短編43話  数ある勝ちたいいざその向こうへ!

帝王Tsuyamasama

短編43話  数ある勝ちたいいざその向こうへ!

「オーーーッホッホッホ!! 相手にならないわね!」

「ぐっ……だめ、だっ、た……かばたっ!」

 ミスターゴールデンポインター5ポイントは俺の領域西並にしなみ 源七げんしちと練習し鍛え上げたバックギャモンでも、朝階あさがい 乃和華のわかの前では3ポイントマッチ3点先取で勝ちで0-4の一発ギャモン負け場が2倍時の2点負けという……。

 教室内で、オレンジ色の生地に白と黒のポイント駒を置く場所の三角形の柄のバックギャモンケースを囲み集まっていたギャラリー学生たちは「やれやれ」「やっぱりな」「無謀な勝負だったのだ」「相手が悪い」「乃和華様すてきぃー!」などという大方予想どおりな反応だった。

 本日も髪の毛くるくる内巻きにしている乃和華。そして周りにはその乃和華お嬢様を称える者たち親衛隊が多数いた。

 乃和華は、まぁ一応俺、締外しめそと 牧雪まきゆきとは小学校からの仲なんだが……何を対戦しても乃和華に勝てないんだ。

 スポーツも勉強も、こうしてテーブルゲームも全戦全敗……。

 一応握力とか筋肉とか明らかに男女差が出るものは対戦外という取り決めが成されている。もちろん俺だって反則してまで乃和華に勝ちたいとは思わない。

 にしても今日も乃和華のオーッホッホッホが教室中に響き渡っている。

「牧雪。お前はこれまでよく頑張ったよ。オレらはもう中二中学二年生なんだ。確かに朝階は制服こそオレらの学校の女子と同じセーラーを着ている。だがそもそもが別次元の人間だ。そろそろあきらめて大人になろうぜ。なっ?」

 ぽんっと俺の左肩に手を置いてきた源七。

「くっ……なぜだ……なぜなんだっ。ひとつくらい……なにかひとつくらい乃和華に勝てるものがあるはずなんだ! 圧倒的な強さで乃和華を屈服させ、大勝利できるなにかが俺にはあるはずなんだぁ!!」

 源七の慰めてくる手を払いのけ、まだ消えていない闘志を燃え上がらせていた!

「一体これまでどれほどの勝負をしてきたと思っているのかしら。そのすべてでわたくしが勝利を収めているというのに、よくもまあ何年も懲りずに挑んでくるものね」

 地味に身長も負けそうなんだよな。俺低めだから。

「ぐぬぬぅ~……!」

 当然、こうやって乃和華から見下されながらも戦いまくってるのには理由がある。

 その理由はずばり。乃和華のことが好きだからさ!

 俺は乃和華と付き合いたいんだ! 乃和華と手をつないで歩きたいんだ! なにかひとつでも乃和華に圧勝して『俺の勝ちだ。というわけで俺と付き合え。あぁ拒否権はねぇぜ? 勝者はこの俺様だからな!』とか言って屈服させたいんだ!!

 あぁいやあのそのあれだぞっ? なんでも命令して言う事聞いてほしいとかそんなんじゃなく、あくまで告白するきっかけを作りたいだけなんだ。

 しかも相手はオーッホッホッホ的にも家柄的にもお嬢様。真正面から正々堂々と勝負して打ち負かすくらいのおとこでなければ、告白したとしても相手にもしてもらえないだろう!

 こうして俺の中学生生活は、毎日乃和華のことを考えながら時が刻まれているのであった。



 最近思うのだが……俺はまだまだ鍛錬が足りない気がする!

 それに勝負とは別に自らの正々堂々さを見せ、高い精神力をもって乃和華に挑まねばならない気がする!

(俺の乃和華への想いは生半可なもんじゃねぇ!)

 よし。今日から俺はもっと誠意を重ねていくことにしよう! ゆくぞっ!!



「おう、それ持ってやるよ」

「何のつもり?」

「いいじゃねぇか。俺と乃和華は戦友ライバルだろ?」

「牧雪が勝手に勝負を仕掛けてきているだけじゃない」



「おう、あれ取りたいのか? フッ。そらよっと!」

「きゃっ、危ないわね! もし落ちてきてけがでもしたらどうするつもり!?」

「立ち上がるのみ!」



「パセリもらってやろうか?」

「食べられるわよっ」



「おう、俺がふたつとも持ってってやるよ」

「別に無理しなくていいわよ。ひとつわたくしが持つわ」

「いいってことよ。こうして日々訓練に励んで、打倒乃和華の日に向けて鍛錬を重ねているのさ!」

「本当に何年経っても飽きないのね……でもいいわ、ひとつちょうだい。一緒に行」

「俺には乃和華に勝つことこそが生きがいなのだ! 絶対に負けられない戦いがここにはあるのだー!!」

「あなたいつも負けているじゃないの……」



「おはよう。ずいぶん早いわね牧雪…………まさか牧雪、もう全部やったの?」

「おはー。うぉっほん当然だ! 黒板周りも窓周りも机の微調整も! めだかの世話も済んでいるぞ! 一日を振り返る日誌も俺が書くぞ!」

「あのねえ。全部牧雪がやったらわたくしが日直の仕事を放棄しているようになるじゃないの」

「俺は自発してやってるだけだ! しかしそんなに言うのなら、俺が書いた日直担当者名だけでも乃和華が書き直すか?」

「……別にそのままでいいわ」



「牧雪。今回のテストはどうだったのかしら」

「うわぁーーーん!!」



「牧雪じゃない。もう帰るの?」

「ああ。乃和華も帰りか?」

「ええ」

「そうか。荷物をよこせ」

「はあ? どうして?」

「持ってやると言ってるんだ。乃和華の家はちょっと遠回りになるくらいでそんなに遠くないからな」

「い、家まで来るの?」

「ああ。塾かなにかの日か?」

「そういうのじゃないけど……」

「ならば問題なし!」

「ちょっと、こらっ……もうっ。わかったわ。一緒に帰りましょう」


(……あれ? 俺。今好きな人と一緒に帰ってません?)

