2020夏オリンピックをジャッジ!!

清泉 四季

今、思うこと。

「大きくなったら何になりたいですか?」


「オリンピックで金メダル!」


 スポーツを頑張っているちびっ子たちにインタビューすると、条件反射のようにあどけなくこういう答えが返ってくる。

 それがいかに多くの努力と苦労と涙が必要なのかこれっぼっちも考えずに。

 オリンピックの代表選手に選ばれるには本当にたくさんの試練を乗り越えなければなれないのに、選手は誰もどんなに大変で、どんなに努力したかを言わない。


 なので今回ここで、代表選手になるにはいかに大変であったか、彼らに代わって語りたい――


 まず、オリンピックの選手になるには多くの種目で親が選手の取り組んでいる種目の選手であったかどうかがカギになる。体操、レスリング、卓球、思い出せばキャラの強い親はいくらでも出てくる。バドミントンでシャトルのことを『羽根』などと言っている親なら子どもはオリンピックは無理。卓球も、小学生前から親子でガンガン練習している。家に食卓はなくても卓球台はあるくらいの環境が必要。

 親がお金をかけ環境を整え、最善を尽くして当たり前なのだ。

 もちろん『中学の部活から始めました。』という人もいるだろうが。


 そしてひと昔前、『野球バカ』など○○バカといった、そのスポーツを極めていれば勉強や一般常識は少しぐらいわかっていなくても許される風潮が無くなった。


「お前、確かに空手はすごいけど、勉強できるのか。」


「学校のテストでは90点以下を取ったことはないよ。ピアノで校歌の伴奏も弾けるし、英検三級も持ってる。もちろん水泳はメドレーリレー泳げるよ。」


 大抵は小さいうちからオリンピックを目指す種目以外の、スイミングやピアノや英語などの習い事をし、学校の勉強も義務教育範囲はトップレベルを維持しないと許されない。

 はっきり言ってダラダラしたり、のんびりする時間はない。

 小学校時代、やっとの思いで練習も習い事もない日をつかみ取り、張り切ってクラスの友達を誘うとこうだ。


「ねえ、今日学校帰ってから一緒に遊ばない?」


「えっ、今日柔道の練習ないんだ。いいよ、だけどお前、ゲーム機持ってんのか?」


 ゲーム機もソフトも試合に勝ったご褒美にゲットしている。抜かりはない。


「よし、じゃあ帰ったらすぐにオレん家に集合な。えっ、オレん家知らない?しょうがないな。じゃあタコ公園でいいや。ゲームやってから遊ぼうぜ。何、タコ公園も知らないのか。まったくもう。今日は学校の門に集合にしてやるよ。」


 そして碌にレベルの上げていないソフトで対戦して友達からコテンパンにやっつけられて、厳しい子供社会を味わう羽目になる。

 実戦で戦ったら絶対に相手を投げ飛ばせるのに……。


 小学校高学年から中学にかけては試合のためにあちこちの県に行く。

 学校で夏休み明けに、友達が何とかランドとか何とかスタジオとかに行った話に花を咲かせていても、上手く混じれない。


「お前、夏休みにはどこに行ったんだよ。」


「ええと、静岡県と富山県。」


「えー、静岡ってお笑い芸人の食べ歩き、昨日テレビでやってたけど、行った?」


 そんなこと言われても、行ったのは競技場。全国どこでも代わり映えはしない。

 しかもクラブチームで動くから、個人的に食べ歩いたり、観光したりできない。

 

「つまんないやつ。」


 この一言を何回言われただろう。しかも、体育館で行う競技だと、日に当たることもないので妙に色白のアスリートが出来上がる。

 そばかすが気になる女子から美白肌をねたまれる始末。


 高校生あたりから、コーチとの相性に問題が出てくる。

 しかもコーチたちはビシバシのスパルタでしごかれていた世代で、近年急に『褒めて伸ばす』といわれて戸惑っている。


「こらーっ!!今のミスしやがったやつ!……の後ろ、ナイスフォローだ!」


 さらに、技のレベルアップが激しすぎて選手との溝が埋まらない。

 自分ができなかった技を指導するのは大変だが、きつく言うと、


「じゃあお前、こんだけ回転してひねってピタッと着地できんのかよ。昔あんたがやってた技だったら俺はとっくにできてんだよ。」


 と顔に書いてある選手と向き合わなければならない。


 また個人競技は個人の問題だが、チームで戦う競技だと、レギュラー争いが熾烈を極める。

 たとえ自分が十年に一人のバレーボールの名セッターだったとしても、同時期に五十年に一度と百年に一度の同ポジションのやつがいたら、出番はない。

 十年、前後にずらして生んでくれたらよかったのにとさえ思うらしい。

 そして周りが恋愛に浮かれていてもオリンピック代表選手に選ばれるために一途に練習する。周りに異性はいるが、同じ競技をしていて付き合うという対象ではない。が、たまにチャンスがないでもない。


「ねえ、練習終わったら時間ある?ちょっと付き合ってもらいたいことがあるんだけど。お願い。」


 女子チームの女優の広川鈴似のナンバーワン美人に声をかけられてドギマギしながら頷き、浮かれているとこうなる。


「レシーブの練習したいから、思いっきりサーブ出して。手加減しなくていいから。それからね…。」

 

 彼女たちはアスリートの鑑。

 男子のことは自分のレベルアップに役立つヤツとしか、みなしていない。


「……(疲れたからもう帰りたい)……。」



 怪我やどうしていいのかわからないスランプや、あと少しで代表に選ばれなかったライバルへの思い、いろいろなものを背負ってオリンピックで戦う権利を得た。

 あとはメダルを取るだけ。……だけど考えてみて欲しい。やたらとどの国が金メダル何個、銀メダル何個、と騒ぐがオリンピックに出場している以上、選手は全員死ぬほど努力している。スポーツしている以上勝ち負けはしょうがないが、せっかく世界中の国の人が言葉がわからなくても理解しあえる機会なのだから大切にしたい。日本人選手以外の好プレーをもっと紹介してもらいたいくらいだ。そして、


「えっ、アーチェリーってオリンピック種目だったっけ?真ん中狙ってうつだけでしょ、見ててもあんまり感動とか…。」


 なんて言わないで、マスコミは全種目をちょっとでいいから取り上げて欲しい。


 さあ、宴は始まった。楽しもうじゃないか。最後に一言。

 テレビカメラさん、一瞬でいいから各種目の審判の顔、映してください。


                               おわり。

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2020夏オリンピックをジャッジ!! 清泉 四季 @ackjm

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