看る人-ある男性看護師の物語-

@ganahayoutarou

第1話 町田さんと僕

僕は東京セントラル病院で看護師として働いている二十六歳の男性だ。

 去年東京セントラル病院に就職し今年で二年目になる。日勤だったのでいつものように朝起きて支度をし急いで家を出た。自転車を漕ぎながら病院へ向かうと冬の寒さで目が覚める。更衣室で白衣に着替えるといつの間にか気持ちは引き締まっていた。

 

 東京セントラル病院はペアナース方式であり日勤の相方は同期の萩原だった。受け持ちを確認し患者さんの情報を取る。時間になり朝の申し送りの時間が始まった。朝の申し送りを終えると患者さんの元へと向かう。今日の受け持ちは入院を入れて十二人。受け持ちの患者さんは多種多様だ。腰椎圧迫骨折で入院し腰が痛くて動けない患者さん。夜間不穏すぎて点滴で眠らされた患者さん。術後が足が痛い患者さん。検査があって緊張している患者さん。退院日でありウキウキしている患者さん。東京セントラル病院常連の水島さんは僕に「ありがとうございました」と笑顔で言って退院して行った。水島さんを送り出して僕と萩原は受け持ち患者さんの挨拶へと向かう。

 今日の受け持ちの中に夜間転倒し入院となった患者さんがいたので僕と萩原は挨拶に向かう。名前は町田さんといい病名は左大腿骨頸部骨折。八十五歳、女性。今日、主治医より病状説明予定だ。

 訪室して挨拶すると町田さんは穏やかな口調で「おはようございます」と言った。足が痛くて動けないのかベッドの上で横になり辛そうな顔をしている。高齢の患者さんは体位変換をしっかりしないと褥瘡がすぐにできてしまうので萩原と一緒に注意深く町田さんの体位変換をした。体位変換をすると町田さんは「痛い」と声を出した。

 足を痛がる町田さんがなんだか不憫に思えてなんとかしたいと僕は思った。町田さんは今日、主治医の仁川医師より家族へ病状説明がある。きっと今後は手術になるだろう。

 「痛み止め使いましょうか」

 「はい」

 最後に痛み止めを使用して八時間が経過している。血圧を測定し僕は医師指示を確認して痛み止めの座薬を使用した。

 「これで少し痛みが和らぎますからね」

 「はい。ありがとう」

 僕は一旦町田さんから離れ点滴を作ったり内服の準備をした。萩原と共に清式のケアに入り、褥瘡の処置をした。外科の回診に入って指示をもらい午前中が過ぎていった。お昼ご飯もくる頃、町田さんの長男さんが来棟されたので主治医の仁川医師を呼び長男さんへ病状説明をした。

 町田さんは明後日、人工骨頭置換術の手術をすることに決定した。

 

 夜勤前の過ごし方は人それぞれであるが僕はたっぷり寝る派である。

 夜勤の前日は午後二十三時くらいには寝て午前七時に起きる。二時間くらいなにかしてまた午前九時くらいに寝る。午後十四時に起きてシャワーを浴びる。シャワーを浴びて目を覚まし、ごそごそと支度をして家を出た。自転車を漕いで家の近くのコンビニへ向かいコンビニで飲み物とパンを買って病院へと向かった。

 出勤時間が迫っていることとこれから夜勤が始まる緊張感で心はどんどん狭くなっていく。

 心を落ち着けながら自転車のペダルを漕いだ。

 病院が近くなると救急車が二台止まっていた。救急車のサイレン音があたりに鳴り響いている。この時間に救急車が来ているのなら僕が夜勤の時にちょうど入院になるだろう、自転車のペダルを漕ぎながらそう思った。


 たっぷり寝たおかげもあって体は軽くフットワークは軽い。時間は午後十九時。検温を回るのに忙しい時間だ。

  鳴り止まないナースコールをさばき患者さんの病状をアセスメントし今必要なことを実行する。リーダーピッチが鳴り入院の連絡がきた。やることが多すぎてはちきれそうになりながらも僕は患者さんの名前を聞いてカルテを開き情報をとる。

