行き交うネオン
じゆ
夜に棲む
私は初めて恋をした、らしい。
気がつけばあの人のことばかり考えている。
悩みに体がむしばれる。
すれ違う人混みの中にあの人の姿を探している。
この得体のしれないこの想いは恋というらしい。
友達の佳奈から聞いた。
彼女はなぜか嬉しそうに私の話を聞いていた。
出会いは唐突だった。
そう言うと聞こえはいいが、
実際にはそんなはなやかなものではなかった。
夜の帳が降りた後、私の街は輝き始める。
無数の人が流れ行き、帰るものはなぜかしたり顔で
長い長い夜を、甘い甘い夜を過ごす。
この街にはある掟がある。
街のものと旅人は決して越えてはならぬ線がある。
それは、決して交わらぬ平行線なのだ。
越えたものは消されてしまう。
見ることのみ許される。
お互いがお互いの見せ物のように。
私はその見せ物の中に彼を見た。
切れ長の目、
高い鼻、
凛々しい顔立ち、
一目惚れだった。
彼の顔を見た途端、胸が締め付けられたように、
痛み、体が浮く。
人混みにまみれた彼は浮きだってみえた。
彼以外目に入らなかった。
毎日、この街は沢山の人を受け入れて、
また次の夜を待ちわびる。
私はこの街が嫌いだった。
一方的に捨てられるのを知っていても
繰り返すこの街が嫌いだった。
今も変わらず嫌いなのに、
未だに一方的なのに、
明日、次の夜が来るのが待ち遠しい。
どんな男と会い見えようと、どうでもよかった。
ただただ、彼に会いたかった。
叶わぬ願いを抱いてしまった。
この街に来てから捨てた思いを、
再び拾ってしまった。
今日も夜が明けていく。
履き慣れない装いを外す。
高いハイヒールとスカートを脱ぐ。
また夜が終わってしまった。
明日になればこの想いをも
一夜限りにの客のように過ぎ去ってはくれないだろうか。
行き交うネオン じゆ @4ro
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