第2話 あいつは昔からそうだった。
中一の初夏。こんなことがあった。
「よーし! それじゃ罰ゲーム! 久留宮実に告白してこ~い!」
委員会が終わって帰ろうとしたとき、それはそれは楽しそうな男子の声が教室から聞こえてきた。
またやられた。
でも大丈夫。こんなの慣れている。
慣れているのに……。
どうして足が動かないの?
早く通り過ぎたいのに。
「なあ、それは酷いんじゃねーの?」
その言葉が発せられた直後、教室の空気は凍りついた模様。
声の主は、
私は、そこから最も近いトイレに駆け込んだ。そして泣いた。
ジン、あんたは……。
今後、自分がどうなるか分からないの?
どうして昔から、そんなに優しいのよ!
あいつは私が通っていた小学校に転入した。小学三年生のときだった。
「うわっ、すっげーな!」
いきなり真後ろから声が聞こえ、私はビクッとして振り向いた。
転校生の人……。
「酒見、久留宮に近寄ったらダメだ!」
あーあ、始まった。
どうしてくれるのよ、せっかくのお絵描きタイムを。
「この子、暗いし楽しくないよ」
「絡んで得しない奴」
「そうそう。絵を描くことしかできないんだから~」
グサリ、グサリ。
もう言われ慣れているはずの言葉の数々。それなのに、なぜ悲しくなるのか。
頑張れ私。
泣かないで。
「おい、待てよ! じゃあ絵を描くこともできないオレは、どうなんのっ?」
……へ?
予想外の発言に、私もクラスメートも固まった。みんな転校生を見ている。
「お、おいおい! そんな見るなよ~。照れるぜ! もしやオレって、みんなのアイドルかぁ?」
凍てつく教室の真ん中でピースピース。
何なの、この人。
「……あっ、そうだ! 鬼ごっこしよう!」
「う、うんうん!」
「ほらほら酒見!」
「あー、オレもう少ししたら行くよ!」
空気に耐えられなくなったクラスメートが鬼ごっこを提案し、私に悪態をついてきた人らは逃げるように教室を出ていった。
「……」
私は黙って目の前にいる男子を見ている。
転校生と二人きり。
色々な意味で、独りぼっちよりツラい。
それを誤魔化すかのように絵を描いていると、
「本当に上手だな! 今度、描いて欲しいものリクエストする! それじゃ!」
明るい笑顔と嬉しい言葉が向けられた。こんなこと、学校の中では久しぶりだった。
「あ、待って!」
去ろうとする転校生を呼び止めた。大きな声を出すのも久々。でも不思議と恥ずかしいって気持ちはなかった。
「あの、ありがとう。酒見くん」
振り向いて私の声を聞いてくれた彼は、また笑ってくれた。
「ジンで良いよクルミ!」
「う、うん……」
「じゃーねっ!」
ジンは私に手を降って、みんなが待つ場所へ行った。
クルミ。
呼び方を決めるの、早くない?
……まあ嬉しいけど。
小学生時代は良かった。転校生だから優しくされたし、みんなまだ素直だったからジンが仲間外れにされることはなかった。
でも中学時代は残酷だった。一度空気を読まなかっただけでジンはグループから外された。その後、ジンはすぐに親切な男子から声をかけられて新しい仲間ができたけど……。あれは本当に最悪な展開だった。私のせいでジンが意地悪されてしまった。
それなのに。
「クルミちゃん元気~?」
「今度は何を描くんだ~?」
「また、一緒に遊ぼうぜー!」
ジンはブレない。
いつだって流されず自分を壊さない。
だから私も、そんなジンを見習って自分らしさを維持する。
私は絵を描き続ける。着たい服を着る。ラーメン屋に通う。
……よし!
「お」
その夜。ラーメン屋での行いを反省しているとスマホにメッセージが届いた。
「うわ、クルミじゃん!」
あの子から連絡してくれるのは珍しい。これは何かあるぞ!
オレはドキドキしながらスマホを確認した。
「明日、正午に必ず財布を持って私の家に来なさい」
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