第57話 幕間
「ここまで育ててやった恩を忘れ噛みつくとは、忌々しい……!」
4頭立ての馬車が街道を進む。既に皇国首都を出発したコライテッド家の馬車の中で、公爵は苛立っていた。
3年前、長年の計画をついに実行に移し法皇88世の暗殺を成し遂げ、予定通り無能そうな東部出身のセレマウを法皇に据え、彼女を傀儡の法皇として操ることに成功した。ここまで全て予定通りだったのに。
昨日、クラックス侯爵からリトゥルム王国の女王が潜入してきているという話を聞いた時など、これで一気に大陸東部を支配できると喜んだというのに。
あの無能なセレマウが、あの場において自分の意思を主張するなど思わなかった。
自身への畏怖を与え、言いなりにしてきた小娘にしてやられた思いに公爵は歯ぎしりする。
あの場には精鋭は置いていなかったが、たった数人相手にその百倍近い人数に加え、シックスがいれば間違いなく彼らを制圧できるだろうとたかをくくるも、リトゥルム王国の女王を人質として戦場へ向かう予定だった計画が狂ってしまったのだ。
だがこの苛立ちを和らげる案件もある。
「東部での反乱発生は好機よ。ここを逃すわけにはいくまい」
コライテッド公爵の握る情報網は、リトゥルム王国東部で反乱の疑いがあることを数か月前から察知していた。元々リトゥルム王国東部は建国の折、英雄王イシュラハブと争い、軍門に下ったウェブモート家が治めていた土地なのだ。本来リトゥルム王国も小国家の一つに過ぎなかったが、リッテンブルグ公国を従えた後、現王国西部、南部と次々と支配下に治めたイシュラハブと最後まで争っていたのが東部のウェブモート王国だったのである。
大半の領土はイシュラハブの人間的魅力に惹かれ軍門に下る中、抵抗を続けたのが先々代ウェブモート家当主であり、その反骨心はリトゥルム王国に軍門を下った後も消えていなかったようだ。
リトゥルム王国東部の更に東側には未だに抵抗を続ける小国家群があり、今回の反乱はそれらの地域も巻き込んだ反乱となっているとの諜報部の知らせであった。
反乱の発生と法話の時期が一致したのは偶然の産物であったが、この機を利用して反乱軍とセルナス皇国の挟撃によりリトゥルム王国を滅ぼそうと計画が練られたのが2か月ほど前であり、全ての準備は順調だったはずなのである。
セレマウが何を望もうが、戦端が開かれてしまえばもう後には退けない。
殺し合いの最中、手を取り合うことなど人間には出来はしないのだ。コライテッド公爵もカナン教の信徒ではあるが、神の教えが本当に実現できると思うほど、コライテッド公爵は敬虔な信徒ではない。
平和は権力と同様、勝ち取るものである。
そんな思惑を抱き、エドガーが率いる軍勢に早く追いつくようにと、公爵は御者へ指示を出すのだった。
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