七英學園 第一部 Ein Stars
こっぺぱん
第1話 小野瀬悠愛
――アイドル。
私に笑顔をくれた、憧れの職業。
彼との約束を守るためにも――なってみせる。
みんなを笑顔にする、立派なアイドルに!
第1話 小野瀬 悠愛
芸能事務所・CAPSプロダクションが運営している学校で、過去に何人もの有名アイドルを輩出した名門。
当然入学試験の倍率は高く、毎年ニュースにまでなる。一流アイドルへの道はこの學園へ入学できるかという所から始まっていると言っても過言ではないだろう。
「どうしよう……」
そんな學園に今年入学したばかりのアイドルの卵が1人、迷える子羊と化していた。
歌もダンスもまだまだだが、その瞳に宿る煌めきと将来性を買われて合格とされた女子生徒だ。まあ、本人はそんな事知る由もないのだが。
とにかく、彼女は今悩んでいるのだ。何故か?よくぞ訊いてくれた。
実はこの度、七英學園では新たにプロデュース科が開設されたのだが、それを記念してイベントが開催されることになった。
その名も「
プロデュース科の生徒とnana学科アイドルコースの生徒が組んでステージを行い、その総合値を競い合う。
何せ初めての試みで、どう転ぶかは予想もつかないが……きっと大丈夫だろう。
あいつが居るからな。……無駄話は止めて小野瀬の話に戻ろう。
彼女はどうやらナナフェス出場希望らしい。學園内掲示板にポスターを見つけてから、分かりやすく目を輝かせて舞い上がっていた。しかしこのナナフェス、出場条件の一つに学年ユニットというものがある。まだ学年ユニットのパートナーを見つけていない小野瀬はこれまた分かりやすく落胆し、慌ててパートナー探しに励んだという訳だ。しかし、その結果は……。
☆ ☆ ☆
「どうして皆もうパートナー見つけてユニット組んでるの……。まさかパートナーいないの私だけ……?そんな、困る……」
パートナー探しを始めて早1週間。仲のいい友達やクラスメイト、色んな人を当たってみたけどまさか、こんな……。果ては「まだパートナーいないの?やばくない?」なんて言われる始末。ふぇええ。
こんなに他の人の動きが早いなんて思わなかった。私が遅かっただけみたいだけど。
先週見かけたポスター。
SE7ENS Seedフェス……ナナフェス。
開設されたばかりのプロデュース科の人と組んで出場なんて心が躍る。なんかすごくアイドルっぽい!……アイドルになるためにこの學園にいるんだけど。
早くパートナー見つけてユニット組んで出場エントリーしたいのに!
「誰かいないかなぁ……。まだユニット組んでない子……。むしろどこかのユニットに混ぜて貰って3人組じゃだめかなぁ」
こうも見つからないと弱気にもなるものです。今日はもう帰ろうかな……。
────♪
風に乗って聞こえてきた歌声に顔を上げた。
上手い。ものすごく。
この声……女の子?いや、男の子かな?どちらにも聞こえる不思議な声。どこから?
どうしても、気になる。
胸がどきどきする。
この声の持ち主に会ってみたい。
気づいた時には私の足は声のする方を向いていた。
七英學園は施設が充実していて、殆どの生徒は防音対策の整ったレッスン室を使うから、歌声が聞こえてくるというのは実は珍しい。イベント前には空き教室なんかを練習部屋として使う生徒もいるみたいだけど……。
「音楽室……」
ここから声が聞こえる。まだ歌ってる。
どんな子なんだろう。
言いようのない高揚感を胸に押し込めながら、少しずつ、音楽室の扉を開けた。
「♪──── っ!!」
驚いた顔をして振り向いたその顔に見覚えがあった。
「えっと……?」
戸惑うその声は男子中学生特有の中低音。男の子か女の子か分からないわけだ。
「今、歌ってたのって憂衣くんだよね?」
「えっ、は、はい」
「私、貴方の声に一目惚れ……じゃない、一聞き惚れ……?とにかく、好きになっちゃった!!」
☆ ☆ ☆
憂衣くんの真っ赤になった頬に気がついたのはそれ程遅くはなかったと思う。
それはさながら熟れて甘い香りを放つリンゴのような、自分の腹が満たされるのを待ち続ける郵便ポストのような、はたまた燃え上がり過ぎて始末に負えなくなったキャンプファイヤーのような。
まだ子どもらしさが残る柔らかそうな頬を、そんな赤いもの連想ゲームをしてしまうくらいに真っ赤にした彼は、何かを言おうと幾度か口をパクパクと動かしたと思ったら、結局何も言わずに黙りこんだ。……と思ったら次は顔を青ざめさせてしまうのだから、今度はこちらが慌てる番だ。
「え?え?憂衣くん大丈夫!?私変なこと言った!?」
自覚は無いけれど、何か気に障る様な事言っちゃった……!?
どうしよう……彼の声がきれいで素敵だったって言いたかっただけなのに……。
…………あれ?ちょっと待って私なんて言ったっけ。
――好きになっちゃった!!
すきに、なっちゃった……?
スキニ…………。まさか!
「あ、あの憂衣くん?もしかして勘違いして…」
「よろしくお願いします……!」
「は?」
「え?」
このちぐはぐな会話が私たちの出会い。
デコボコで、デタラメで。
でも何かが始まるって予感があったのは、この日吸い込まれるように辿り着いた音楽室で出会った
彼とならきっとどんな
そう思えたんだ。
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