第35話 もう少し夢は続いていく
ティエル診療所を後にした俺は、家へと続く帰路を歩いていた。
ここは黄葉の区域で、この隣にある桃葉の区域にこそ、俺の家があるので到着には時間が掛かる。
人の行きかう街道を――スタスタと進んでいると、目の前に結構な行列を作っていた店があった。そこに取り付けられていた看板を見るとスプラッシュ飲料店と書かれていた。
(……あれ、ここって、前にイルフドが飲ませてくれた炭酸飲料水ってのが販売されている店か? おかしいなぁ、昨日はこんな店なかったはずだし、だいたい別の区域に構えていたんじゃなかったか?)
俺は気になったので、行列の最後尾を示している看板を手にしていた、アルバイトの青年に聞いてみることにした。
「すみませーん、ちょっといいですか?」
「あっはーい、なんスかー?」
「このスプラッシュ店って、こんなところにありましたっけ?」
「――ああ! ここは今日から始まったスよ。ちょっと前までは別のところで販売してたんスけどね……ほら、ここんところ良くないことが立て続けに起きてたでしょ? 元あった場所が結構危ないって話になったんで……だから移転して、新装開店したんス」
「そうなんですか……けど、昼でもまだ在庫があるんですね」
「ああ……最初は朝だけに販売してたんスよ、けど買えない人が続出して、抗議があった見たいっス。だから、朝の部と昼の部と夕方の部に分けて売り出すことにしたらしいっス。トラブル防止のために在庫も十分確保してるらしいっスから、今なら購入できっスよ。並びまス?」
「――じゃ、じゃあ、そうしようかな」
アルバイトの人に上手く勧められて、俺は行列に並ぶことになった。
列が少しづつ前へと進んで行くと、飲料店の隣にあった新聞店のカウンターに丁度差し掛かる位置に来ていたので、暇つぶしに今日の分を購入して読むことにした。
(家にも同じものがあるけど、まぁいいか。いくつあっても別のことに使えるのが新聞紙のいいところだ)
俺は早速、購入した新聞に目を通しながら、行列の進み具合にも気を配る。
(――あっ、ほんとだ。スプラッシュ飲料店、黄葉の区域にて新装開店……)
さらに新聞を読み進めていく。
(……ん? あの事件のことが書かれている……えっと……)
――異常事件ついに収束か!
先日、国会から発表があった。頻繁に続いていたトラブル事件と、衰弱していく流行病は、完全に鎮静化したとういものだ。
発表の通り数日前から、これらの異常は突然の治まりを見せていたので、住民たちはようやく確信が得られて一安心していることだろう。
これでようやく普段通りのフォレンリースに戻ったわけだ。
しかしながら、不安の声もまだ残っている。今回の起きた問題の原因が判明していないからだ。これに対しての国会の答えは――原因不明――の一点張りであり、今後は同様の事態に陥らないように対策を講じていくとのことだった。この件に関しては、これからの新情報に期待したい。
(……よかった、あれから何も起きなくなったんだ……新情報ねぇ、俺たちのこと知られたりしないといいけど……まぁ、夢の力が関係してるなんてわからないか……とりあえず気にしなくてもいいかな)
さらに新聞を読み込んでいく。
――国会樹義塔でもトラブルか!
つい数日前、フォレンリース国会樹義塔で起きたことを皆さんはご存じだろうか?
中央区域に大きく聳え立っている塔、知らなければ見に行くといい。
なんでもこの塔の最上階が何らかの原因で破壊されてしまったのだ。
取材でしか知りうることが出来なかったのだが、最上階は、天井が崩れて瓦礫が散乱し、至るところに焼け跡を残しているとのことだった。
現場に入れてもらえなかったのは、そこが一部の関係者にしか入ることを許されない禁断室だからだそうだ。このような大事件があっても入れてもらえないのはおそらくあの古文伝が関係しているからだろう。
古文伝に関して知らないのであれば、個人で調べてみてほしい。
どうやら、禁断室内にはフォレンリースの国宝が納められていたらしく、それが今回の事件で紛失してしまったらしい。こちらについての詳しいこともほとんど教えてもらえなかった。
ただ、事件現場にはゴダルセッキ氏が倒れており、何かしらの被害に遭ってしまったようだ。やはり頻発しているトラブル事件絡みの可能性が高かったのだろう。そちらの事件は現在見る影もなくなってしまった。詳しく知りたければ別の記事を参照することをお勧めしよう。
ゴダルセッキ氏は事件の被害に遭われてしまって現在は休養中だったが、私が取材しにいったところ本人は何も覚えていないとコメントしており、あまり被害に遭ったことを気にしていない様子だった。さすが未来の国を背負う男といったところだろう、この程度の事件で彼が揺らぐことはないらしい。
この件に関しては、今後も取材を続けていくつもりだ。
(……国会樹義塔の破壊事件、誰かの仕業にしないところがこの国が平和な証拠か。その方がいい、俺たちの仕業なんて突き止められたくないし……それにしても、この禁断室の紛失した国宝って、絶望華の事なのか? いや、あれはゴダルセッキさんの罠だった……ということは、本当は希望華が安置されていた場所だったのかもしれない。あの人が何も覚えてないなら、俺が希望華の種を持っていることは隠しきれそうだけど……そうか~~、国宝だったのかぁ、バレたらどうなるんだろうなぁ~~)
新聞を読みながら考えていると、
「――次の方どうぞ~~」
「――あ! はい」
店員さんに呼ばれたことで――俺は順番が回ってきたことを知る。新聞を畳んで、カウンターの前に立って注文する。炭酸飲料水を二つ頼んでおく。
「はい、こちら二本でよろしいですね。お買い上げありがとうございました~~」
店員さんから受け取ったものをバックに入れる。そうして俺は行列から解放され、再び帰路について、家まで向かっていく。
(買ってしまった後だけど、彼女はこういうモノを飲めるのだろうか……?)
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