2話 令嬢は困惑して悩みたい!

 今からあの屑に会うのかと思うととんでもなく気分が悪かったが、その屑にド正論をぶちかましたらどんな顔をするのか少し楽しみな気もした。

 おそらく、立ち合いにいるサミヤは私の顔の変化を見て心の中ではドン引きしているかもしれないが、見た感じとても落ち着いている所がすごいよ。


 そうやって気分を高めながらアルベルン侯爵の到着を待っていると、どうやらこの屋敷の前にやってきたようだった。

 今日は私の運命の日であるわけなのだから、当然メイドや執事はほぼほぼフルメンバーである。まあ、私はただただ婚約破棄を言い渡すだけなのだが。


「そろそろこちらに向かってきそうですね。お掛けになられては?」


「そうね、失礼するわ」


 今ならいける、あの屑侯爵に一撃といわず、百撃くらい喰らわせてやれそうだ。

 愛想笑いから一気にこっちのターンに引きずってしまおう。


 ドアをノックする音が聞こえた。私は「どうぞ」と言い、決戦のときが来たことを自分に言い聞かせた。

 入ってきたのはブロンドヘアーのイケメン。おそらく侯爵の執事であろう。

 その後ろから侯爵がデカい体を揺すりながら来……ない!?


 後ろから入ってきたのはたまに見かける屑侯爵の執事だった。執事が二人入ってきた時点でドアは閉められたため、これ以上人が入ってくるわけではなさそうだ。


「よ、ろしくおねがいします……」


 なんとか愛想笑いはできたが、まったくもって状況が理解できていない。

 あの豚のように太っていつも見下すようなあの屑侯爵はどこへ行ってしまったの?

 せっかくいままで準備をしていたのに本人不在ってどういう事なの?


「よろしくお願いします、リュリス・クランセル嬢」


 ブロンドヘアーが深く礼をするが、さらにわけが分からない。

 仕方がない、一応聞いてみることにしようか。


「顔をあげてください、貴方は一体……誰なのでしょうか?」


「ああ、だいぶしたので分からなかったですよね、失礼。私は、アルベルン・クアリラです」


 確かにあの屑豚もブロンドヘアーだったか?でも、面影は全くと言っていいほどにない。

 痩せてスラっとしているし気持ち悪い笑みも浮かべていない、そもそも口調がとんでもなく丁寧になっているため、言葉に対して名前の部分が浮いているようにすら感じる。


 とっさにサミヤに目配せをすると、彼女も小さく首を横に振った。

 言おうと思っていた言葉も自信も吹っ飛ばされてしまい、目の前にいるのは自分を「アルベルン」と名乗るイケメンとその執事だけ。


 落ち着くんだ、リュリス。少し変わったからって中身はあの屑侯爵なんだから。

 大丈夫、私ならやれる。

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