 「何? 入院?」

 電話で話しているのを聞きつけて千葉さんが声をかけた。

 「はい」

 「私とろうか?」

 先輩の千葉さんは仕事が早いので頼もしい。仕事はかなりできるし、フットワークが軽くなんでもさばいてくれる千葉さんを僕は尊敬している。

 けれどいつまでも千葉さんに甘えていられない。入院をとる余裕は僕にもある。

 「ありがとうございます。僕がメインでとるのでフォローお願いします」

 僕が入院をとることにして千葉さんとそしてもう一人夜勤に入っている萩原さんに外回りを任せて僕が入院をとることにした。

 今日も夕ご飯を食べるのは遅くなりそうだ、と思いながら僕は入院の準備を始めた。


 検温が終わり二十一時になったので消灯した頃、病棟はすっかり静かになっていた。消灯をして患者さんは眠りにつき唯一電気のついているナースステーションで僕はカルテに記録をしていた。

 「はぁー疲れた」

 千葉さんがぐったりした様子で言った。

 「さすがに入院二件はきつかったですね」

 「本当にね。もう無理。あー帰りたい。」

 萩原さんのところが輸血だったりオペ後だったりで忙しそうだったので僕と千葉さんでそれぞれ入院を取った。

 僕が入院を取ったのは癌化学療法後で体調不良になった水島さん。水島さんはこの病院の常連で頻繁に出入りしているから入院処理はすぐ終わったけれど千葉さんが取った不明熱の患者さんの方は処置やらなにやらに終われ時間がかかったみたいだった。

 「でももう満床だから入院はこないですよ」

 「それはまだマシかもね。入院がこないとわかっていると朝回るときに色々と計算ができるし」

 時間は日付が変わろうとしている。僕はどうにか眠気を振り払って点滴を作るために重い腰をあげた。


 午前三時。交代で休憩に入り二時間ほど仮眠をする。仮眠をする場所は病棟の個室が空いていたら個室を使わせてもらうけれど嬉しいことに満床だったので病棟内にある小さな会議室に簡易のベッドを作成して寝た。

  僕が休憩から戻ると時間は午前五時になっていた。ここからオペの準備をしないといけない。

 町田さんの部屋へ訪室するとすでに町田さんは起きていた。

 「おはようございます。」

 「おはよう。ところで私はなんでここにいるの?」

 町田さんは不思議そうな顔をしている。

 「転んで足を折って病院に入院しています」

 「私が?」

 町田さんはきょとんとしている。それは本当に驚いている様子だった。入院すると環境が変化することも影響して認知が進むことがある。町田さんはまさにそれだった。

 「そうですよ。町田さんは転んで足を折って今日手術です」

 「なんで私が手術しないといけないのよ」

 これでは堂々巡りである。私は説明するのを諦めて内服をしてもらうことにした。

 「町田さん。とりあえず大事な血圧の薬を飲みましょう」

 「嫌だわよ」

 これはまずい。血圧の内服は飲んでもらわないといけない。

 「でも血圧の薬を飲まないと血圧が上がってしまいますよ」

 「いやだわよ。トイレに行きたい。トイレ。おしっこがしたい」

 町田さんは骨折しており床上安静である。トイレにいけないため膀胱留置カテーテルが挿入されていた。だからトイレに行かなくてもおしっこは出ている。

 「町田さん。足が折れてトイレにいけないので管が入っています。そこからおしっこはでていますよ」

 町田さんにそう教えると町田さんは膀胱留置カテーテルの管をしげしげと見た。

 「ふーん」

 体も小さく、お餅みたいに柔らかい肌の町田さんが少し可愛く見える。けれど今はそんなにゆったりしている時間はない。町田さんに内服を飲んでもらって手術に行ってもらわないといけない。

 「町田さん。大事な血圧の薬を飲みましょう」

 「嫌だわよ」

 町田さんは少し怒っている様子である。僕は町田さんの様子をとりあえず午前六時までに内服をすればいいのだから一旦引いてみることにした。

 「わかりました。また後で来ます」

 その間に検査の下剤を作ったり、先生の指示に従って患者さんの膀胱留置カテーテルを抜去したり忙しく過ごした。午前五時四十五分になりもう一度町田さんのところへと向かった。町田さんは体を起こし周りをキョロキョロしている。髪もぼさぼさだ。

 「町田さん。髪がボサボサなんですけど髪といていいですか」

 「いいよ」

 櫛に水をつけて町田さんのぼさぼさの髪をといた。ついでに歯磨きもしてもらいおしぼりで顔を拭いてもらう。

 「ありがとう。すっきりしたわ」

 手鏡で綺麗な髪になったと顔を見てもらった。町田さんは嬉しそうだった。

 「町田さん。ついでに朝の内服飲みませんか?」

 「いいわよ」

 町田さんは問題なく内服を飲んだ。後はバイタルサインを測って日勤者に申し送りをすれば準備完了だ。

 「ありがとうございます」

 ゆったりと時間が流れる朝だった。僕は朝の検温を始めるために動き始めた。


 夜勤の時間が終わり午前九時になった。

 日勤者へ申し送り夜勤業務を終える。町田さんのオペ準備は終了していた。病院指定のオペ着に着替え、弾性ストッキングを履き、入れ歯と時計を外してベッドに横になっている。

 「町田さん。今日頑張ってくださいね」

 「はい?」

 町田さんはやっぱりきょとんとしている。今日手術ということを理解していないのだろう。

 「足が痛い」

 町田さんは左足をさすっている。折れているのだから痛いのは仕方ない。

 「手術すれば足の痛みもとれますから」

 時間になり日勤の看護師がベッドごと町田さんを連れて行った。家族の見送りはなく、見送くるのは僕と日勤の看護師だけである。

 「行ってらっしゃい」

 最後に町田さんと握手をした。

 手術が無事終わり動けるようになってと願いを込めて。

 ベッドごとオペ室に連れて行かれる町田さんを見送り僕は夜勤を終えた。



 夜勤を終えた僕は朝ごはんと昼ご飯を兼ねた食事をとり少し休んで所属している社会人フットサルチームの練習があったのでフットサル施設へと向かった。

 夜勤明けのフットサルは体にきついけれど、フットサルをしているとなんだか幸福感が増してくる。

 僕には健康な体があって思いっきり運動できる足がある。思いっきり外の空気を吸って走ることができる。

 親がいて友人もいて仕事もある。なんだかよくわからない幸せを感じながら僕はフットサルをして思いっきり汗を流した。

 フットサルを終えて家に帰りシャワーを浴びた。

 夕食の時間になるとスーパーで買った弁当を食べゆっくりユーチューブを見て過ごす。体は疲労困憊で眠くなったので眠ることにした。

 明日は休みなので出かけようと思っている。やっぱり幸せだ。そう思いながら眠りについた。


 休みが終わった次の勤務は日勤だった。

  いつも通り出勤して受け持ちを確認すると受け持ちの中に町田さんがいた。電子カルテを開いて情報を確認する。

 町田さんは無事手術を終えた。

 手術当日は足が痛いと言ってせん妄状状態になりベッドから動こうとしたみたいだ。安全を守るため体幹ベルトと両上肢の抑制をされていた。

 それで夜はしのぎ手術翌日になると安静度が解除されたので疼痛はあるもなんとか離床をして車椅子に乗った。

 情報をとり終えた僕は申し送りを終えるとさっそく町田さんのもとへと向かった。

 「おはようございます」

 「はい、おはよう」

 「今日担当なのでよろしくお願いします」

 「よろしくね」

 「足の痛みはどうですか?」

 町田さんは少し考えたあと「動かさなければ痛くないね」と言った。

 「よし。それじゃあ少し車椅子に座ってみましょうか」

 「いいわよ」

 基本的に術後は当然足が痛いので離床するのに苦戦する患者さんは多い。けれどずっと臥床しているわけにもいかない。どんどん体を動かして術後の合併症を予防していかないといけない。

 町田さんの場合は僕が離床を促さなくても離床に積極的なのでさほど離床にすることに困らなかった。足が痛くて介助はいるもののなんとか車椅子に座った。町田さんは車椅子に座ると「はぁーやれやれ」と疲れた表情で言った。町田さんの左大腿部は手術の影響で腫れている。

 「お疲れ様です。よく頑張りましたね」

 「あーきつかったよ」

 町田さんが車椅子に座ったのでデイルームへ移動した。病棟の手鏡を使用し朝の清潔ケアをする。髪をといたり、顔を吹いたり、歯を磨いたり。できるところは自分でやってもらった。町田さんは積極的に自分のことは自分でした。しっかりと動いて座れるようになった町田さんを見て僕はなんだか嬉しい気持ちになった。


 午後十二時になると配膳車に乗せられた昼ご飯が運ばれてきた。

 僕は町田さんの昼ご飯を乗せたトレイを取って町田さんに配る。ついでにガーグルベースンと町田さんの歯磨きとコップも隣に置いた。町田さんは「ありがとう」と言ってゆっくりと食べ始める。

 僕は離床して昼ご飯を美味しそうに食べる町田さんを見てホッとしていた。これなら順調に回復できそうだった。

ご飯を食べ終えると口腔ケアをしてもらい、食後三十分経ったら一度ベッドへ戻ってもらった。午後からもリハビリがあるので少し休んでもらう。

 ペアの看護師と交代で休憩を取り午後は検温に回った。

 先日、体調不良で入院した水島さんは順調に回復しているようだった。個室に入っている水島さんの部屋はすっかり私物で埋めつくされている。私物を入れるスーツケースに、入院するときに着てきたジャケット。アイパットやスマホ。自己管理している内服にふりかけや梅干し。コーラやコーヒーなどで埋め尽くされている。僕が訪室すると売店で買ったラーメンを食べているところであった。僕と萩原が水島さんの部屋に入るとラーメンの美味しそうな匂いが部屋に充満していた。

 「失礼します」

 僕がそう言って部屋に入ると水島さんは右手をあげて合図した。

 「すっかり元気になりましたね」

 「おかげさまでね」

  水島さんは美味しそうにラーメンを食べている。

 「最近食欲が湧いてきてね。ラーメンがうまい」

 「いいことじゃないですか」

 水島さんとしばらく雑談をして検温は後にすることにした。バイタルに異常がある患者さんはいなくて落ち着いた日勤だった。

 

 時間に余裕があったので町田さんの看護計画を修正する。術後はしっかりと離床して行く時間を作る必要がある。

 今の町田さんはベッドから車椅子への移乗は一部介助でいけるレベルなので毎食車椅子に移乗するように看護指示を入れておいた。

 午後十七時になり勤務交代の時間になる。夜勤者に申し送りをして最後に町田さんに挨拶し僕はその日の勤務を終えた。


 それから出勤するたびに不思議と町田さんの受け持ちが多かった。

 町田さんの情報はほとんどの情報が頭に入っているためどうすればいいかすぐに判断することができる。最近は夜に軽くせん妄状態になるらしい。あまりのもごそごそと動き出すので抑制をするしかない状況であった。僕が日勤で訪室するとぐーぐーと寝息を立てて入眠されているので清潔ケアが終わった後に車椅子に乗ってもらい歯磨きをしてもらった。

 「町田さん。眠たいですか」

 「すごく眠いです」

 半分うとうとしながら歯を磨く町田さんもなんだか可愛い。歯を磨き終わるとしばらくデイルームで雑誌などを読んで過ごしてもらい午前中のリハビリに向かってもらった。リハビリから戻ると昼ご飯を食べてもらいトイレに行って少しベッドに戻って休んでもらった。

いびきをかいて眠っているのが気になったが朝からずっと起きているので疲れているだろうからそのままにしておいた。

 午後三時頃になるとまた起きてもらってトイレに行き午後のリハビリにも行ってもらった。リハビリから戻るとそのままデイルームで過ごしてもらう。夜勤者に申し送りをして僕の勤務は終わった。


