第13話 復活するモノ

 目を開けると、見馴れた天井が見えた。

 残念ながら俺の部屋ではない。石造りでアーチを描いた、王城に用意された俺の部屋だ。


「あ! き、気が付いたんですね!」


 起きざまに声を掛けられ、目だけそちらに向けると、勇気くんが心配そうにこちらを見ていた。


「俺は……」


 混濁する意識から、目を開ける前の景色を再生する。それは王城を襲った魔族に、腹を貫かれる場面だった。


「そうだ!」


 ハッキリした意識とともにベッドで上半身を跳ね起こし、腹をまさぐるが、そこに穴は開いていなかった。ただ、治療をしたのだろう跡は残っていたが。


「……生きていたのか」


 腹を貫かれた時は「死んだ!」と思ったが、いやはや、俺の生命力も中々のものだ。


「こ、高貴さん、まだ復活したばかりなんですから、寝ていた方が……」


 勇気くんが心配そうに声を掛けてくれる。


「ああ、そうだな」


 俺は勇気くんの勧めに従い、またベッドに横になる。そこに、


「おお! 目を覚ましたか!」


 ゼイラス王子と側近のガロンさん、ビッシュさんがやって来た。


「王子、ご迷惑をお掛けしました」


 起き上がろうとする俺を制して、王子は今まで勇気くんが座っていた椅子に座る。


「いや、気にするな。こちらの対応が悪かったのだ。いくら緊急事態だったとは言え、盾の一つも持たせておくべきだった」


 王子が謝罪し、部屋の入り口をちらりと見る。俺も釣られてそちらを見ると、そこには勇気くんの槍と、俺用なのだろう盾と剣が置かれていた。よく見ればカウンターシールドも置かれている。今後、王城が襲われた時の為の備えだろう。


「しっかし、良く生き返ったな。もう死んで終わりだと思っていたぞ」

「…………は?」


 ホッとした表情を見せる王子たちとは対照的に、俺は変な声を上げていた。


 し、死んだ? そう言えば勇気くんも復活したとか言っていた。俺は一度死んだのか?


「あ、あの、俺、死んだんですか?」


 俺が尋ねると、王子たち三人の視線が勇気くんに向く。

 向けられた勇気くんは、話し忘れていた。と言う顔だ。


「なんだ、聞いてなかったのか」

「え、ええ。ついさっき目を覚ましたばかりなので」


 俺は説明を要求する。


「コーキはあの魔族に腹を貫かれて死んだ。相当な深手で、俺の回復魔法ではコーキを救えなかったんだ」

「え? じゃあ、え? 俺は死んでる? 天国? 地獄?」


 理解が追い付かず頭が混乱する。


「まあ落ち着け。それを復活させたのが、ユーキの蘇生魔法だ」

「蘇生魔法?」


 そんなものがあるのか。俺が勇気くんの方を見遣ると、勇気くんは大きく頷いた。

 成程。理解はしたが、ゾッとする話だ。そして勇者。どこまで万能なんだよ。ちょっと引くわ。


「で、でも良かったです。蘇生魔法のレベルは低かったので、復活出来る可能性は50%でしたから」


 今、それを言わなくても良いんじゃないかな? 血の気が引くから。王子たちも「そんな博打してたのか?」って感じでちょっと引いてるしね。



 その日は養生の為に一日ベッドで寝て過ごした。

 食事も勇気くんからアーンされて食べた。一人で食べられる。と主張したのだが却下されてしまった。


 一人で横になっていると、ここぞとばかりに勇気くんが話し掛けてくるのだが、まるで耳に入ってこない。さてどうしたものか。と俺はステータス画面を開いてみた。



ステータス


NAME 加藤 高貴


JOB 風林火山


LV 45


HP 2007


MP 1741


STR 169


VIT 203


AGI 120


DEX 161


INT 189


スキル


謙虚LV47


鑑定魔法LV5


風魔法LV15


火魔法LV15


水魔法LV15


地魔法LV15


スキルキャンセルLV1


ユニークスキル


風林火山LV22


状態


魔侵食LV3



「なんだこりゃ!?」

「え? え? どうかしました?」


 思わず声を上げていた。それに反応する勇気くん。


「いや、何でもない」


 なんか話すのはヤバい気がする。スキルキャンセルって、あの魔族が使ってたやつだよな?

