ぬいぐるみが最強の世界〜加護と知識で無双〜

うっちー

《序章》惨劇


「はぁ......今日もいつもどおりの通り独り」


 そう呟くのは俺、杉田海斗すぎたかいと

 田舎暮らしの黒髪黒目15歳長身細身、最近モテそうな風貌だ。

 しかし

 高校に通い始めて早三ヶ月、あんなに夢見ていた青春イベントゼロもちろん彼女もできない。


 現在俺はアニメ研究部のカリスマ的存在、幅広いアニメ知識を駆使し様々な方法でアニメ研究部を盛り上げている......はず。

 しかし中途半端に根が明るい為、インキャ御用達アニメ研究部では友達が出来ず孤独な日々

 俺も女友達の一人や二人、三人四人欲しいもんだ。

 雄太に彼女ができて焦ってんのか?


 でも女ってめんどくさいし、いなくても困らないでしょ。うん。困らないし。


 ウジウジ考え込みながら部活帰りの俺は学校からの帰り道の山道をトボトボと歩く、季節は真夏特有のセミの声で溢れかえっていた。

「はぁ......セミうるせぇ......あいつらの元気分けて欲しいわ」

 気怠げに木を眺めていると後ろからリズムの良い足音が聞こえる。


「よお〜! 海斗!」


 明るい声で誰かが俺の背中を叩く。


「っ......! いてぇな! 力込めすぎなんだよ」


 こいつは小さい頃からの腐れ縁......手塚雄太てづかゆうただ、バレー部のエースで背が高い方であるはずの俺よりもかなり大きい195cmはあるだろうか?

 イケメンで勉強もできて明るくスポーツ万能、文武両道の人気者だ、なんでこんな奴が俺の友達やってんだ? ......少し睨むと雄太が満面の笑みで俺に微笑む、性格まで俺とは大違いだ。


「雄太〜! ハァ、ハァ、いきなり走らないでよぉ!」


 可愛らしい声がして振り向く、すると学校1の美女、吉岡一夏よしおかいちかが肩で息をしながら走ってくる、金髪碧眼。名前は日本人なのに、完全に外国人だ。特に胸がデカい、走るとブルンブルンと上下にダイナミックに揺れる。

 Gカップくらい、おっぱい星人である俺の目は完璧に目標の胸の大きさを推測する。

 魔性の女とはよく言うが魔性とはまさに胸のことだろう。


「ワリィワリィ、一夏 海斗の姿が遠くに見えたから」


 憎たらしいことに、こいつらは付き合っている、学校の人気者と完璧美少女お似合いカップルだ。

 俺が自分の人生について考えてしまった原因でもある。


「で? 何のようだよ」


 俺は雄太を睨む。


「今日は俺の誕生日だろ! まさか......忘れたわけじゃねぇよな! 何か買ってあるんだろー!? 

 ......海斗、お前機嫌ワリィな、もしかして俺と一夏に嫉妬してんのかー?」


「バッ…‼︎ そんなんじゃねぇよ!」


 図星である、こいつ自慢でもしにきたのか? 察しろ! 遠慮しろ! 恋愛経験のない俺にはクリティカルヒットなんだよ!


「もぉー! 雄太ぁ......! 杉田くん困ってるでしょ、 それに揶揄っちゃ悪いよ!!」


「ワリィワリィ冗談、冗談」


 向こうは軽いジョークのつもりだったのだろうが、クリティカルヒットの俺を尻目に流石に自重しだす雄太。俺達は近道である山道の一本道を降る、ここは人通りの少ない秘密の抜け道だ。


「それにしても良いよなぁ、手塚は! そんなに可愛いくて優秀で性格も良くてなんでもできる吉岡さんと付き合ってるなんて」


「そんなこと......無くもない......かも......!」


「海斗てめー 一夏口説いてんのか?」


「ばーか! お返しだよ! お前みたいな脳天気野郎には勿体ない!」


「へへ......‼︎ ありがとよ‼︎」


「褒めてねーよ......」


 側から見てもお似合いカップル、邪険に扱おうがいつでも明るい手塚少々調子にのる所もあるが憎めないやつだ。


 ......こんな友達を持てた俺は恵まれてるのかもな。

 部活で少し遅くなった為、時刻は7時の半ばほど、淡い太陽の光は徐々に輝きを失い視線の彼方には薄い満月が登り始めていた。


「そういえば......ここ最近、謎の失踪事件が多発してるらしーな‼︎ 怪物に足から喰われちまうとか、なんでも異世界からの来訪者って呼ばれてるらしいぜ

 海斗の本当の両親も失踪しちまったんだろ?なんか関係あんのかもなー?」


「パパ!......ママ......? 何処にいるの?」

                  

                     』

「ッ‼︎......」


 嫌な物......思い出しちまったな......


