第3話 感情と現実
私は今まで告白したことがない。もちろんされたことも。いや、昔に一回だけされた事があったかな。まぁもう本人は忘れてしまったと思うけど。だってその時まで私は忘れていたから。これはある日見た夢の話。そして昔に体験した覚えのある話。
私は三ヵ月の間北海道にいた。父の仕事の都合によることだが小さかったこともあってあまりよく覚えてはいない。覚えているのは広い野原とどこまでも続く道、それといつも四人で遊んでいたこと。おままごとをしたり、虫を捕ったりあとお花を摘んだりして日々を過ごした。その他は、なんだっけ。といったところで今日は目が覚めた。朝起きていつも通り顔を洗い朝食の席に着く。「お母さんー、私って昔北海道にいたよね?」と目玉焼きを作る母に聞いてみる。
「あら、覚えていたのね。あの頃は毎日遊びに行ってたわねぇ。まぁ今も遊んでばっかだから変わらないわね」
私はお母さんのこういうところが嫌だ。いつも一言多い。「あ、そう。」と乾いた返事をして「いってきます」と言い学校に向かった。学校に着くと神本さんはすでに席についていた。あれから数日たったが、まだ私たちの間には微妙な雰囲気が漂っていた。
「ねぇねぇ、未来ー」と夏南からだったあんなことがあったが今では普通に話している。というのもあの後三日後くらいに家に夏南がやってきて好きになった経緯等、話してくれたのだ。あの時の夏南の真っ直ぐな目を見せられたら許すしか選択はなかった。もしかしたら私はお人好しなのかもしれない。今では応援したい自分もいるのだから不思議なんだよなぁ。
「ねぇ未来聞いてる?これ!懐かしくない?」
夏南が手に持っていたのは小学校の頃によく食べていたうまか棒だった。
「ほんとだー、最近食べてないなぁ」
そう私が言うと夏南は半分あげるよと差し出してきた。こういうところも昔に戻ったようでなんだか嬉しかった。小さい頃夏南と少ないお小遣いを出し合って買っていたのをよく覚えている。
「未来ー!どうしたの?ぼーっとして」
そう言いながら夏南は私の顔の前で手をパタパタと振っていた。ううんと言いながらなんでもないよと首を横に振りつつ横目でつい神本さんを見てしまっていた。やはりあれからというもの頭のどこかで神本さんの事を考えてしまっている。「ごめんトイレ行ってくるね」と夏南に断りを入れ席を立った。
「もう五時間目 始まっちゃうよー?」
夏南の声は聞こえなかった。少し一人になりたい。
結局私が教室に戻ってきたのは五時間目が始まってから25分を過ぎたあたりの頃だった。
私が席に着いた時4つ折りにされた小さな紙が回ってきた。開くと『未来ー大丈夫??』という短い文が書かれていた。名前は書いてないが字を見れば夏南だということはすぐに分かった。夏南の方に顔を向けると不安そうな顔でこちらを見つめていた。私が笑顔で返すと、良かった。という風に前を向いた。私はそのまま下を向いて目を閉じた。
ついつい寝てしまった。どのくらい寝たのだろうか。『ビクッ』と身体が震え机がガタッと音を立てた。皆がこちらを向いている。夏南もクスッと笑っていた。恥ずかしい。私は意味もなく教科書に目を落とし読んでいるフリをした。
その日の放課後私が帰ろうとしていた時神本さんに声をかけられた。
「あの、、、」
その後に何か言葉を発していたが小さくて上手く聞き取れなかった。もう1度言ってと聞き返そうとした時もう神本さんは帰ってしまった。何だったのだろうか。神本さんと入れ違いで小吹ちゃんが教室に入ってきた。私の目の前に脇目もふらずに歩いてくる。
「未来ちゃん。」
そういえば小吹ちゃんと話すのもあの日以来なんだと改めて気付いた。
「どうしたのー?小吹ちゃん?」
私はしっかり笑えているだろうか?特に小吹ちゃんとはなにもなかったのに、そのはずなのにわたしは小吹ちゃんの目すらまともに見られなかった。
「未来ちゃん。華憐とあの日何かあったの?」
そんな、ごく普通の質問に私は答えることをためらい「ううん、何もないよ」そう私は答えた。小吹ちゃんはそう答えた私の顔をうかがいどこか寂しそうな顔をしながら「ふぅん、そーなんだー」と府に落ちない顔をし、一緒に帰ろうと私に誘うとわたしの答えを聞く間もなく鞄を取りに自分の教室に戻っていった。深く聞いてこない小吹ちゃんを見て少しホッとしてしまった。
少しすると小吹ちゃんが鞄を持って帰ってくるなり「ゲーセンに行かない?」と言ってきた。あまりゲーセンに行ったことがない私は少し興奮しながら「うん!行きたい!」と答えた。
「まさか、ゲーセンでそんなにテンアゲするとは思わなかったなぁ。友達と行かないの?」
「うん、、誘ってくれる人がいないんだ」
「そーなんだー、じゃあこれからはたっくさん誘うね!」
「うん!よろしくね!小吹ちゃん!」
無邪気に笑う小吹ちゃんがなんだか眩しく見えた。
それから人生数回めのUFOキャッチャー、景品は中々取れないもののそのひとときは楽しかった!
「なんでこんなにアーム弱いのよ!!」
小吹ちゃんは激怒した。
「どうどうだよ小吹ちゃん」
「私は犬じゃないやい!!ガルルルル!」
「いや、そこまでいったらもう犬だよ。なんなら番犬だよ」
友達と遊びに行くことがあまりない私にとって貴重な時間だったがもう5時のチャイムがなる時間であった。
「未来ちゃん、もうそろそろ帰るの?」
と、小吹ちゃんが少し寂しそうにこちらを見つめている。「そうだねまた明日遊ぼ!」と返しておき2人の足は家の方へと向いた時だった。
「小吹、ここにいたんだ」
「お、華憐~!いま帰るとこ!」
私はその声を聞いて後ろを振りかえる。そこには小吹ちゃんの目の前に神本さんが現れていた。そしてすぐ私に気づくなり笑顔だった顔は溶けてあの、悲しそうな顔をしていた。
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