green of green

盾乃いーじす

第1話 緑と翠と白


緑色のイメージとは。

森林や草花、昆虫なんて言う人もいます。

深く輝くエメラルドや淡く乳化した緑の翡翠なども代表的である。

魔法のイメージでは風という人も居る。

そんな緑が僕は大好きだ。


昔から身に着ける物は緑が必ずあり、好きな戦隊キャラは間違いなく緑だった。

人にカメムシとか馬鹿にされたこともあったけど特に気にする事は無かった。

「おーい!遼!」

緑は人を癒すカラーとも言われ愛されていると一徹無垢に信じている。

「おーい、聞こえてますかー」

そして何より僕の愛車のsamurai400はライムグリーンがイメージカラーで有名なあの…。」

「無視すんな!」

後頭部を硬い革鞄が襲い目の前が暗転した。

刑事ドラマで頭を鈍器で殴られた被害者の気持ちを考えつつ地面に膝を着く。

「え…絵里香いたんだ…」

今にもシャットダウンしてしまいそうな意識を全力で戻して犯人…では無く、毎日見る顔の幼馴染である。


お隣様である彼女は結緑絵里香ゆうえんえりか

イギリス人の祖母譲りの髪は黄梅(各自検索してください)の様な淡い黄色で、ガラス細工の様に透き通ったブロンドである。

そこに緑のリボンがより映える美少女(本人談)が、性格は高飛車でわがままで少し寂しがり屋な所もあるけど僕にはすこぶる風当たりが厳しい。

どうしてこうなった…。


「さっきから耳元で話し掛けてるのに全く反応してくれないんだから!」

「だからっていきなり後頭部を強打するのはどうなんだろう…」

今時そんな事を実践すると虐めとかパワハラとか言われるんだぞ。

この幼馴染とではすべて封殺してしまいそうだが。

紹介が前後したが僕は織部遼太郎おりべりょうたろう単なる緑マニアである。

「で、何でそこで突っ立ってたのよ?白昼夢でも見てたの?」

「白昼夢がどんなものか見たことは無いけど、少し考え事をしててさ」

「どうせまた緑色の物を目にして悦に浸っていたんでしょう」

「悦って人を変態みたいにいうなよ」

「緑マニアのあんたが何言ってんのよ…まあ人のことは言えないけどね」

こいつの緑好きは俺同等の感性を持つが、緑を見ると悦に浸るのか。

「か、勘違いしないでよね!緑の物を見つけたら可愛いとか綺麗とかそういう純粋な気持だから!変な勘違いしないでよね!」

「別に何も思ってないから!」

絵里香は勘が鋭い。

幼馴染と言う事もあり、その勘の良さはさらに鋭敏なものになる。


「とにかく!そろそろ学校に行くわよ!」

結構な時間妄想に浸っていた様で、遅刻まであと十分足らずという所か。

「って、余裕かましてる場合じゃない!急ごう絵里香!」

「誰のせいだと思ってるのよ!」

僕たちの住む和辺市は海岸沿いにある過疎化現象真っ只中の町である。

右を見れば海、左を見れば山という訳だ。


そんな田舎に聳える私立の工業高校が僕達の母校「緑風工業」である。

「この名前を見るだけで、いつも誇らしい気分になるよな」

「あんたと同じ意見なのが釈然としないけど同意せざるを得ないわね」

遅刻前の校門前に佇む変人…いや、固い信念を持つ者達はその校名を見つめながら早足で教室を目指した。


教室に着いてからはいつも通りの授業が始まる。

黒板に描かれた物を板書して時間を潰すだけの行為に飽きていた。

早く帰って機械を弄っている方が楽しいし、

知識や経験にもなる。

そして、また序盤の様に意識を飛ばしていると、後頭部に針の様な激痛が襲う。

「いってぇえ!」

一気に意識が頭を拠点に集中して激痛の根源を睨み見た。

「ちょっと、いきなり大声出さないでよ」

「お前何したんだよ!」

後頭部には未だに痛みが群がっている。

「授業の内容が頭に入っていない様だったから喝を入れてあげたのよ」

ドヤ顔でふふーんと聞こえてきそうな態度を見せる。

なんかムカつく。

「絵里香、流石にペンで刺すのはやりすぎだと思うんだけd…」

「授業中に何じゃれあってるんだ?織部」

背後には既に処刑人…では無く、担当教諭はそこにいた。

「せ…先生、これはですね。考え事をしてたらこいつが…」

「授業で思案しながら進めることは大事だ。

それが授業の内容に沿ったことならな」

うぅ…見透かされてるということか。

「個人のやることに口出しはしないが、授業も集団行動の一環で大切なことだ。」

「はい…」

俺のせいではなく、後ろの奴がそもそも輪を乱している様なきがするんだけど。

「放課後に相談室に来なさい。一度しっかり話をしておこう。」

死刑宣告をされてしまった。


後ろから少しだけばつが悪そうな空気を漂わせているのを感じるが、そう思うならするなよ…。

「遼ごめん…。でも、ぼーっとしてたあんたが悪いんだから!」

「だったら普通に声をかけてくれよ」


放課後、予告通りのお説教を聞かなくてはならない。

