第9話

 ヒューマノロジーにとって、案山子は元来、広報のために選ばれた一手段でしかなかったが、一二・七事件や「磔刑」を通じて、教義と密接な関係を持つものであるかのように扱われるようになった。世間のバッシングが、結果的に彼らの思想のさらなる先鋭化につながったことと、ビルディングを一手に担っていたボノボが失踪し、案山子制作のノウハウが一度失われたことが影響し、ヒューマノロジーはまた、派手なしまもようの案山子を復活させることになる。そのとき都市の住民に、かつてのように泡沫的新興宗教を気味悪がりながらも馬鹿にしておもしろがるような余裕は残されていなかった。案山子は見つかるや否や警察に通報され、まるで有害な産業廃棄物のように、サングラスをつけた専門の作業員だけが撤去できるものになった。

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