21. 性教育を受けるソフィア
(ケイト視点)
山賊の男が走り去った後、私はソフィアに尋ねた。
「ソフィア、あの光の球はまだしばらくもつかしら。」
「あと30ぷんくらい。たりなければ、またつくる」
「そう、それだったらここを離れない? さすがに死体の傍で夜を明かしたくないもの。」
全員の賛成が得られたので、テントを畳んで移動を再開する。あの光の球は数十メートル上空を漂いながらソフィアに付いて来る様で、夜中でも歩くのに不自由はない。もっとも山賊達に私達の居場所を知らせている様なものだけど、あれだけ痛い目に遭った直後に再度襲って来る可能性は低いだろう。
「しかし、酷いもんス。あれじゃ農民が可哀そうス。」
とマイケルがぽつりと独り言を言う。
「まったくだわ、村長が国を嫌っていた理由が良く分かるわね。」
「たすける、どうすればよい?」
「私達みたいな冒険者にはどうしようも無いわ。いっそのことオーガキングが人間の国を征服したら何か変わるのかしら。」
「おいケイト、物騒な事を言うもんじゃない。誰かに聞かれたらやばいぞ。」
「ここだけの話よ。正直オーガキングの方が人間の王様よりましかもしれないわよ。村長もそう思ったから魔族の国に付いたんだし。」
「まあ、異論はないけどな。」
「結局、王様が変わらないと国は良くならないということスかね。」
「そうかもしれんな。マイケルが王様になればどんな国になるかな。」
「俺がっスか? こんな頭の悪い奴が王様になったら、すぐに国が潰れるっスよ。俺なんかよりソフィアちゃんの方がよっぽど王様に向いてるっス。王様じゃなく女王様っスけど。なんか高貴な感じがするっスよ。」
「こうき、なに?」
ソフィアはまだ難しい言葉は分からない様だ。
「高貴って言うのはね、貴族様や王様みたいに偉い人のことよ。」
「わたし、こうきちがう。こうきは、おかあさん。」
「へー、ソフィアちゃんのお母さんは高貴なんだ。」
「おかあさん、おうさま」
「そうなんだ、でもお母さんなら王様じゃなくて女王様だよね。」
「じょうおうさま、ちがう、おうさま」
「そうなんだ...」
どうも王様と女王様の違いが分かっていない様だ。ソフィアの家ではお父さんよりお母さんが威張っているから、お母さんが王様なんだろうか? まあ、人の家庭のことに首を突っ込むのはやめておこう。
それからしばらく歩き、戦闘があった場所から少し距離を取れたところで、再びテントを張った。今夜はここで、ふたりずつ交代で見張りしながら眠ることにする。
(ソフィア視点)
一度人間(山賊と言うらしい)との戦闘があってからは、特に襲われることはなく、数日して私達はマルトと言う町に到着した。この町への途中、寝る時には交代で見張りをした。お母さんに貰った結界石を使うことも考えたが、あれは魔物の侵入を防ぐためのもので、矢の様な飛んで来る武器の侵入は防げないと思い当たって諦めた。
カラシンさん達はこの数年この町を中心に活動していたらしい。この町の周辺の山々には魔物が生息しているところが多い。カラシンさん達はその山々で魔物退治をしたり、薬草を採取したりして報酬をもらっていたそうだ。
この町には村よりもずっと沢山の人間がいると言われた。その上、町に入ると擦れ違う人達が皆私を睨んでいる様な気がする。恐怖に固まった私はカラシンさんの上着の裾を掴んでピッタリとくっつき、カラシンさんの背中だけを見つめて歩いている。周りを見て人と目が合うのが怖い。
まずは宿屋に向かう。町に到着したのは夕方なので、活動するのは明日からにして、今日はゆっくり休んで旅の疲れを取ろうと言う事になっている。町の入り口から少し歩いたところにある宿屋に入った。カラシンさん達がよく利用している宿屋で、一泊朝食付きで銀貨10枚とのことだ。私はお金を持っていないと言ったら、村長さんに村の護衛の報酬をもらっているから大丈夫と言われた。後で皆に分配するよと言われたが、私はお金を貰っても使い方が分からない。カラシンさんに預かっていて欲しいと伝えたら了承してくれた。カラシンさんがいて本当に助かる。
宿屋で借りた部屋はふたつで、私とケイトさんの部屋、カラシンさんとマイケルさんの部屋だ。私はカラシンさんと同じ部屋が良いのだが、それを言ったらケイトさんが怖い顔で 「ダメ!」 と言ったので素直に従った。女の子のたしなみというやつらしい。
部屋に付くとケイトさんが、
「
と言って来た。
「せいきょういく、なに?」
「子供の作り方についてよ。どうすれば子供が出来るのか知っておけば、望まないのに子供が出来ることも防げるからね。」
「カラシンのこども? わたしほしい。つくりかたしりたい。」
と思わず口走っていた。今じゃないけどカラシンさんの子供は欲しい。どうすれば良いのか是非知りたい。だけどケイトさんは私の勢いに引いたのか、
「ち、ちょっとまって。まだ子供は早いって。」
と言う。
「すぐちがう、いまのわたし、いいおかあさんちがう。」
「そうなの?」
「おかあさん、すごいひと、なんでもできる。わたし、できないこと、しらないこと、たくさんある。いいおかあさん、なれない。」
「そうなんだ。ソフィアのお母さんはすごい人なのね」
「おかあさん、すごい。わたし、かなわない。いいおかあさんなれない。」
何だか話している内に絶望感に襲われた。私はお母さんには決して届かない。知識でも魔力でも力でも...沢山の精霊や魔族がお母さんを尊敬して慕っている。どう考えてもかなわない。私はあんなすごいお母さんに成れない。私が子供を産んだら、子供が可哀そうだ。そんなことを考えていると涙がこぼれた。
「泣かないの。子供はね、すごい親なんて望んでいないのよ。子供が望んでいるのは、一緒にいて自分を愛してくれる親よ。少なくとも私達孤児はなんでも出来る親なんて望まなかった。一緒にいて優しくしてくれる親が欲しかった。馬鹿でも出来ないことが沢山あっても、そんなのどうでも良かったわ。だからね、ソフィアは今のままで十分よ、良いお母さんになれるわよ。」
「ほんとう?」
「本当よ。もしお母さんが馬鹿で何もできない人だったら、ソフィアは嫌いになった?」
そう言われて、初めて自分が間違っていたことに気付いた。ケイトさんの言う様に、たとえお母さんが馬鹿で何も出来なくても、きっと大好きだったと思う。いつも私の傍にいて優しい言葉を掛けてくれ、いつも私のことを気にかけてくれたもの。それが分かるとすごく嬉しくなって、
「わたし、こどもつくる。すぐ、つくる。」
とケイトさんを見つめて叫んでいた。早く子供を作る方法を教えて欲しい。でも、ケイトさんは何故か「しまった! こんなはずじゃ...」とか言って、なかなか教えてくれない。
その時、扉がノックされた。カラシンさんが「食事に行かないか」と誘いに来てくれたのだ。マイケルさんも一緒だ。ケイトさんはホッとしたように、「続きはまた後でね」と言って来た。仕方がない、カラシンさん達を待たせるわけにもいかないし、子供の作り方は今夜部屋に帰った時に教えてもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます