舞い散る桜に想いを乗せて

じゆ

舞い散る桜に想いを乗せて

校庭には桜が舞っていた。今日は中学校の始業式だ。僕は二年生になった。

一年生の思い出は特になく、ただただ時だけが過ぎっていった。

かといって、友達がいないというわけでもない。

ただ、人生の目的というか、目標のようなものが見つからず、暗闇の中を彷徨っているような感覚だった。

中学二年生になってからというもの、周りの子たちのなかに交際をしている人が増えた。

男子と女子がくっつきあって何が楽しいのかわからない。

でも、自分に素直になって言ってみるとそんな子たちのことを羨ましく思っているのが事実である。

去年と同じようにただ月日だけが過ぎていった。あるとき、クラス中が浮足立っている様子が目に付き始めた。無駄にテンションが高い連中の数がピークになったとき、二月の第二木曜日の十四日、バレンタインデーである。もちろん彼女いない歴と自分の年齢が等しい僕にとってはチョコをもらうようなこととは無縁なのである。その日の放課後忘れ物を取りに教室に帰ると、公認で付き合っている男女がいた。教室に向かう足を止め、扉の陰に隠れる。

「これ、私一生懸命作ったからよかったら食べて。」

「え、マジ?ありがとう。大切に食うよ。」

影のように過ごしている自分を嘲笑うような行為にいらだちに想いながらやはり、羨望の念が消えてはくれない。悔しい。女子友録に話したことなどない僕には高嶺の花なのである。

こういう恋愛脳どもは恋愛を人生の意味としているのだ。腹が立ち、甘酸っぱい雰囲気が漂っているこの空間に嫌気がさして、いたたまれなくなり、逃げ出すように走り出した。

階段を何段か飛ばして、下駄箱まで急ぐ。せかせかと靴を取り出すと、白い何かが吐き出された。思いもよらない出来事に呆然としていたが、我に返ったかのように、その白い何かに視線を向ける。手紙だ。鼓動が早くなるのを感じる。早まる胸を押さえながらそっと、手紙を拾い上げる。頭の中にはバレンタインデーとこの手紙を結びつけることしか残っていなかった。震える指で恐る恐る手紙を取り出し、読み始める。そこにはとてもきれいな字でこうつづられていた。


一年生の時からずっと好きでした。

まだあなたと話したことがないので交換日記をしませんか。

追記

チョコ、頑張って作ったので良ければ食べてみてください

             

             相川美波


相川美波ってあの相川美波か。手紙にはもちろん驚いたが、それより送り手の名前にも驚いている。相川美波。この学校で学年を問わずこの名前を知らない者はいない。

学校一ともうわさされる美貌の上に、成績も常に主席を維持し、生徒及び先生方からの信頼も厚い。まさに絵にかいたような優等生なのである。

でもそんな優等生が全く別の世界の住人である僕に手紙、ましてや恋文などを送ることなどあるわけがない、あってはならないのだ。もう一度手紙の内容を読み返す。だが、内容が変わることはなく、(ずっと前から好きでした。)の部分で、おもわず笑みをこぼしてしまった。

おそらく誰かの悪戯だろう。だが、心の中では、実は本当なのではないかと誰かが叫んでいる。しばらくの間、一人で葛藤を続けていた。結果から言うと楽観主義の発言が通った。

こそばゆいような暖かい風が僕の体の全身を包み込んだ。すると、力が怒ことからとなく漲り、飛び跳ねるように駆け出した。素直にうれしかった。いままで人に好きといわれる、想われる嬉しさがここまでの物だとは思いもしなかった。

頭の中でシュミレーション行う。何が何でも、焦って近づきすぎてしまうということは避けなくてはならない。まずは慎重に会話から徐々に近づいて行かなくてはならない。

その日の夜、学校から大切に持ち帰ったチョコと手紙と交換日記と書かれたノートを机に並べる。そのノートを広げてかれこれ一時間ほどたったのにもかかわらず一文もかけていない。

