猫な彼女とマグカップ

@山氏

猫な彼女とマグカップ

「咲弥、喜んでくれるかな……」

 俺は机の上に置いた箱を見て呟いた。

 これは先日買ってきたマグカップだ。咲弥は俺の家に頻繁に出入りする。だから、咲弥用にマグカップを買ってきたというわけだ。

 別に何か記念日でプレゼントしようというわけではない。咲弥が受け取ってくれなければ、俺が使えばいい。くらいの気持ちで買ってきた。

 俺はいつ咲弥が来るか少しそわそわしながら座って待っていた。

 するとガチャガチャと鍵が回る音と共に、咲弥が寒そうに部屋に入ってくる。俺は立ち上がると、咲弥を出迎えた。

「おかえり、咲弥」

「ん。啓人、寒かった。温めて」

 そう言って咲弥はコートを脱ぎ捨て、小走りで俺の近くに来た。そして俺に抱き着いてくる。

「もう……」

 俺は咲弥を抱きかかえると、炬燵の近くまで連れていった。咲弥を降ろすとすぐに炬燵の中に潜り込み、机の上にある箱に目を向ける。

「なにこれ」

「それ、咲弥にどうかなって。咲弥、ココア好きでしょ? それによく家に来るから……」

 俺が言い終わる前に咲弥は箱を開けて、中身を取り出す。

 猫の模様が描かれたマグカップだ。咲弥はまじまじとそれを見て、嬉しそうに笑った。

「ありがと」

「ココア、飲む?」

「うん、飲む」

 俺はキッチンに向かい、お湯を沸かし始める。咲弥はマグカップを大事そうに持ってきた。

「まだお湯沸かないから、炬燵で待ってていいよ?」

「ん、そうする」

 咲弥はマグカップを俺に渡すと、笑って炬燵の方に向かっていった。

 俺はもう一つマグカップを用意して、ココアの粉を用意する。マグカップに粉を適当に入れ、お湯が沸いたところで火を止めた。

 マグカップにお湯を注ぎ、粉が固まらないようにスプーンでかきまぜる。

 そして、出来たココアを炬燵へ運んだ。

「おまたせ」

 俺が咲弥の横に腰を下ろすと、咲弥はまた笑って俺に寄り掛かってきた。

「ありがと」

「ん、どういたしまして」

 咲弥は俺から少し離れてふうふうと息を吹きかけて少しココアを冷ますと、口を付けた。

「美味しい」

 俺の顔を見上げて笑う咲弥の頭を軽く撫で、俺もココアに口を付ける。

「啓人もココア?」

「え、うん」

「いつもはコーヒーなのに」

「まあ、たまにはね」

 俺が笑うと、咲弥は不思議そうな顔をした。

 そして、どうでもいいかと言わんばかりに笑うとまた俺に寄り掛かってきた。

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