私達は魔法少女!
海星めりい
私達は魔法少女!
「やあっ!」
気合いを入れた声とともに振るわれた一閃が黒い影のような化け物を切り裂いた。
「グオオオッ!?」
切り裂かれた化け物は致命傷だったのかサラサラと砂のように溶けて消えてしまう。
それを見た少女は額の汗を拭いつつため息を吐く。
「ふう、これで五体。少しは一息つけるかなあ……でも、これ以外にも上級使い魔がまだまだいるんだよね」
少女が今倒したのは上級使い魔と呼ばれる化け物だ。
使い魔とは悪の魔法使い達が集まった組織――シャドータングラムが生み出す量産型の化け物とでも呼ぶのが適切だろうか。
量産型といっても、シャドータングラムもおいそれと生み出すことは出来ないようで、今までは上級使い魔は幹部の配下として一~二体出てくる程度だったのが、ここに来て数十体が同時に現れている。
それに合わせて下級の使い魔も大量に出現しているため非常に厄介な状況だ。
次はどう動くべきか悩んでいると、少年のような声とともに小動物を模した黄色のぬいぐるみっぽい生物が語りかけてきた。
『お疲れさまだルゥ、ミユリ。やっぱりキミは優秀な魔法少女だルゥ。キミを魔法少女にした僕の選択は間違っていなかったルゥ』
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……私なんてまだまだだよ。それよりもリップル、状況はどうなってる?」
話しかけてきたのはリップルという魔法少女のパートナーである妖精の一種だ。一種といったのは魔法少女にはそれぞれ個別の妖精がパートナーとしてついているからである。
ごく普通の少女であったミユリに対し高い適性があるといって魔法少女にした張本人でもある。
『他の場所でも魔法少女が使い魔を順調に倒してるルゥ。でも、シャドータングラムも今回ばかりは本気みたいだルゥ。使い魔の数が倒された先から次々と出現してるルゥ』
「じゃあ、私も休憩している場合じゃない! 急がないと――えっ!?」
ミユリがすぐさま別の場所へ移動しようとした直後、背後から数体の使い魔が襲いかかってきていた。
撃ち漏らしはいなかったはずなので、僅かな休憩の間にこっそりと近寄ってきていたのだろう。
気付くのが遅れたミユリは一撃受けることを覚悟したが――
「「「グウゥオオオ!?」」」
使い魔はどこからか飛んで来た魔力弾に撃ち抜かれ一瞬で消滅してしまった。
「まったく、ミユリはどこか抜けてるんだから……大丈夫?」
「ヒメちゃん!」
現れたのは緑を基調とした魔法少女――ヒメだ。
「私の方は片付いたからミユリと合流しようかと思えば使い魔に襲われているんだもの。しっかりしてよね」
「あははー、ありがとねヒメちゃん」
「まあ、いいわ。私達はこのまま中心部へ向かうわよ。多分そこで、ライカとエンジュにも合流出来ると思うわ」
「わかった!」
ミユリとヒメの二人は一緒にシャドータングラムの本隊が待ち構える中心部へ向けて飛んでいく。
「グルァォアアアア!!」
「邪魔!」
道中、多数の使い魔が襲いかかってくるが、ミユリは近づいてきた使い魔を次々と手に持つ二本の剣で切り裂いていく。
「ミユリはそのまま突っ切りなさい! 死角の敵は私が抑えるわ!」
ダン! ダン! と発射音とともに魔力弾を連射して、ヒメはミユリを背後から襲おうとしている使い魔や行く手を塞ぐ使い魔を次々と倒していく。
ミユリが近接系の魔法少女であるならば、ヒメは遠距離系の魔法少女と呼ぶのがふさわしいだろうか。
二人で協力してほぼ全ての使い魔を倒した所で、二人の妖精が警告を発する。
「気をつけるルゥ! この感じ……アイツが来るルゥ」
「相変わらず目障りな存在だな――魔法少女!」
リップルのその警告の直後、現れたのは全身黒一色の存在。その手には二本のガンブレードが握られており、発する威圧感も使い魔の比ではない。
「シャドーペイン!」
「現れたわね……最高幹部」
ミユリとヒメが呟いた通り、この男はシャドータングラムの最高幹部の一人で幾多も戦った相手だ。
撃退こそしたことはあるものの倒しきることには失敗した相手でもある。
「ここまで、追い詰められるとは想定外だよ。存外やるものだが……貴様らはここで終わりだぁ!!」
その言葉とともにシャドーペインは一足飛びでミユリへと肉薄し、両手のガンブレードを振るう。
ギャリィン! と武器同士がぶつかり合った音が鳴り響き、ミユリはその衝撃に一瞬怯むもすぐにはじき返す。
「流石は魔法少女……こうもたやすく返されるとは……」
「相手はミユリだけじゃないのよ!!」
バックステップで退避したシャドーペインを追撃するようにヒメが魔力弾を放つ。
「舐めるな!」
シャドーペインはそれをガンブレードから発射した魔力弾で迎撃するも、二対一では厳しいらしく徐々に追い詰められていく。