相談室に向かう道のりを、後ろから二房の髪が追いかけてくる。

「先に帰ってていいぞ」

無言で立ち止まる。

「別に心配しなくても話聞くだけだからすぐ終わるからさ」

「別に心配してるんじゃないから!今日はラボに来るって言ったから…」

ああ、そっちか。

こいつの家は両親とも研究者をしていて、たまにラボ借りていろいろな実験(家ではできないので)で使わせてもらっている。

「なによ。待ってたらなんか都合悪いの?」

「別に悪くは無いけど、待たせるのが抵抗あるんだけど」

「そっか、心配してくれてるんだ…」

いつものやり取りで何が嬉しいかはわからないけど、どうやら待ってくれるらしいのでさっさと済ませよう。

「失礼します。」

「織部か、こっちへ入れ。」

中には先ほどの担当教諭つまりは担任だ。

「何故呼ばれたか分かるか?」

「授業を真面目に受けず、騒いでいたからですか?」

「自分で真面目に受けていない自覚はあったのか」

「いやいや!そう思われていたのかなと深読みしました。」

「はぁ、まあいい。それとは別に、お前に色々な企業からリクルートの話は聞いているな?」

絵里香の研究所で古い機械を触るのが楽しくて、夢中でスクラップアンドビルドを繰返して居たところを絵里香の両親が興味を持ち、その才能が口伝に広がって行ったそうで。

「でも、僕はそこまで実力はありませんし、できることも限られていますよ?」

「そういう意欲や想像力のある人材を確保しておきたいというのも企業側の意見だよ」

青田刈りというやつか。

正直、自分は本当に才能は無いと思う。

思ったことをただ形にするだけで、失敗ばかりである。

「機械系の職業には就きたいと考えていますが進路はまだ…」

「結緑の両親が太鼓判を押すくらなんだからもっと自信を持ちなさい。無理強いはしないがもったいないぞ」

「わかりました、もう少し考えさせてください。」

話は終わり席を立つ。


先生の複雑な顔を横目に相談室を出ると、すっかり日が落ち目前に夜が迫ってきてた。

絵里香を待たせると色々と面倒なので早足に校門へ向かう。


歩みを進めようとしたその時、迫りくる夜が急に伸びた。

びっくりして外を見ると同い年くらいの少女がこちらを見つめていた。

「あの…変わった格好だね」

「…」

窓越しだから聞こえないか。

髪は黒いショートボブで、白が基調の着物と洋服を合わせた様な恰好だ。

こんな子がなんで校内にいるんだ?

「…」

滑らかに動く彼女の唇の形を変える。

「えっ?どういうこと?」

返答は無く白の少女は踵を返し歩き出す。

「ま…待って!」

窓を開けて外に身を乗り出したが少女の姿は消えていた。

ノートを消しゴムで消した様に忽然と消えていた。

「誰だったんだろう?すごく綺麗な子だったな…」

「誰が綺麗だったって?」

「うわああぁぁ!」

「きゃあぁぁぁ!」

また背後にツインテールがいた。

居るなら遠くからでも声かけてくれよ!


「ちょっと!急に大声出したらびっくりするじゃない!」

「絵里香はほんと間が悪いよ!」

「なによ!せっかく遅いから見に来てあげたのに!」

「え?心配してくれたの?」

「べ…別に心配とかじゃなくて、暗くなってきたから心細くなってきたというか…」

「…怖かったの?」

「…そんなわけないじゃない!バッカじゃないの!」

す…素直じゃねえ…。


「それより!もう先生との話は終わったんでしょ?もう帰ろうよ」

「う、うん。じゃあ帰ろうか。」

先ほどの少女が頭を過ったけど今は黙っておこう。

これ以上怖がらせたら反撃が怖いし。

薄暗い廊下を進み、先ほどの少女が紡いだ言葉を思い出す。

『アナタハナニイロ?』

どういう意味だ?色ってどういう事?

疑問を胸に抱えつつ帰路に立つ。


何ら変わらず絵里香と歩いてきた。

いつも通りお互いの家へ向かった筈だった…

「どうなってるんだ…」

「なによ、これ…」

目の前に普段ある筈の、10年以上生活してきた家が…

消えていた。

さっきの少女みたいに、消しゴムできれいさっぱり『家だけ』消えていたのだから。

状況が呑み込めず、言葉が出ない。

絵里香も一緒なのか、口は動いているが言葉が出ない。

あるべき物が忽然と消えてしまったのだから

仕方がないだろうと考えていたが。

「あんたまさか、私に引っ越しのこと黙ってたでしょ!なんで教えてくれないのよ!」

「なんでそうなるんだよ!」

「嫌よ!遼が引っ越すなら私も引っ越すから!こんなお別れなんて嫌…」

「お…落ち着いて絵里香。これは僕も予想していない事なんだ」

「えっ?」

「えーと、僕も状況が呑み込めていないのだけど、どうやら家が無くなったみたい」

「えええええぇぇ!」

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