11. 回復薬を作るソフィア
(ソフィア視点)
ケイトさんの話では、しばらくこの村に滞在することになりそうだ。それなら、今のうちに使い切ってしまった回復薬を補充しておきたい。だが、ケイトさんに森に薬草を取りに行きたい旨を話すと反対されてしまった。今、森に入るのは危険だと言うのだ。カラシンさんも同意見だ。どうしよう...回復薬がないといざという時不安だ。
回復薬の原料になる薬草は、リュックに詰めていくらか持ってきているが、森ならどこにでも生えているアマツル草やマイシ茸、トリクル草の実、コトロギ草の根ついては、リュックを軽くするためにほんの少しずつしか持って来なかった。必要になればすぐに手に入ると思ったのだ。まったく無いわけでは無いけれど、無駄なく使っても回復薬2本分が限度だ。でも、たった2本でも全く無いよりはましだ。私は回復薬を2本だけ作ることに決めた。
その日の昼、私はケイトさんに断って寝室で薬作りをさせてもらうことにした。まずは作業台代わりのチェストの上に、必要な物を並べて行く。ソラミ草の種、シマコトシ草の芽、それにリクルの実。この3つは森の中でもお母さんと私が住んでいた深奥と呼ばれる場所に行かないと手に入らない。それから、アマツル草やマイシ茸、トリクル草の実、コトロギ草の根だ。さらに愛用の濃縮装置と、さっき庭の土から土魔法で作った薬を入れる瓶だ。後は埃が入らない様に、周りを結界で囲ってから浄化の魔法を使えば準備完了だ。
まずは、先ほど汲んできた井戸水を結界に閉じ込めて空中に浮かべ、浄化の魔法で不純物を取り除く。次に水に高圧を掛けながら加熱することにより温度を180度まで上昇させる。小さい時は、これが薬作りの最初の関門だった。少しでも集中力を切らすと結界が歪み、中の圧力が下がって水が一気に沸騰し水蒸気爆発が起きる。何度か家を吹き飛ばしてお母さんに叱られたっけ。
水が十分に高温になったら、コトロギ草の根を投入する。投入直前に魔法で細かく粉砕するのがコツだ。前もって粉砕しておくと薬効が落ちる。コトロギ草の根を投入すると水が紫色に濁るが、しばらく待てば澄んでくる。底にたまった残留物を捨てて、次にソラミ草の種とマイシ茸を同じく粉砕したものを加える。結界の中で小規模な爆発が起き、一気に圧力が上がるがそれを結界を強化してねじ伏せる。その後はシマコトシ草の芽、アマツル草、トリクル草の実の順に投入する。後は濃縮装置を使って要領が10分の1になるまで濃縮し、それに別途濃縮したリクルの実の果汁を加えて反応させれば完了だ。あとは出来上がった薬を薬瓶に詰めて出来上がり。何とか2本分の回復薬を作ることができた。ここまでで3時間程。結構時間が掛かるし、大量に作ってもほとんど時間が変わらないから、一度に沢山作った方が効率が良いのだ。
出来上がった回復薬は、その内の1本をケイトさんに渡しておいた。まあ、役に立つ時が来ない方が良いのだけれど。
ほんの2本だけだが、回復薬を補充することが出来て一安心だ。作っている間ずっケイトさんが横で見ていたので緊張したけど、うまく出来たと思う。もっとも回復薬は怪我には有効だが病気には効かないことが多い。それを考えるともっと色々な薬を作っておきたいところだ。まあ今のところ病気にはリクルの実がまだあるけれど、このまま保存できるのは1年が限度だ。やはり食べつくす前にいくつかは薬に加工しておこうかな。
(ケイト視点)
興味本位で、薬を作るというソフィアに見学して良いと聞いたら、ふたつ返事で承知してくれた。薬を作るところを見るのは初めてだ。もちろん生まれ育った孤児院では近くの野原で取って来た薬草をすりつぶして傷に塗ったり、病気の時には薬草を煮だしたものを飲まされたりしていたから、全く初めてというわけでは無いが、回復薬と呼ばれる様な本格的な薬については初めてという意味だ。本当なら、薬の作り方は、それぞれの薬師の秘伝として人に見せたりしないと思うが、ソフィアは薬師ではないから大丈夫なんだろう。
最初に薬の原料となる薬草を台の上に並べて行く。結構沢山の種類の薬草を使うんだと感心する。なかなか本格的な薬の様だ。カラシンがA級回復薬と同等の効果があると言っていたけれど、あいつがA級回復薬を飲んだことがあるなんてあるわけないから考えるまでもなく冗談なんだろう。なにしろ、A級回復薬は、町で立派な家を一軒買うのと同じくらいの値段がする。そんなものを作れたらソフィアだってこんなところで冒険者なんてしているわけが無い。
だけど、薬作りが始まってすぐに、これはおかしいと気付いた。だって、空中に水の球が浮かんでいるんだ。ソフィアの魔法何だろうけれど、薬を作るのに魔法が必要なんて聞いたことが無い。水の球は原料の薬草を投入する毎に色が変わったり、内部で爆発が起こったりと変化していく。それになんだか暑い。周りに火の気はないのに部屋の温度が一気に上がった気がするぞ、それもあの水の球が熱を発している様な...。
結局3時間くらい掛かって、出来たのは小さな瓶に2本の回復薬。でも、素人の私でも、あの出来上がるまでの工程を見たら、ただの安物の薬ではないと分かる。1本手渡されたけれど、これがもしA級回復薬と同じものだとしたらと思うと少し手が震えた。
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