ヤカゲミコシロ記
天宮ユウキ
第1章 台頭する新勢力:ニューカマー・ニューインベーダー
第1話 幼女と夜が来る
夜9時、塾が終わった子ども達が帰り始める時間。
1人の女性講師が子ども達を見送る。笑顔で見送る姿は優しそうな大人である。
(今日も可愛いかったな・・・えへへ)
しかし、その実態はイエスロリ、ノータッチの精神を持ち合わせた立派な淑女であった。
夜五ツ時。そんな淑女も仕事が終われば、ただのロリコンに舞い戻る。そう、夜の時間と言えば不審者よろしくと言わんばかりのお声掛けタイムである。岡山の都市部であれ、若い少女はまだいる。警察のお世話にならない範囲で仲良くする。これがこの淑女の人生の楽しみである。
「・・・」
しかし岡山駅の短い地下道での探索はすぐに終わる。
(はぁ、今日も若い女の子がいなかったわ)
ため息の姿だけはまともに悩んでいるとしか思えない淑女はふと前を見た。夜は山陽本線以外まともに電車が来ないホームがある中でそれはいた。
10歳程度の体つき、華奢な手足、セミロングの黒髪、その全てがロリコンの感覚として最高であった。
「えっ!? 可愛い!! 」
邪な本音が飛び出ていることなど毛頭も思っていない淑女であったが、少女がこちらに振り向いた時、違和感を覚えた。
「ちっ、巫子代に気づかれたか」
「あっ、もしかして声出ちゃった? ん? ミコシロ? 」
淑女の後ろから何かが蠢いていることに気がついた。しかし、振り向くことはできない。後ろの気配に対して、恐怖で震えていたからだ。
「そこを退くのじゃ! 」
「ひっ!! 」
少女とは思えない呼び声に対して僅かな気力を振り絞って下に屈み込んだ。
「人間にもバレたか」
「こやつめ! 」
何かが淑女を覆うように大きく囲おうとした瞬間
「『陽玉』! 」
少女の左手からバスケットボールくらいある赤い玉が放出され、何かに当たった。
「ぐおおおお!! 熱い! 魂が溶ける!!! 」
すると、何かが泡のように膨れて蒸発していった。
「えっ? えっ? 」
淑女には今の状況を理解することができなかった。いや、できるはずもない。可愛い少女が突然現れた何かに対して赤い玉を放って倒した。この事は普通ではありえないのだ。
「よっ、『風進』」
少女がジャンプと同時に言葉を発すると、何かに押し出されるように淑女がいるホームへと飛び乗ってきた。
「えっ!? 」
淑女は少女が人間離れたした力で自分のいるホームから来たことに驚きを隠せなかった。
「ええっとそのぉ・・・」
「ん? ああそうじゃったのう」
少女は突然屈託のない笑顔を淑女に向け
「安心せい、こんな体でもわらわは2000歳じゃ。誰もいないぞ。ほれ、好きに喜ぶのじゃ」
「え、ええ・・・」
ふざけてるようにしか見えない言葉が出てきて、淑女は違う意味で唖然とした。一方、少女は思ってた反応と違ったので少し不安になった。
「うぬー、かわいいと大声で叫んでた喜んでいたのに困ったものじゃのぅ」
「かわいいと叫んでいた? ・・・あっ!!? 」
淑女がようやく自分のやったことを思い出し、あわわと呟きながら頭と抱えだした。
「いや、わらわは別に警察に電話などせぬぞ。それに電話してもしょうがないことじゃ。それよりもお主、少しは落ち着いたかのぅ? 」
「・・・はい。ありがとうございます」
「うむ、それで良いのじゃ」
淑女はホッと胸を撫で下ろし落ち着きを取り戻した。が、代わりにいやらしい表情が出てきた。
「あのー、それで2000歳って本当なんですか? 体つきは私の好みなんですけどね・・・」
「本当じゃ。いわゆるロリババアっていうやつじゃ。ほれ、手とか柔らかいぞ。お主、意外と自分に正直じゃのぅ」
「へぇーじゃあ」
少女が差し出した右手を両手で掴んだ瞬間、
「「!? 」」
互いに触れた感触よりも全く別の事象を得た。
(なんじゃ、こやつは? 瘴気を感じ取ったぞ。この感じ、一体なんなのじゃ? 温羅や夜影を知ってるようには思えなかったがのぅ)
(あれ? なんだろう、私、何か大事なことがあったような・・・)
「ど、どうじゃ。わらわの手はぷにぷにしてよかろう」
「えっええ・・・」
「どうしたんじゃ? 」
「あっ」
『先生、来週矢掛に行ってくるね』
『それともう一度会いたいなら』
『美味しいから食べてみてよ』
「はぁ、はぁ・・・」
何かを思い出した淑女はとうとう屈み込んでしまい、更に呼吸が荒くなる。淑女の中で忘れていたものが蘇っていく。
「だ、大丈夫かお主! 」
「はぁ、はぁ、・・・」
「待っておれ、治すからな」
「いえ、大丈夫です・・・」
治癒しようとした少女を差し押さえてふらふらと立ち上がる。大丈夫と言いながらも激しい頭痛はまだ残っている。それに底知れぬ恐怖も感じていた。
「あの・・・知りたいことがあるんです」
「なんじゃ?」
意識が朦朧としながらも淑女は意を決した。
「その、ミコシロについて知りたいんです。・・・私、歴史を専門とした講師なんですけど、知らない言葉なんです。あなたは私が知らない存在だった。だとすれば、あなたに聞くのが一番だと思うんです」
「・・・巫子代をか。そうか、なるほどのぅ。うむ・・・」
「えっ、その」
少女はふと思い出したかのように
「わらわの名は『アカツキ』じゃ。互いの名を知らぬと困ろう」
「私は『
「お主、それは本気か?」
「可愛いし、なにより私の思い出した大切な何かを知ってる気がするんです」
「・・・そんなに会いたいのであれば、合言葉を言う。『話せば分かる』、返し言葉を考えるのとその縁の地へ来るのじゃ。わらわは待っているぞ。『箱開け』」
アカツキは不思議な四角形を作り出して消えて行った。
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