人の死

 メゾン・ド・リーブの前に赤ランプを点灯させたパトカーが数台止まっている。入口の前にはロープが張られて関係者以外の立ち入りを、制服を着用した警察官たちが制御している。


「お疲れ様です、一課の狩屋かりやです」狩谷は警察手帳を見せロープをくぐりポケットから白色の手袋を出して着用しながらマンションの入り口に移動した。


「あれ?上条さん!」狩屋は少し驚いたように声を上げた。


「順平君!どうして・・・・・って、そうか君は刑事だったよな」あまりにも親しく付き合っていた為、彼が向こう側の人間でる事を忘れていた。


 マンションの浴室の天井裏に性別の解からない遺体が放置されていた。しかも、それは劣化が進んでおり変に触るとその体を維持出来ないほど脆くなっているそうだ。

 警察としては、この部屋に居住している女性と最初に遺体を発見した俺達を第一容疑者としてターゲットしているようである。彼らは結構キツイ口調で現場の状況を確認してくる。


 仕事に行くつもりで準備をしていた住人の女性は状況が呑み込めずに半狂乱のような状況になっていた。自分の生活していた空間から人の死体が見つかるなんて良い気がするわけがない。彼女は死体が発見された部屋の住人として、いち早く警察署の方に連行されていったようであった。


「ふーん、このマンションを管理していたのが上条さんの会社って訳ですか?そりゃお気の毒に」なんだか、狩屋の言い方が茶化しているかのように感じて少しだけ憤慨する。「最初に遺体を発見したのは?」狩屋はその場にいる民間人と思われる人間に目配せをする。


「はい、私です」片桐社長が右手を挙手する。少しだけ時間が経過して落ち着きを取り戻した様子だ。


「そうですか。最初に発見した状況を教えてもらえますか?」狩谷は手帳を取り出して聞き取りを始め先ほどまでの事を片桐社長に確認をした。その手慣れた感じに感心する。


「狩屋刑事、ちょっと」鑑識らしき男性が狩屋に声をかける。なにやら耳打ちをしている様子だ。


「そうか・・・・・・、この天井から遺体を引っ張り出そうとすると、崩れてしまうそうなので浴室の天井を開放しないと駄目なようです。上条さん、念の為所有者に了解を取ってもらえますか?まあ、駄目だと言っても開けるんですけどね」狩屋は自分の言った事が面白いと思ったのか一人ニヤリとした。しかし聞いている人間で笑う人間などいなかった。


「ちょっと、電話してみるよ」貸主に状況報告も兼ねて連絡する。先ほど、死体が見つかった話をした時、貸主は仰天して激怒したり不安そうな声を出したりしていたが、かなり落ち着いたようである。天井に穴を開ける事は快諾して頂けた。ただ、この原状回復が保険で賄えるのかどうかは俺にも判らなかった。「お任せしますって言っておいでだ」スマホの通話を切ってから報告する。


「ありがとうございます。他にも聞きたい事があるので署にご同行頂いても宜しいですか」狩屋は手帳を閉じて、鑑識の男性に目配せをした。それを確認してから男は部屋の奥に入っていった。「出来れば一杯ひっかけながら話したい処ですけど、そういう訳にはいかないですね」狩屋はまたニヤリと笑った。


「さすがだね、人が死んでいるのを見てもそんな冗談が言えるなんて」少し皮肉を込めて狩屋の顔を見た。


「すいません、この仕事をしていると人の死に対して麻痺していくものですから」狩屋は階段を降りる事を即すように手を下に向けた。


 メゾン・ド・リープを後にして、 俺達はパトカーへと乗り込んだ。

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