「っく……」
「いい加減諦めなさい?」
「降参して下さい!」
ヒメとミユリが降参を促した直後、何かがこちらに飛来してきていた。
「あれは!?」
見れば、シャドーペイン以外の最高幹部が飛んで来ている。合流されれば厄介なことになると思った二人だったが、その後ろに見える二人を見て、視線をシャドーペインへと戻した。
「おっすー、わりいな戦ってたらこっちに逃げられちまって」
「不可解……なぜここに逃げた?」
「ライカちゃん、エンジュちゃん!」
魔法少女であるライカとエンジュがやって来たのだ。改めて見れば逃げてきた幹部も傷を負っており、万全の状態とはかけ離れていた。
合流されたのは厄介といえるが、数の上ではミユリ達が有利だ。
しかも、相手はこちらよりも傷を負っている。普通に考えればミユリ達の勝利はゆるがないだろう。
だが、
「ここに集めたこと自体が貴様らの敗北なのだ!」
シャドーペインの声とともに、最高幹部が重なったかと思うと一つの巨大な存在へと変貌した。
傷ついた身体も直っており、感じる魔力はとてもつもないものだった。この場の誰よりも多いだろう。
まさかの出来事に呆然と見上げるミユリ達に対し、シャドーペイン達はチャンスとばかりに攻撃を仕掛ける。
「これで終わりだぁ!」
「ミユリ!」
反射的になんとか動けたヒメが隙だらけのミユリを庇うように、前に躍り出て両手を交差させたのだが……
「うそっ!? 魔法障壁が持たない!?」
「ヒメちゃん!?」
耐えきれると思っていた魔法障壁にひびが入っていく様子を見て焦ったような声を出す。
「ああ、もう! しょうがないなあ! 大体耐えるのは俺の役目だろうがよ!」
「ちょっとは私も足しになるはず」
さらに、ライカとエンジュもヒメの前に出て魔法障壁を張る。
ライカは特に防御力に優れた魔法少女のため、なんとか防ぎきることには成功した。
しかし、
「っち、大分ヤバいぞこりゃ」
「……消耗が激しい。このままだとマズいかも」
ライカとエンジュの顔色は優れない。
あれ程の攻撃を無理矢理防げばこうもなるだろう。
そして、そんな魔法少女のことは相手も分かっているようだった。
「ほう……耐えたか。だが、その様子ではもう一撃は無理だろう。これで終わりだ」
その言葉とともに、シャドーペイン達は魔力砲の再チャージに入る。
まさに絶体絶命という状況だった。
「皆……あれをやろう!」
「あれ……って、ミユリ、アンタまさか!?」
「ま、この状況なら試す価値はあるかもな」
「本気?」
全員から確認されるがミユリは是非もなく頷いた。
それと同時に四人の魔力が高まっていく。
そのことによって何をやろうとしているのか気付いたリップルが大声を上げる。
『無茶だルゥ!? まだ、一回も試したことがないルゥ!?』
「無茶でも何でもやるしかないの! リップル達も制御手伝って!」
そう言うと、ミユリは魔力の制御にさらに集中しはじめた。
それを見たリップルはもう止められないと半ばやけで叫ぶ。
「ああ、もうどうなっても知らないルゥ!!」
四人の魔力がリンクしていき、シャドーペイン達の魔力砲にも劣らない魔力が生み出されていく。
「これは……いやだが私達に負けはない! ここで滅びよ!」
四人が集まっていることに本能的に恐怖を覚えたのか、先手を打つように魔力砲が放たれる。
魔力砲が迫る中、全員の魔力を合わせた力がミユリの持つ剣へと注がれ魔力が迸る。
「私達だって!」
「負けはないのよ!」
「なぜなら!」
「私達は!」
「「「「魔法少女だぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」
ミユリの剣から放たれたのはビームのような光の奔流。その光は魔力砲ごとシャドーペイン達を呑み込んでいく。
「ば、ばかな……これほどの力が……ばかなぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
光が過ぎ去った後には何も残されていなかった。
シャドーペイン達は完全に消滅したようである。
「魔法粒子残量一パーセント……ギリギリね」
「ふぃー、なんとかなったか」
「こんな無茶二度とゴメンだわ……」
「でも、やったよ! 皆!」
「「「ええ、そうね(だな)!」」」
皆の声を聞いたミユリは大声で宣言する。
「これより全機、帰投します!」
こうして、シャドータングラムを壊滅させた
だが、魔法を悪事に使う存在はまだまだ残されている。
彼女達はそれを食い止めるためにこれからも戦い続けていくことだろう――魔法少女として。
私達は魔法少女! 海星めりい @raiki
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