07.大切なことを忘れていました
ドアノッカーの音が聞こえ、私はハワード候爵と一緒に1階に下りた。扉を開けると、彼は立っていた。
彼の名前はパスカル・オードラン、頼もしさと包容力が魅力の【みんなのお兄さん担当】。実はお兄様の友人だから何かあったら頼るようにと言われていたけど、物語の舞台である王立図書館の近くで攻略対象に関わりすぎたら物語に巻き込まれるかもしれないと思って避けていたのよね……。
「久しぶりだな、シエナ。噂には聞いていたが本当に図書塔に配属されたんだな」
「え、ええ……いろいろありまして」
いろいろの部分も聞いているよねきっと……。
しょんぼりしているとパスカル様は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でてくる。
「図書塔の司書長様に意地悪されてないか?怖い顔だろ?」
「謗るなら居ないところでやってくれ」
「ヤだよ。そしたらお前出てきそうだし」
「そうそうないだろ。私がここを出るときはよほど重要な会議があるときくらいだ。家の事だって執事長に任せているというのに」
「ハワード家は優秀な人材に恵まれてて羨ましいよ全く……」
それから私とパスカル様は図書塔を後にして、街にある司書寮に向かった。
彼と2人でいるときにジネットに遭遇したらどうしよう?
そもそも、パスカルさんとヒロインの出会いは……うーん、なんだったっけなぁ?
佳織がリオネル推しだったから特別プレゼンされて覚えているんだけど、その他のキャラクターはいまいち覚えていない。一応聞いているから何かの拍子に思い出してくれると助かるのだが……。
「しかし、エルランジェ嬢とひと悶着あったんだって?シエナらしくないな」
おおっと、聞く前にこれは現状の進み具合を確認できそう。
「ええ……いろいろありまして……」
「まあ、何か勘違いもあったかもしれないし。ディランのところで頑張っていたらそのうち何とかなるさ。息抜きなら付き合ってやるからな」
そう言って屈託のない微笑みを向けられると、安心してしまう。どうやらパスカル様はまだジネットと出会ってないようだ。まだゲームのストーリーの時期ではないのかな?
ジネットはどの攻略対象を狙っているんだろ?やっぱりいろいろあったデュラン侯爵?
そもそも、このゲームにとっての一大イベントって何なんだろ?
攻略本を読み返しておかないといけないわね。
エルランジェ家が討伐した残党が関わっていたような……その時にジネットの聖女としての魔法が発動してみんなを救うって聞いていた気がする。
ゲーム副題の”秘められた恋と魔法”の”魔法”はジネットの聖女としての魔法ってことよね?今は公にしていないし……。
寮に着くと、パスカル様の部下の方たちが居た。みなさんで運んでくださるようだ。ありがたい。
パスカルさんの部下の方がニヤリと笑う。
「急にお願いしてくるもんだからどんな方か気になっていたのですが、なるほどこんなに可愛らしいご令嬢の引っ越しだったんですね。今回のお礼に建国祭のデートでも約束するつもりなんですか、パスカルさん?」
「無駄口たたかずに荷物運ぶぞ。この子は俺の友人の妹でもあるんだよ。建国祭はきっとあいつが独り占めしたがるから誘ったら殺されるよ。そうだよな、シエナ?」
「そう……ですね。お兄様は建国祭は一緒に街をまわろうと言っていましたので……」
そういえば、お兄様は建国祭の準備で領地から首都に来るんだわ。そしてその時にジネットと出会う。
あれ?っていうことはまさに今ゲームのシナリオ真っ只中なの?
ゲームの中では
……ん?そう言えば私、お兄様に左遷の事話していない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます