりもする。もちろんラッキースケベは欠かせない。
書いてる時は凄く楽しかった。
自分だけの世界。主人公やその周囲のキャラを自由に動かして物語を綴っていく。
魔物の襲撃を発生させたり、様々な魔法やアイテムを創って登場人物に与えたり。
僕はなんだか創造神になった気分だった。
けど、読者視点で読み返してみると、句読点が変なとこについている事に気が付いた。
そしてよく読むと話の前後がおかしかったり、挙げ句の果てにはたった3話なのに既に話が矛盾していたりもしていた。
正直どうしてこうなったと愕然とした。小説を書くのは楽しい。けど難しかった。
一から書き直したかったけど、締め切り間近なので泣く泣く投稿した。
受付が終わってサイトが本格始動したら、絶対修正しようと心に決めていた。
でも受付が終わって2週間が経っても、カミヨムの特設サイトにいつ正式オープンするのかの情報が無かった。そうこうしているうちに春休みに入り、サイトの存在を忘れかけていた。
しかしそのカミヨムから今日小包が届いた。
登録していない住所がどうしてわかったのかは、もうどうでもよくなっていた。
僕はもしかしてという気持ちを抑え込みながら小包を開けると、そこには真っ白なタブレットが鎮座していた。
「うわっ! 本当に!? やった! 当たった! タブレットだ! 」
僕は飛び跳ねて喜んだ。頬ずりまでしたくらいだ。
この時の僕はまだ知らなかった。
このタブレットが僕の夢を叶え、幸せを運んでくれる夢のタブレットだということを。
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