 町田さんの生活リズムが整うように介入を続けた。

 その甲斐もあってか夜のせん妄はすっかりなくなり日中は起きて夜は寝るというバランスのいい生活をしていた。

 足の痛みもすっかりとれ病状的にも順調だった。あまりにも順調なので嬉しいことに介入することも減って行った。

 それでも町田さんとの日々は楽しかった。

 町田さんは皺くちゃな顔で笑う様子に癒されたし、同じ大部屋で独語が激しい認知症の患者さんを見ながら心配そうにしているのもなんだか癒された。ほとんど僕が受け持っているのに名前は一向に覚えてくれなくていつも「男の看護師さん」と呼んでいた。

 「有野さんの最近にお気に入りは町田さんでしょう」

 日勤もそろそろ終わるころ電子カルテに記録をしていると萩原が聞いてきた。

 「そうですね」

 「有野さんは高齢のおばあちゃん好きですよね」

 私は意識したことないのだが周りからよくそう言われるのでそうらしい。実際、子供の頃も実家の祖母によく遊んでもらっていたのでおばあちゃんは大好きだ。

 「ちなみに萩原のお気に入りは水島さんでしょう」

 「そうね。なんだか可愛いのよね」

 水島さんは可愛いというよりは強面という感じだが女性には可愛く見えるらしい。

 タイプは色々あるものだ、と思いながら日勤が終わるぎりぎりまで記録を書き続けた。


 

 町田さんは病棟にも慣れた様子で僕が朝出勤するとデイルームでご飯をゆっくり食べていた。

 僕は静かにそして美味しそうにご飯を食べる町田さんを見て「可愛いな」と思いながら電子カルテから情報を取っていた。

 今日の受け持ちの中に町田さんも入っていた。町田さんはリハビリ病院への転院が決まっていた。覚悟はしていたけれど思い入れのある患者さんが転院となると寂しくなるのは避けられなかった。


 僕は今日の日勤が終わると二連休なので僕が町田さんに会えるのは最後になる。朝の申し送りが終わると僕はすぐに町田さんのところへ行き挨拶をした。

 「おはようございます」

 「おはよう」

 町田さんは食事を食べ終えてデイルームで過ごされている。

 「今日はリハビリ何時から?」

 「今日は十三時からみたいです」

 町田さんに挨拶を済ませ他の患者さんに挨拶をする。点滴と内服を準備し清潔ケアに入る。

 町田さんはデイルームで日光を浴びながら雑誌を読んでいた。

 清潔ケアを終わらせ点滴と環境整備に入る。

 町田さんは雑誌を読むのに飽きたのか車椅子を操作し病棟内を散歩されていた。時々、他のスタッフと話しをしたり自由な時間を過ごしている。点滴もないので昼ご飯まで町田さんは自由に過ごされていた。午後十二時となり配膳車が病棟に運ばれてきた。

僕は町田さんの分の食事を取り配膳した。僕がどうぞというと町田さんは穏やかな声で「ありがとう」と言った。

 僕が笑うと町田さんも嬉しそうに笑った。町田さんがいなくなってしまうのは寂しい。けれど町田さんの足が治りこうやって穏やかな時間を過ごせているのだから喜ばしいことでもある。僕は町田さんが治ったことを噛み締めながら昼ご飯を配っていた。

 日勤が始まると町田さんがいなくなっていることを寂しく思う時間もないくらい忙しい。

 朝一でオペを出し患者さんの褥瘡を処置して、回診について忙しい午前中は終わり病院の食堂で昼ご飯のカレーを食べ午後はオペの対応に追われた。体調を崩した水島さんも入院してきた。いつものようになれた様子で奥さんが手続きしていた。

 「またよろしく」

 水島さんはニヤリと笑っていた。僕もよろしくお願いします、と言って入院の手続きをする。

 あっという間に夜勤者への申し送りの時間になりオペ患者のことを申し送る。仕事を終え病院を出ると体は疲れていてお腹がとても空いていた。

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