間違えて異世界から勇者を300人も召喚してしまったけど、誰も魔王討伐に協力してくれません

豊科奈義

第一章

第1話 أين نحن ؟

 パン王国かつては大陸の覇権国家として君臨し、魔王軍との戦いに対しても優勢を保っていたが、徐々に力をつけ始めた魔王軍に押され大きく領土を蝕まれてしまう。

 そして、パン王国に伝わる勇者召喚の儀を試すことにした。

 パン王国国王や、その他王国幹部、貴族などが見守っている中、勇者召喚の儀が召喚の間で執り行われた。


「ついに……この苦しみが終わるのだな」


 王が感慨に耽っている中、国王の付添人が横から召喚の儀に使われる装置を差し出した。


「陛下、こちらに召喚したい人数を入力の上、決定ボタンを押してください」


 装置にはテンキーと決定ボタン、キャンセルボタンがついている親切設計である。


「ああ、すまぬな」


 付添人から装置をもらうと膝の上に起き、息を呑む。そして、恐る恐るテンキーに指を近づけた。

 そして、その指はピタッと空中で止まる。


「……何人くらいがいいだろうか?」


 王は緊張のあまりそんな細かいことなど気にしていなかったため、本番になり困ってしまう。すぐさま付添人の方に視線を向けて助言を求めた。


「そうですね、当たり外れがありますから3人くらいでいいんじゃないんですか?」


「それもそうだな」


 付添人の言葉を信じて王は恐る恐る3のキーを入力する。


「……3人で足りるか不安になってきたぞ」


 召喚に使う装置は記述によると、百年に一度しか使用できないらしい。そのため、万が一のことを考えてもう少し増やしてもいいのではと思えてしまった。


「陛下、勇者専用のVIPルームは30部屋ほど用意がございます」

「そうか。じゃあ、30人にするわ」


 勇者と言えども、待遇が悪ければ協力してくれない。そのため、国有地に巨大な勇者専用住宅を大量の国税を投入し建設していた。


「……陛下。手汗がおひどいようですね。拭くものを用意してきましょうか?」


「いや、大丈夫だ」


 王は王国の最高権力者ではあるが、装置は王の先祖が残してくれたものである。先祖代々伝わるものを使用しているのだから、さすがの王も緊張してたまらなかった。そして、なんとか手汗を垂らし震えながらなんとか0のキーも入力することに成功する。


「ふう。終わった……」


 王は終わったつもりで装置をどけようと動かす。


「陛下!決定ボタンを押さないと──」


「へ?」


 王は緊張のあまり30という数字を入力することだけに固執し、決定ボタンを押すことをすっかり忘れていた。しかし、気がついたときには装置は床に落ちてしまった。

 そして、運の悪いことに追加で0キーと決定ボタンが押されてしまった。


 その瞬間、召喚の間が青白い光に包まれる。


「あ──」


 王は、顎が外れたと見間違えるくらいの大きな口を開けただぼんやり見つめるしかなかった。

 また、付添人や他の貴族も同様に青白いを見つめることしかできなかった。


「い、いや、でも、あれだよね?そう、落下の衝撃で決定ボタンが押されちゃっただけだよね……──」


 ただ決定ボタンが押されただけ。だとしたらどんなによかったことか。王は安心を求めるために口に出して自身を安心させようとした。しかし、召喚の間に薄っすらと見える人の数はどう考えても30人ではなく、王も言っている途中からどんどん自身をなくしていた。


「……これってクーリングオフできたっけ?」


 付添人に希望を求めたが、付添人は首を横に振った。


「……陛下、僭越ながら申させていただきます。多分、こちらがクーリング・オフを受ける側です」


 そして、青白い光はどんどん強くなっていき最後に閃光が放たれると勇者の人数が顕になった。


「1、2、3……何人いる?30人じゃないよね?」


「ええ、そのようです。見た感じその10倍ってところでしょうか」


 唖然としているのはパン王国側の人間だけではない。召喚された勇者もまた、唖然としていた。


「ここどこだ?」

「Where am I?」

「这是哪里? 」

「أين نحن ؟」



 混乱に陥る勇者たちだが、王もどうにかしようと考えていた。


「うーむ。日本語しかわかんないわ。おい、自動翻訳魔法を発動しろ」


 王家直属の魔道士たちが颯爽と現れ、翻訳魔法を唱えた。王家御用達とだけあって、詠唱も非常に早い。


「やっぱり王家の魔道士は頼りになるわい」


「陛下。お言葉ですが魔道士を褒めちぎってる時間ではないと思います」


 勇敢な働きっぷりに関心している間もなく付添人がツッコミを入れてくる。


「それもそうだなでは、勇者たちに激励でもするかの」


 王は立ち上がり勇者たちの目の前に堂々と現れた。基本的に緊張するのは王家に関わることだけのため、演説などでは余裕を持って話すことができた。


「勇者たちよ、よくぞ我の元に集まってくれた。これから諸君らは栄誉ある魔王軍撲滅に協力してもらうことにことになる」


 王の言葉に勇者たちは動揺していた。そんな中、一人の女性が大声で叫んだ。


「え? 嫌なんだけど。っていうか帰らせて?」


 女性の叫びに、他の勇者も次々と同調していく。


「そうだそうだ!」

「お断りだ!」

「合衆国万歳!」

「強姦してやる!」


「ま、まあ。このくらいの反発は予想されていたことだ。っていうか最後何?」


 最後の不快な発言に王は困惑する。どう考えてもこのタイミングで発する台詞ではないからだ。

 しかし、考える間もなく付添人が王の元へ駆け寄り王の目を直視して話した。


「翻訳魔法の不具合のようです。無理やり日本語に変換したためおかしな表現になったかと思われます。今バージョンアップ中です。最後の発言は……『F○ck you』」


「ああそうか。まあ、たしかに。直訳するとそうなるよね?でもさ、倒置法にする意味あった?それに今、間を置いたよね? 直視されて倒置法で言われると君から言われてるみたいなんだけど」


 付添人はゆっくりと顔をそらしそのまま去っていった。


「……まあいい。後であいつのロッカーの中にカメムシを大量投入するだけだ」


 王は勇者に説得をしていることを思い出し、わざとらしく大きな咳払いをして勇者たちの方を作り笑顔で再び振り向いた。が、王は勇者たちのいる光景を見て作り笑顔のまま思わず一瞬固まってしまった。


 勇者たちの殆どが小さな黒い板のような物を凝視していた。何やら間食を食ってるものもいれば、全裸の奴もいる。


「そこの全裸の勇者……様?」


 様をつけていいかすらわからなくなってきてしまった王は、全裸の勇者をあまり見ないようにして声をかけた。


「入浴中だったんですけど。服用意してくれます?あと、お腹すきました!」


 ムカつく態度だが、無理に呼んだのはこちらである。そのため、反論できずに付添人のロッカーに入れるカメムシを二倍にしようと思うことで、どうにか心を落ち着かせた。


「そうそう。パン王国は牧畜が盛んなので是非一度我が国の肉料理を──」


 食事を食べさせれば勇者たちも落ち着いてくれると思い、パン王国の料理を豪語するもすぐに遮られた。


「低糖質食ですか?」

「ヴィーガン用の食事もあるんでしょうね?」

「私は無添加無香料無着色しか食べませんよ?」

「アレルギー品目は含まれます?」


 王は大きく息を吸い吐いた。


「……。もうこいつらヤダ」

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