「あ〜....すまん、つい」


「別に......気にしてねーよ、それに怪物なんて作り話に決まってるだろ」


 そうだ......俺の両親は失踪した。

 8歳の時

 大きくなって警察に聞いた所、自殺として処理されたらしい。


 ......いや、違う


あんなに楽しそうだった両親が自殺する筈ない。


                      

山道を降り切り、山の麓の一本道の土砂を機嫌が悪そうに踏み鳴らす。


「すまん......なんか暗い空気にしちまって」


手塚が申し訳なそうに謝る。


「......大丈夫だ、俺も悪かったよ、いきなり機嫌悪くなって、ほらこれお前が欲しがってたキーホルダー」


「おっ‼︎ サンキュー‼︎」


「あー! これ! 私も好きなのー! キャルルでしょ!?」


 二人共、無理に場を盛り上げてくれている。


「そうだよ、俺昔からずっと見てんだグランドエスケープ、一番好きなアニメでさ」


 《キャルル》俺の一番好きなアニメの一番好きなキャラクター グランドエスケープに登場する主人公。


 国民的アニメ、猫みたいな可愛い主人公


 家の鍵のキーホルダーとして利用していたのだが、雄太もこれが欲しかったみたいだ。


「お前、なんで俺とお揃いのキーホルダーなんて欲しがるんだよ」


「へへ! いいじゃねえか! 友達の証だよ! 親友だろー?」


「ッ......何言ってんだよ」


 ......こいつ、よくこんな恥ずかしい台詞を平気で言えるな


 まあ、手塚の長所の一つなんだろうけど......


山の麓の近くには町があるそこには行きつけのステーキ店がある。


「なあ、帰りに飯でも食わないか? 今日はお前らが付き合った記念に奢ってやるよ」


「まじ!? 今日のお前サイコーだな‼︎ いつもはケチなのに......」


「は! ケチで悪かったな!」


 ......まあこんな俺と仲良くしてくれてるコイツにも、偶にはお礼しないとな。

 金、いくら入ってたっけ?

 キャルルの絵柄のサイフ

 こんなもん高校にもなって使ってんのは俺くらいかも......。


「千円しか入ってねぇ......」


 ......こっから家まで割と近いはず


  取り敢えず家に金取りに行こう。


 ん?アレ?


「あ......待ってくれ、家の鍵落としてる......ちょっと取りに行ってくる‼︎」


「本当か? .....俺もついていく‼︎」


「いいんだよ! お前は彼女と楽しんでろ」


 俺は反対方向に駆け出す。


 多分、手塚に叩かれた時落としたんだ

 アイツ......落とした時に気付けよ!

 まあ、それは俺もか


 ♢


学校に続く山道


「割と遠かったな......あいつら待たせても悪いし早く見つかればいいんだが」


 お、あったあった分かりやすいキーホルダー付けてて良かった


 8時前の山道の暗闇をスマホの灯りで照らす、すると直ぐに白い猫、キャルルのキーホルダーが光に照らされる。


 よし、早く二人の所へ帰らなきゃ......。


 乱式走法ビーストダッシュ


 キャルルのスキルの一つ

 基礎的走法......まあ、脳内で叫んでも実際使えるわけはないんだが。


 運動不足の俺には堪えるが、全力ダッシュで早く2人の所に戻ろう。


 ♢


 そろそろ着く

 結構時間が掛かった......ここから帰宅してお金補充して行きつけのステーキ店、帰るのは9時過ぎかな。

 手塚、吉岡さんちゃんと待っててくれてるかな。


 その時


 ドゴォォォォン‼︎‼︎


「な、なんだ!?」


 大きな衝撃音と共に、目を覆いたくなるほどの閃光が発せられる。


 雷か!? アレは多分......二人のいるとこ‼︎


「ハァ......ハァ......」


「手塚‼︎‼︎‼︎ 吉岡さん‼︎ 大丈夫か!?」


 辺りを見回す、山の麓の一本道普段人通りは少なく俺も通学路にしか利用していない、そんな道路に大きな穴が空いていた。


 しかし手塚それに吉岡さんの姿が見当たらない。


「おい! 手塚ァ! 吉岡さん! 無事なら返事してくれ!」


 二人の姿がない、たまたま何処かに移動していたのだろうか? それとも雷に打たれて......。


 そうだ! 電話を掛ければ......‼︎

 ......待てよ?何か匂う。


 血の匂い…? 後ろから…‼︎


「この世界にも上物が居るようだな。実に美味だ」


「あ......え......?」


 ......なんだ、コレ


 神話に出てくる悪魔のような化け物。


 状況が理解できない、俺は夢を見てるのか?何かの撮影か?


「貴様ァ......我が見えるようだナァァァ‼︎」


 聞いたこともないような不気味な声でその化物は喋る。


「手塚は......吉岡さんは......」


 突然の事で呆然としていた俺は思い出したように二人の名を口にする。


「手塚?吉岡?クヒヒヒヒヒヒヒ‼︎ それは‼︎‼︎ コレの‼︎ 事カ!」


 「透明化解除クリアアウトォォォ‼︎」


 化物が何かを唱える。


 酷い血の匂い


「あ......あ」


 真っ赤に染まった男女の制服に、俺が手塚にあげたキーホルダー。


「ウップ......手塚......吉岡さん......」


「上物は実に美味、今喰ろうた人間の雄、「海斗助けてくれ......‼︎ 」死ぬ迄叫んでおったワ! ク......ヒャッハハハハハハハハハ‼︎」


「あ......あ......」


 力が入らない


「痛い、痛い痛い痛い‼︎ 助けてくれえええ! 海斗ォ!」


手塚の声で化物が喋る


 あ......足腰が立たない......に......逃げなきゃ


「人間の雌を先に喰らイ、我に歯向かう人間の雄を四肢を切り離し、嬲り殺して喰らウ.....‼︎ 実に楽しかっタァァァァァァ‼︎」


「やめてくれえええええええええ‼︎」


「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


 立て! 立て! 立て! 俺の足‼︎


 怖い‼︎ 怖い‼︎ 怖い‼︎ 怖い‼︎ 怖い‼︎ 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖怖い怖い怖い怖い


 無我夢中で走る、走る、走る、走る、走る、走る


 ♢


 ......もうどれだけ経ったか分からない


 ここは......ぬいぐるみ高校の横にある空き地。


「ハァ......ハア......」


 このままじゃ


 アイツが、やってくる......‼︎俺を、殺しに......‼︎


 隠れよう‼︎ 何処へ!? あの土管の中......‼︎


 俺は空き地に転がっている複数の土管の中の一つにすぐさま入り込む。


 ......これですぐには見つからないだろう


 誰か人を呼ばなきゃ......‼︎ 警察...! 大人!! 誰でもいい‼︎ 助けてくれ‼︎


 警察......‼︎ 助けて......


 無我夢中で警察を呼ぶ。


 「prrrrrrrrrrrr」


 早く......‼︎ 早く......‼︎


「事件ですか、事故ですか、何かありましたか?」


 掛かった‼︎


「か‼︎ 怪物に‼︎ 友達が殺されたんです......‼︎ 助けてください.....‼︎‼︎‼︎」


「怪物…?フッ バカにしてるんですか?」


「いいから‼︎ とにかく早く来てくれぇ‼︎‼︎ 場所はぬいぐるみ高校の横の空き地‼︎‼︎‼︎ 頼む‼︎‼︎‼︎」


「はぁ............取り敢えず、近くにいる警察官を向かわせますのでお待ち下さい」


「早く‼︎‼︎‼︎」


 必死の訴えが伝わったのだろうか?何にせよこれで助かる......。


......クソ‼︎ 二人を助けられなかった......‼︎ 大事な友達なのに......‼︎ 顔を手で拭うと大量の涙を流していたことに気づく。

いつもなら人通りを感じるはずのこの場所にも、不思議と人っ子一人見当たらない。


......なんだ?


「やめてくれえええええええええ‼︎」「やめてくれえええええええええ‼︎」「やめてくれえええええええええ‼︎」


 ......何処からか声が聞こえる


 なんだよ......この声......俺の......声?


 声のする方を向くと......


 笑いながら俺の声で叫ぶ


 化物が土管を覗き込んでいた。


「イヒ......イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイイイイイイ‼︎ ......貴様はァ......どんな声で鳴くかノォ」

 

痛強化ツーアップゥゥゥゥゥ‼︎」


    腕が腹に突き刺さる      


「ああ......‼︎痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いああああああああああああ‼︎‼︎」


「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


 血飛沫が舞う


 腹部に焼けるような痛み


 ......お腹が熱い、俺死ぬのか?


 ......まだ......死にたくねぇ、雄太も......こんな気持ちだったのかな


 ..................意識が遠のく


 俺の人生、ロクなもんじゃなかったな......まだやりたいことがたくさんあったのに


 彼女も作りたかったし、家庭も持ってみたかった、雄太とも......もっと遊びたかった


 キャルルまだ完結してねーよ......


 ............意識が遠のく


 もう、いしきが......


 はぁ、らいせがあるなら、たのしく......きらくにいきてぇな......





























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