天才になれなかった私は

朝はご飯派

第1話 天才になれないと気づいた日

 ほとんどの人が凡人だから天才が輝いて見えるんだろう。私はそのほとんどの凡人になりたくなくて、ずっと天才になりたかった。だけど私は天才にはなれない。彼らのような文章力も発想も絵心も何も私は持っていなかった。そして私は今日も凡人だ。


 

 今日はドライブがてら墓参りに連れて行かされた。小雨が降っていたが別に墓参りに行かない理由にはならない。今日は私が生まれるとっくの昔に死んだひいばぁちゃんの命日だった。父方のひいばぁちゃんだったから父の運転で妹と私の3人で墓参りに行く。


 車の後部座席に座り、窓から外を眺める。ど田舎の山道。ずっとどこを見ても山が連なる。雨が降っているし今は3月中旬ということもあって風景が綺麗だった。雨によって幻想的な世界に見えるし、ぽつぽつと花が咲いている。花は桜なのか梅なのか桃なのか全く分からないけど可愛いピンク色が咲いていた。


 父と妹は他愛もない話で盛り上がっていたが私はイヤホンで音楽を流し、その会話を遮断した。シンプルにその話題に興味がなかったのだ。彼女たちはギターの話をしていた。だけど、流した音楽は別に対して好きでもないロックバンド。ギターの話に耳を傾けていればもっとそのロックバンドのことが好きになったのかもしれない。だけど私はその話題には入らなかった。だって好きなのはロックバンドでもギターの音色でもない。歌声がドストライクだっただけだったからだ。




 そんなことを考えた。


 その瞬間だった。


 別にいつもと同じだ。


 何か特別な日でもない。

 ただ墓参りに向かってる途中のドライブ。



 雨がたまたま弱く降っていた。

 それがたまたま春の暖かい日で。




 何が原因か分からないのだが、私の頭の中で音楽が流れ出した。ピアノの音だ。曲調はモーツァルトが描きそうな感じ。ハ長調。いやモーツァルトがハ長調の曲が多いのかはしらないけれど、明るくて貴族が春の草原でダンスしていそうな音楽だった。


 この音楽を記録したい。後から聴いてみたい。そう思ったが、私には音楽の知識も絶対音感も何もないから書き留めることもできなかった。その時に気づいたのだ。私は天才じゃないからだな、と。もし天才だったらここで記録して書き留めて、曲に起こして作曲家になれるんだと思った。 


 作曲家たちがよく言う「空から音楽が降ってくる」という現象が私にも起こったのに私は書き留められなかった。


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