12. 冒険者の試験を受けるソフィア
(ソフィア視点)
今日は冒険者に成る為の試験の日だ。冒険者に成るには試験というものに合格する必要があるらしいが、ケイトさんが魔法使いの試験は形だけと言っていた。もっとも私がへましなければだけど。朝食後にカラシンさん、ケイトさんと一緒に隊長という人に会いに行く。その人が私を試験するらしい。出かける前にカラシンさんが、「あまり目立つことをしてはダメだ」とアドバイスをくれた。あぶない、あぶない。試験では私の最強の魔法を見せようと思っていたんだ。やり過ぎたらダメだってことか。危うく不合格になるところだったよ。ありがとう、カラシンさん。
試験場として指定された場所に着いて、隊長に会ってみると見覚えがある、先日カラシンさんに話しかけていた人だ。私に向かって長々と何か言ってきたが、正直良く分からなかった。まだまだ、カラシンさんとケイトさん以外の人に会うのは緊張して、相手の言うことが頭に入ってこない。カラシンさんの方を見ると、大丈夫だと言う様に頷いたので、
「わたし、ぼうけんしゃ、なる」
と返す。別に変な顔をされなかったから、これで通じた様だ。
「まずは魔法....あの岩を攻撃....なんでも良い。」
と言って、ひとつの岩を指さした。聞き取れない部分もあったが、たぶん魔法であの岩を攻撃しろと言うことだろうと見当をつける。距離は30メートルくらいだ。岩に黒い塗料で丸が描いてあるのは、あそこを狙えと言うことだろうか。その時、カラシンさんが近づいて来て囁く、「ソフィア、岩を壊しちゃだめだ」。
危ない! 壊しちゃダメなのか。ファイヤーボールで岩ごと破壊しようとしていたよ。ひょっとして破壊力ではなく、狙いの正確さを見るのかな? それならファイヤーボールは小さい方が良いのかも。でも小さいファイヤーボールって作るのが難しいんだよね。
私は苦肉の策で、少し時間がかかったものの胸の前に作り出した通常のファイヤーボールを直径5センチメートルくらいに小さく圧縮してから発射した。こんな小さなファイヤーボールには慣れていないので心配したが、狙った通り黒丸の中央に「バスッ」という音と共に命中する。
ホッとしてカラシンさんを見るが、なぜか顔が暗い。失敗した? さすがに威力が小さすぎたのだろうか。隊長さんも何か怪訝そうな顔をして、的の岩に向かって歩き出した。岩まで到着して覗き込む隊長さんから、
「これは!?」
という声が聞こえた。これはダメか? せっかくカラシンさんと一緒に仕事ができると思ったのに...。だが、戻って来た隊長さんは、
「合格だ、それでは次は.....................」
と言った。合格? と言われたのかな。後半は聞き取れなかったけど...
「でも、彼女は剣士じゃなくて魔法使いですよ。剣の試験もするんですか?」
とケイトさんが言う。隊長さんの言葉は一部しか聞き取れなかったけど、ケイトさんの言葉はほぼ分かった。次は剣の試験の様だ。隊長さんが木で出来た剣を差し出してくるので受け取る。
「よし、来い!」
と隊長さんが言う。だが隊長さんと目を合わせた途端怖くなった。この人思いっきり私を睨んでいる。怖い! この剣で叩いたら怒られるんじゃないだろうか。そう考えると怖くて身体が動かない。どうしょう...考え出すとますます動けなくなった。
その時、私が動かないのにしびれを切らしたのか、隊長さんが踏み込んで上段から剣を振り下ろしてくる。私は無意識に左にステップして躱すと、相手の首を狙って剣を振り上げていた。魔物に対応するときの癖だ。次の瞬間、まずい! きっと怒られるよ! と思い剣を止めようとするが、使い慣れた短剣ではないのでそこまで思い通りにならない。それでも何とか相手の首に当たる寸前で止めることができた。
「まいった.........」
一瞬怒られるかと思って身体がビクッとなったよ。でもやっぱり怒っているのか、隊長さんはこの後、ケイトさんとカラシンさんに長々と何か言っていた。文句だろうか。それでもしばらくすると、再び私に向き直り、
「合格...」
と言ってきた。合格したんだろうか? 不安になってカラシンさんを見ると笑顔で頷いている。やった! 本当に合格したようだ。
(ジョン隊長視点)
ケイトが冒険者志願の少女の試験を行って欲しいと言ってきた。確かにAクラス冒険者の俺にはその権限があるが、そんな面倒なことをしたことはない。なんでも、町に行って冒険者に登録した後、ケイトのチームに加わる予定だったが、オーガ騒ぎでケイト達はここを動けなくなったから予定が狂った。俺がここを動くなと命令したのだから、何とかしろと言うことらしい。魔法使いだからきっと役に立つよとも言われた。
正直、気は乗らない。ここで冒険者になるということは、初仕事がオーガ退治というとんでもない状況になる。やめた方が良いに決まっている。まずは実力に会った仕事からこなして行かないと、簡単に命を落とすことになる。昨日も沢山の仲間がオーガにやられて亡くなっているのだ。
だが一方で、国からの依頼をこなすには少しでも戦力が欲しいのも事実だ。その少女が掘り出し物の可能性もある。オーガと戦えるだけの実力を持っているかどうか確認してから判断しても良いだろう。かなり厳しい採点をすることになるが、その方がその子のためだ。だめなら町に行ってギルドで試験を受けなおせばよいのだから。
さて、指定した場所で待っていると、ケイトとカラシンと一緒に少女がやって来た。確か名前はソフィアだった。昨日もちらっと見かけたが、15歳と聞いて驚いた。ずいぶん大人びて見える。カラシンとか言う魔法使いの弟子なのだろう、カラシンの後ろに隠れる様に立っている。ずいぶん懐かれている様だ。
挨拶を済ませてから、試験の方法についてざっと説明する。試験項目はふたつ。一つ目は攻撃魔法だが、二つ目は剣技だ。魔法使いの弱点は魔法を連発出来ないことだ。そのため魔法以外にも身を守る手段は必須となる。他の武器でも良いのだが、木製の模造武器で用意できたのは木剣だけだった。まあ、他の武器が得意だったとしても参考にはなるだろう。
試験を始めてからは驚くことばかりだった。まず攻撃魔法だが、見たことも無いくらい小さなファイヤーボールだった。この程度のファイヤーボールしか出せないのでは不合格にするしかないと思ったのだが、的をみるとど真ん中に穴が開いている様だ、ある程度の威力はあるのかと思い、念のために近づいて確認してみると、なんと厚さ50センチメートルの岩を貫通していた。もしこの岩がオーガの頭部だったら完全に致命傷になっていただろう。こいつがいればオーガに勝てるかもしれない、と心が湧きたった。
この時点で合格にしても良かったのだが、どうせなら剣の腕も見ておきたい。木剣を渡して、俺を相手に模擬試合をさせてみる。もちろん、剣を得意とするAクラス冒険者の俺に勝てなんて言うつもりはない。どの程度基礎が出来ているのかを見るだけだ。だか、いつまでたっても仕掛けて来ない。しびれを切らして、「こっちから行くぞ」と断ったうえで軽く切り掛かってみたのだが、剣を振り下ろした瞬間、見事にカウンターで首に剣を当てられた。油断していたとは言え、Aクラスの俺に勝ちやがったよ。一体何者なんだこの新人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます