栄養ドリンク

萬 幸

栄養ドリンク

「タツヤが行方不明!?」


僕が久しぶりに高校に顔を出したら、タツヤと仲の良いカナコちゃんから、相談を受けた。

カナコちゃん曰く、タツヤは一週間前から学校に顔を出していないらしい。


「でもなあ。僕とタツヤはそんなに仲がいいわけじゃないぜ? 小学生の頃からの同級生なだけで、家に行って遊んだ回数も数回程度だし」


でも、と食い下がるカナコちゃんに、さらに畳み掛ける。


「あいつは割と遊ぶタイプだろ? 今頃、どっかのお姉ちゃんでも捕まえて入り浸ってるんじゃねーの?そんなに心配なら、あいつの家に行ってみればいいじゃん」


カナコちゃんは、僕の言葉に首を横に振った。


「えっ、あいつの家知らないの?」


マジかよ。

これは困ったな。

そんな僕に、カナコちゃんは申し訳なさそうに、僕にある頼み事をした。




放課後。

カナコちゃんの頼みでタツヤの家に来ていた。


「すみませーん、タツヤくんの友人のユウヤです!すいませーん!」


タツヤの家のインターホンを押す。

しばらく待つが全く反応がない。

さっきと同じようにインターホンを押す。

押す。

押す。

呼ぶ。


人の気配がまるでない。

これはもしかすると……。

テレビドラマの真似事で玄関のノブを引いてみる。


「おいおい」


無用心じゃないか。

なんの突っかかりもなく、玄関が開いたのだ。


「失礼しまーす」


一応、声をかけて家に上らせてもらう。

なんとなく、昔来た時のことを思い出しながら、リビングに向かうことにした。


「すみませーん」


また声をかける。

反応はない。

不審だ。

ごくり、と唾を飲む。

家に入ってから、異様に喉が乾いてきてる。

緊張からだろうか。

とにかく、警察に通報することを想定して、廊下を歩く。

やがて、リビングの扉が見えてきた。

小さな警戒心を持って、扉を一瞥する。

危なそうなものは何もない。

大丈夫だ。

自分を鼓舞して、ノブを回す。


「お邪魔しまーす」


なるべく、ふざけたように言うことで、自分の臆病な部分を誤魔化す。


「誰かいませんかー?」


かすれる喉で大きく声を出しなから、リビングを歩き回る。

テレビはついていない。

テーブルには何も置いていない。

散らかった様子でもない。

この整理されたキレイさは、まるで旅行に出かけた後かのようだった。

だが、それなら学校に連絡ぐらいはしてるだろう。

事件に巻き込まれたのかもしれない

通報の準備をしようと思い、ケータイを一旦テーブルに置く。


「声が出ないな…」


喉が乾いているせいか、声を張ることができなくなってる。

タツヤの家に、申し訳なく思いながら、リビングと繋がったキッチンに入る。


「後で謝るんで許してください……」


冷蔵庫の中を覗く。


「これしかないのかよ……」


冷蔵庫の中には、最近、流行りの缶入り栄養ドリンクが一本。

家族で住んでいるのに、これしかないとは、ますます事件性を帯びてきた。

しかし、今は喉を潤すしかないだろう。

でないと、通報ができない。

コップを一つ拝借して、リビングに戻る。

テーブルの側の椅子に座ると、缶を開けて、コップに入れる。

コプコプコプコプ。

でろっとした、濃い目の赤い液体が、透明なコップに満たされる。

タツヤとは別の友人から聞いた話だが、このジュースは、甘いベリー味で非常に美味しいらしい。

緊急事態ではあるが、すこしばかり味を楽しませてもらおう。

コップを傾け、中身を口に含む。


「うっ……!」


思わず吐き出す。


「これって…!」


マグロの臭い血合いを食べた時。

しっかりと処理されてない馬刺しを食べた時。

転んで、口の中を切った時。

あれらの時と同じ味が口に広がる。

これは……


「血!? なんだよこれっ……!」


タチの悪いイタズラか!?不良品か!?

僕は混乱と同時に怒りが沸いてきた。

ふざけてる!


「材料はなんだ……!」


苛立ちに身を蝕まれながら、缶に書かれた成分表を見る。

そこにはこう書かれていた。


『タツヤ』


『次の材料』


『これを一口でも飲んでしまった』









『あなた』

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