 慣れた帰り道。団地の中を突っ切るんだが、途中までは俺も乃和華も同じ道なはずだから、荷物を持って誠意を見せようとしたんだが……。

(俺~…………好きな人のカバン、肩に掛けてません?)

 左肩から右下にかけて俺のカバン、右肩から左下にかけて乃和華のカバン。どっちも同じ学校指定の紺色の肩掛けカバン。でも乃和華の方はなんかすべすべしてるような気がする。

 乃和華は俺の左隣を一緒に歩いている。同じペースで。ちょっとゆっくりで。

「ねえ牧雪」

「なんだ!」

 俺はいつでも臨戦体勢だぞ!

「最近牧雪どうしたの? なにか変じゃない?」

「変とはなんだ! 俺はいつも正々堂々! 正面から! 真っ向勝負で戦っているだろう!」

「そうかもしれないけど……なんかいつにも増して優しくしてきて……」

「優しく? フッ、俺は単に…………」

(……ん? 優しく?)

「単に、なによ」

「いや………………別に?」

「なによそれ」

 乃和華から『優しい』って単語が出てきたぞ? 俺が乃和華に優しい?

(とりあえずは誠意は伝わっているという評価でいいのだろうか)

「乃和華。少し確認だが」

「なにかしら」

 こっち向いてる乃和華。うむ。今日も好きだ。

「乃和華の周りにいる漢で最も誠意ある漢は、俺か?」

「は、はあ?」

 単純に乃和華に勝って屈服させるのもそうだが、その前に周りの漢を上回る強さを手に入れれば充分に乃和華に対抗できる力を蓄えたことになる、という解釈もあるからな!

「どうだ?」

「誠意って、急に言われても……」

 ふむ、右手をあごに添えて深く考えているようだ。やはり超絶完璧お嬢様の周りに集まりし漢たちは強敵だらけかっ。

「……そうね。昔から芯がぶれないし、一生懸命に物事へ取り組んでいるのも知っているわ」

「それでどうなのだ! 一番か? 俺は一番なのか!?」

「ちょっとっ、い、一番かだなんて……」

 考えろ考えろ! そして答えをくれ!

「…………え、ええ。いちばんよっ」

「本当か! 乃和華の周りにいる漢の中で俺が一番か!」

「そ、その言い方はどうなの……?」

 その表情はなんだっ。まだ俺の知らない強敵がどこかに潜んでいるのか?

「……そっ、そうよっ。牧雪がいちばん優しいわっ。もう、なによこれ……」

(キタッ! これで俺もより堂々と乃和華と戦えるというものだな!!)

「そうかそうか! 乃和華に一番だと認めさせられたのは一歩前進だ。だがもっと鍛えて、もっと己を磨き、もっと立派な漢になってみせる! そして乃和華と戦うによりふさわしい漢になり、真っ向勝負で勝ち、悲願である告白を全身全霊でぶつけてやるからな! 覚えておけ!!」

 と、めちゃくちゃ気合入れて宣言し…………

(っちゃったんですけどおおお!?)

 うおおおお!! 俺は! 俺は俺は俺はーーー!!

(ちらっ)

 あ、乃和華立ち止まった。俺も止まろう。

「……こっ、え、ええっ……!?」

 乃和華の目がより開いたのがわかった。

「えー……あー……はははのはー……」

 俺の想いが……想いがぁぁぁ!!

「……こほんっ。牧雪」

「な、なんだね?」

 ちょっと声裏返ってもうた。

「詳しく……牧雪の、その、気持ち……聴かせなさい」

 ちょっと上目遣いな乃和華は珍しいが、そんなことを言っている場合ではない!

(くっ……こうなっては仕方がない!)

 俺はいったん深呼吸をした。そして口を開いた。

「……強い漢になって。立派な漢になって。正々堂々と勝負して勝ち、俺の強さを認めさせ、そして乃和華に告白するんだ」

 両手で自分の口を押さえた乃和華。くしゃみでも出そうになったとか?

「俺は乃和華のことが大好きなんだ」

 ……涙? まさか……

(花粉症?)

 俺は花粉症なんて跳ねのけてやる!

「小学校のときからずっと大好きで。一緒におばさんのミサンガ探したときはまだよく知らなかったが、勝負を通じて乃和華のことをわかってきて、それと同時に乃和華が好きだっていう気持ちに確信を持った。どれだけ時間が経っても、どんなに負け続けてもこの気持ちは失われず、むしろ今もなお燃え上がり続けている。そのくらい乃和華のことが好」

「わかったわよぉっ! もうそれ以上言わないでっ」

 え? え、ちょっ、まじで泣いてんの?

「あ、ああ乃和華? あの、泣かせるつもりなんてなくてだな? 聴かせてくれと言われたからそのまま俺の気持ちを」

「わかってるわよわかってるわよ! 牧雪がド正直なのくらいよくわかってるわよ! 一体どれだけの勝負の付き合いだと思ってるの!」

 うええ? 俺怒られてる?

「あの、えっと、すまん?」

「うるさいわねちょっとだまりなさい!!」

「乃和くぁっ」

 涙を流しつつ声が震えていた乃和華が急に接近してきたと思ったら、もう俺の唇に柔らかい感触が重なっていた。

(一体どういうことなんだよぉーーー!!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編43話  数ある勝ちたいいざその向こうへ! 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