酒とクルミ。
卯野ましろ
第1話 あの子はラーメン屋にいた。
中一の初夏。こんなことがあった。
「はい、お前の負け~!」
「くっそー、やられた……」
何だったか忘れたけど、そのとき流行った遊びでオレらは盛り上がっていた。最初はただ遊んでいただけだった。
しかしマンネリは防げず。
「よーし! それじゃ罰ゲーム!
一番先に勝ち抜けた者からの提案に対して、すぐに返した言葉は、これ。
「なあ、それは酷いんじゃねーの?」
そして今、2020年の夏。
「こんなとこにいたの、クルミちゃ~ん!」
近所のラーメン屋に入ると、見覚えのある黒いゴスロリさん発見。
「っ……!」
うわっ、こいつ来やがったな……なんて言いたげな顔がオレに向けられた。それでもオレは、めげずに隣へ。
「そんな顔すんなよ~」
「……」
「シカトぉーっ?」
「お~い兄ちゃん! 食券!」
「あ、サーセン! おいしゃーす」
「冷し中華な」
ラーメン屋のおっちゃんに食券を渡し、着席。お隣ちゃんは黙々と味噌ラーメンを啜っている……って、もう終盤じゃねーか! やっべ来んの遅かったー!
「夏に普通のラーメンはツラくね?」
「おいしい」
お、食べながら答えてくれた!
「暑くねーの?」
「全然気にしない」
「冬にアイス、イケる派?」
「それ、前も答えた」
はい、そうでしたね。イケる派でした。オレもオレも! って喜んだら思い切り無視されましたとさ。
「でもさ、さすがに夏に黒いゴスロリはキツいっしょ」
「は?」
また振り向いた~!
っしゃあー……と思ったのも束の間。
「……私が何を着ようが、そんなの勝手でしょ」
「え?」
ちょっ……何? 何?
オレ、やっちゃった?
焦るオレに構わず、お隣ちゃんはズズズと丼を持ってスープを飲んでいる。
「あのー、クルミさん?」
「ご馳走様でした」
「あいよー」
強めの挨拶と同時に、トンッと丼が置かれた。その子はオレに見向きもせず、さっさと店から出てしまった。
「どんまい。これ、一つ持っていくか?」
「……あざっす」
一部始終を見ていたおっちゃんが、いつもチビッ子に出しているオマケの玩具の箱を持ってきてくれた。
スタスタスタ。
ふん! 何よジンの奴!
私は、あんたの姿勢に感動して自分の好きな服を着ているのに……!
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