夢中になって考えた。堅過ぎず、男らしいような誠意が伝わるように書かないと、という風に思案に余っていると、無難な短文に落ち着いた。


好きといてくれてありがとう。

これからよろしく。

君と仲良くなれるように頑張ります。


何かが自分が浸っている暗闇に明かりをくべてくれたような気がした。

翌朝、どうやって相川に渡そうかと考えたが意外とあっさりと解決した。

生憎、相川とは同じクラスだったので靴箱が簡単に分かったので、靴箱に入れることにした。

それからというもの、何回か交換日記を靴箱に入れ合い遊びに行くことになった。

駅で待ち合わせを売ることにしていたので、駅に向かい、きれいな私服に身を包んで誰かを待っている美少女を見つけた。しっかりと確認するまでもなく、相川美波であることであることに間違いない。そのまま、彼女に向かって歩いて行って、声をかけた。

「あの・・・・・・相川さん、こんにちは。」

「えっと、どなたでしょうか。」

僕は全く状況を理解できていないままだった。やはり、誰が見ても可愛いというであろう整った顔には困惑がくっきりと映っていた。

「えっと、今日、駅で待ち合わせをしていたよね。だからここにきているんだよね。」

「何をおっしゃっているのですか。私は今日ここで長谷川君と待ち合わせをしたのです。」

長谷川君。もし僕の予想が合っているのであれば、僕のクラスメートである。

彼は、香が整っていて、成績優秀、運動神経抜群、その上スタイルが良く、

男子でさえも敵対する意欲を失い、尊敬、畏敬の念しかいだいていない。僕もその一人である。なんで、そんな長谷川君の名前が出てくるんだ。

「あなたは一体誰なんですか。」

全くもって話の先が見えてこなかった。僕のことを知らない。相川さんはそんな僕にさらに追い打ちをかけるように、

「なんなんですか。気持ち悪い、それ以上近づかないで。これ以上ここにいるなら、

警察呼びますよ。」

彼女は泣きそうな顔でなにも受け付けていないような緊迫した空気を孕んでいた。

僕はその場から離れざるを得なかった。

重い足取りで家まで向かい、家についた途端、自室のベットに飛び込み、体重を預けた。

そして、だんだんと、冷めていく脳がフル回転していく。やがて、全てを悟った。

自分の愚かな勘違いによる、独り相撲に気が付いた。

僕と長谷川君の靴箱は隣り合っていた。これがすべての元凶になった。

おそらく相川さんは、長谷川君の靴箱と間違って隣の僕の靴箱に入れてしまった。

そして、全くの虚構へと変わったこれまでの相川との会話を思い返す。

何もかもが無駄だった。彼女が僕に向けた好意なんてありもしない、僕の妄想だったのだ。

浮かれていた。自惚れていた。自分の傲慢さが彼女を傷付づけてしまった。

でも、手紙に宛名を書かなかった相川さんにも非があるのではと考え、机の引き出しに大切に入れていた手紙を取り出す。ふと、手紙に違和感を感じた。やがて、その違和感の正体に気が付いた。手紙の右端が折れ込んでいたのだ。折れ込んだ手紙を元通りに戻すと、


       長谷川君へ


そこにはきれいな字で宛名がしっかりと書かれていた。

力が抜け、その場にへたり込んでしまった。完全に僕が悪い。最低な人間だ。

自己嫌悪の海に自身の体を沈める。行き場を失った憤りが手を伝って、手紙を握りつぶしていた。それから、くしゃくしゃになった手紙を力任せにゴミ箱に投げ入れた。

人生の目的を失ってしまった。そもそもそんなもの自分には縁がないものだったのだ。

もう、人生などどうでもいい。これまで感じたことがないようなこの感覚。胸にぽっかりと穴をあけられたような感覚。そして、その穴をえぐるように冷たい風が胸に吹き付ける。

この感覚を味わい続けるなら死にたい。死んでしまいたい。学校で会ったとき相川が悲しんでしまうなら死んだ方がいいのかもしれない。自殺か。

でも・・・・・・。自分でもわかっている。いや、自分が一番わかっている。

自殺なんてできないこと。今でさえ、足が震えている。

その上、死ぬために理由を欲している事

彼女を助けるというように自身を正当化しようとしている事

時間を戻すことができない事

今考えている全ての事

こんなの上っ面だけの自己弁護であること。

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