お化け屋敷
萬 幸
お化け屋敷
ワクワクランドのお化け屋敷。
私はルンルン気分だ。
手始めにオノを持って歩く。
「オマエは悪い子か〜?」
「はい、私は悪い子です!」
オノを振る。
幽霊の格好をしたお兄さんは潰れたカエルみたいな声を出して、頭で赤い噴水を作った。
私はそれが綺麗に感じて、苦しむお兄さんのトドメそっちのけで写真を撮ってしまった。
お兄さんは写真越しに、理解不能、みたいな目をして私を見ている。
かわいい。
私はそう思いながら、オノをもう一回振った。
いつまでも苦しめるのはかわいそうだからね。
動かなくなった赤い幽霊を跨いで次の部屋に向かう。
今日は最初から良い感じだ。
気分が良い。
なんとなく、お母さんが昔歌ってくれた歌を口ずさむ。
マザーグース、だったかな。
※
トンネルエリアに着いた。
口裂けメイクのお姉さんお化けが私を見てこういった。
「私、キレイ?」
「これからキレイになるよ!」
私はカエルさんリュックからナタを取り出すと、お姉さんの口を本当に裂いてあげた。
お姉さんは面白いぐらいに高い声を出した。
最初は言葉になってないようだったけど、だんだん、助けて、とか、痛い、とか言い始めた。
声が高いすぎるせいか、あまり美しさが感じられない。
このお姉さんはハズレだ。
私は、口元から赤い滝を流すお姉さんを、力を込めて蹴り倒すと、涙に濡れてる顔にオノをおろしてあげた。
「つまんない」
さっきまでの気分が台無しだ。
ぐちゃぐちゃになった顔もありきたり。
次の部屋に行くか。
私は気持ちを切り替えた。
※
江戸エリア。
のっぺりと顔のないおじさんが、私を見てこういった
「こんな顔ですか」
「はじめまして!」
ちょっと赤色に汚れてるカエルさんリュックから、ナイフを取り出して、胸に刺してあげる。
即死だった。
「あっけな」
赤い沼みたいになっている胸の穴に人差し指を突っ込む。
手は血塗れになった。
「よしよし」
何もない顔に、血で目や口を描いてあげる。
今朝見た、予約のプリキュアみたいな顔にしてあげよう。
そしたら可愛くなるかも。
私はしばらく、その作業に没頭していた。
ジリリリ。
リュックに入った目覚ましい時計が鳴る。
「あれ、もうこんな時間か」
私は予想より目が大きくなった顔をカメラで撮ると、急いで出口に向かう。
ここは三人しかいないと聞いていたから、あとは帰るだけだ。
「お風呂に入ったら、映画の時間!!」
毎週金曜日テレビでやる映画の時間は私の楽しみ。
しかも、あの国民的アニメの映画版の放送だ。
楽しみ。
「あっ、お給料貰うのも忘れないようにしなきゃ!」
※
少女が帰った後の大人の会話。
「いやあ、今日は除霊ありがとうございます」
「僕に言われても困りますよ」
「でも、ねえ? あんな小さい女の子に言うのも気が引けるじゃないですか」
「まあ、そうなりますかね」
「中もすっかり"キレイ"にしていただいて。これで休業していたワクワクランドも再開できます」
「それはよかった」
「軌道にのった暁にはあの子も招待しますよ」
「それは遠慮しておきます」
「なぜです?」
「あの子には幽霊が生きてる人間に見えていて、生きてる人間が幽霊に見えてますから」
お化け嫌いのあの子は、あまり楽しめないと思うので。
お化け屋敷 萬 幸 @Aristotle
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