 俺は詳しい説明を求めてスキルキャンセルをタッチした。



スキルキャンセル


極低確率で任意のスキルをキャンセル出来る。消費MP5。



 ふむ。思った通りのスキルだな。極低確率なのはLV1だからだろうなあ。

 そして問題はこの『状態』の下に表示されてる『魔侵食』だよなあ。と魔侵食をタッチする。



魔侵食


魔族の攻撃により身体を侵食されている状態異常。全ステータスにバフが掛かる。このレベルが100になると魔物化する。



 うわあ、スッゲー怖い文言が並んでるんですけど。LV100で魔物化って、怖過ぎだろ?


「あ、あの……」


 と、心配そうに勇気くんが俺の顔を覗き込んでいる。


「あ、ああ、悪い。えっと……、ちょっと気分が優れないから、もう寝ても良いかな?」


 言葉を濁してそう返事をすると、


「あ、はい。そう、ですよね」


 勇気くんは気を使って俺に何も尋ねてはこず、自身も己のベッドへと戻っていった。


「で、では、お休みなさい」


 そう言って勇気くんは自分の魔法で点けた部屋の灯りを消して、寝に入ったのだった。


「お休み」


 俺も寝に入る。



 その夜は寝苦しかった。目を閉じると嫌な事ばかり考えてしまう。俺は本当に生きているのか? 生き返るなんてゾンビみたいだ。そしてゾンビになった自分は、魔物として扱われ、皆から攻撃されて朽ちていく。

 嫌な想像が頭を何度も過り、今俺は寝ているのか起きているのか、生きているのか死んでいるのか分からなくなった頃、


「こ、こう、き、さん……」


 下から声が聴こえる。意識がハッとして下を覗くと、夜の闇の中、俺は勇気くんに馬乗りになり、首を絞めていた。


 なんだ!? どう言うことだ!?


 訳が分からないが、取り敢えずこのままではいけない。と手をほどこうとするが身体が言う事を聞いてくれない。それどころか益々首絞める手に力が入っていく。


「ぐっ、ああ!!」


 勇気くんが耐えかねて俺の腹を蹴飛ばす。俺は入り口ドアまで吹き飛ばされた。が、身体を打ち付けたと言うのに痛くない。なんだか夢の中にいるようだ。ああ、これは夢なのか。と納得仕掛けるが、これが夢でなかったらどうなる!?


 ドアまで飛ばされた俺は、近くにあった剣を取り立ち上がった。


 ヤバいヤバいヤバい!!


 勇気くんは恐怖に顔をひきつらせながらも、俺に向けて魔法を放とうと構えている。勇気くんと俺では、戦力差は火を見るより明らかだ。今度こそ死んでしまう。


 どうする!? どうする!? どうする!?


 何かないのか!? と必死になって頭を回転させる。今の俺に出来るのはその程度だから。

 そして出された答えは、スキルキャンセル。だった。

 俺の今の状態は魔侵食によって引き起こされたものだろう。と言うかそれ以外考えられない。だとすれば、俺の『風林火山』によるバフを打ち消した、スキルキャンセルならもしかしたら魔侵食の状態異常も打ち消せるかも知れない。と考えたからだ。

 ぶっちゃけ今の俺に出来るのはそれにすがる事のみ。


(スキルキャンセル! スキルキャンセル! スキルキャンセル!)


 口も動かないので必死に心の中でスキルキャンセルと唱え続ける。その間にも俺は剣を上段に構えて勇気くんへとジリジリとにじり寄って行く。


 もう一触即発だという距離まで近付いた時だった。


(スキルキャンセル! スキルキャンセル! スキルキャンセル! ……!!)


 いきなり自由が利かなかった俺の身体の支配権が俺に戻る。


「う、うわあ!!」

「ストップ! ストップ! 勇気くんストップ!!」


 俺の声に、今まさに魔法を放とうとしていた勇気くんがそれを取り止める。


「こ、高貴さん?」

「そう、俺。もう大丈夫だから」

「よ、良かったー」


 言ってその場に崩折れる勇気くん。とは言え俺もへたり込んでいたが。

 はあ、この件は王子に説明を求められるな。

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