斜め15度
井上 流想
第1話 春
乾いた枝に淡いピンクのムチムチドレスが今か今かと、弾ける日を待っている。
まだ吐く息が白い、春の始まり。
紙コップが落ちて、その場で注がれるタイプの自動販買機にオススメシールがやたらと貼られたカフェオレがあって、いい豆使いましたよ、北海道産ミルク100%ですよ、とゴリ押ししてくるもんだから、さぞかし美味しいだろうと思い、つい釣られて買ってしまった。
出来上がりサインの音が鳴り、カップを掴んですぐに後悔。冷えた僕の手を更に冷やしてきたのだ。
それ以来『オススメ』という言葉は全く信用していない。
所詮オススメなんてものは売り手の都合でできている。
安く大量仕入れができたからだとか、賞味期限が近づいていて早く捌かなくてはいけないだとか。
なんで寒い日に、体脂肪の少ない僕が氷入りのアイスカフェオレを飲まなくてはいけないのか?
ランキングにも気を付けなくてはいけない。
他人の評価したものが必ずしも自分の好みに合うとは相当に疑わしい。
ただ、現代は口コミや星の数を気にする時代。
自分の直感や好奇心などは合理的ではないという時代。
つまり、リスクを好まない時代なのだ。
僕の好きな映画は大抵評価が低い。
暗いだとか、ラストシーンが意味不明だとか。
わからないモヤモヤがその映画の醍醐味なのだと思っていたし、そんな映画からたくさんの事を学んだ。
僕はそもそも一位に興味はない。
ただ、そのせいなのかはわからないが、僕はよく女性に浮気をされる。
僕自身、微妙な位置の男なのだろう。
ある日の仕事帰り、自宅最寄り駅の行きつけの牛丼チェーン店、ではなく、仕事先の駅前にある同じ牛丼チェーン店へ寄った。
最高に空腹だった僕は一心不乱に牛丼をかき込みたい気持ちであったが、猫舌が邪魔をした。
冷めるのを待っている間、僕は斜め向かいの女性に目が行った。
髪をかき上げたり、上着を何度も畳み直したりなんかして店員の動きを観察し、チケットを渡すタイミングを見計らっている。店員は牛丼を運んでは、空いた器を下げるの繰り返しで入店した女性に気づかない。声をかけようとするが、この規則正しい動作の中に割って入るのはちょっと難しい様で、まるで長縄に入れず縄だけを目で追って直立不動している様だった。僕は思わず手を上げて店員に彼女の存在を人差し指で知らせた。店員の事をずっと目で追っていた彼女は僕に気づき、軽く会釈をした。
そんなこんなで牛丼の表面は少しだけ冷めて食べ易くなっていた。
店を出ると、長縄の女性も一緒に出て来た。お互い目が合い、再び軽い会釈を交わした。
こんな微笑ましい日もあるもんだ。
大人な日もあった。
またある日の仕事帰り、まぁよくある事だが、不条理な事で上の人に叱られた。
気分が悪かった僕は、いつもの道ではなく別のルートで帰ると、たまたま目に入ったバーの看板電飾に引き寄せられ、ドキドキとイライラがシェイクされた状態で吸い込まれるように中へ入っていった。
7人入れば満席になってしまうような小さなバーに、常連客であろう女性が一人、隅でモヒートらしきものを飲んでいた。
僕は緊張していて、何故か中央ど真ん中に座ってしまった。動揺を隠す為、普段は飲まない強めの酒をロックで頼んだ。
マスターは新参者には冷たいのか、それともこのシュールな雰囲気が売りなのか、終始無言で話しかけてくれる事も無く、黙々とグラスを拭いていた。
吹き終わったグラスを並べる時に隣のグラスに少し触れ、無音の店内に高音が響き渡る。この緊張感がさらに酒を進ませた。
隅にいた女性は漸次に近づいていたのか、いつの間にか僕の隣の席に移っていて、とろけた目で見つめてきた。僕は女性側に体の向きを変え「よく来るんですか?」と話しかけてみると可愛いらしい笑顔で「うん」と頷き、僕の下らない、上辺だけの質問にテンポよく返してくるもんだからこれはイケると思い、酔った勢いもあって、一緒に店を出ないか誘ってみた。彼女のとろけ落ちそうな目は一瞬大きく見開いたが再びとろけだした。
そして、僕たちはそれらしいホテルを見つけ夜を明かした。
翌朝、彼女は慣れた雰囲気でホテルのアメニティーをほぼ全部使い、身支度をしていた。
「セフレでいいよね?」
朝一発目の会話がこれか?と衝撃で眠気が吹っ飛ぶと、「悪くなかったし」と、意外なお褒めのお言葉を頂いた。
にやけた顔をしていると鏡越しから僕を見ていた彼女が何か書くようにとドライヤーの爆音の中からジェスチャーを使って指示をしてきた。
僕はホテルのアンケート用紙の隅に電話番号と名前を書き、ちぎって二つに折りにすると、机の上にそっと置いた。
「今のところ4番目ね」
わざわざそれを言うために一度ドライヤーを止め、そして再び乾かし始めた。
「今のところって?これからも増えていくんですか?」
「っていうか、他に3人もセフレさんがいるんですか?」
「え?順位はどうやって決めてるんですか?」
僕の声は爆音に消されて何も伝わっていない様子であった。
苦渋に満ちた表情など一切見向きもせず、自分の髪のセットに余念がない様子。
他三名のセフレに対して、何故さん付けをしてしまったのかはわからない。
先輩という建前上の敬意からだろうか?順位のつけ方も気になった。
年功序列なのか、テクニック順位なのか?これからのし上がっていく為にも抑えておきたい重要なポイントだった。
彼女は身支度が終わると机に置かれた紙切れを開き、
「何これ?」
「名前と電話番号です」
「今時?」
「僕のメールアドレス、買った当時から変更してなくて、訳の分からないアルファベットが並んだ変なアドレスなんです。わざわざ打ち込んでもらうのも悪いなと思いまして。僕、ラインもしてないもんで。なのでSMSでメールしてもらえればいいなと思いまして」
僕は焦るように答えていた。
彼女は僕の説明を耳に通すと、面倒臭そうな顔をして「やってみる」とぼそっと言い、そそくさと一人でホテルを出て行ってしまった。
昨日僕が会ったあの可愛らしい娘はどこへ行ってしまったのだろうかと思うほど、まるで別人であった。
残された部屋には虚しさが充満しいて一秒でも早くここから出たい、そう思った。
脱ぎ捨てられた服をかき集め、急いで着ると、鏡を見る事無く部屋から飛び出した。
廊下にはアジア系外国人のスタッフ数人がいて、満面の笑顔とカタコトの日本語でお見送りをしてきた。僕はいたたまれず、小走りでエレベターへ向かった。
扉が開くとすぐに乗り込み、一階ボタンを強く連打した。
その時にはもう、彼女の匂いも顔もほとんど忘れかけていた。
僕は小さい頃から視力が良くない。眼鏡をしていないと全てがぼやけて見える。
だけど、そんなぼやけて見える世界が好きだ。
人の顔はぼんやりしていて表情が読み取り辛い。読み取り辛いのであれば敢えて読む必要はない。僕は肩の荷が下りて楽に会話ができるようになった。
この事に気づいたのは僕がまだ小学校低学年の頃だった。
幼稚園の頃から人間関係に飽き飽きしていたし、疎ましく思っていた。
とにかく冷めた、表情の乏しい子供であった。
とはいえ、やっぱりいじめられたくはないし、ダサい友達とはいたくなかったから、それなりに頑張った。大事な場面では愛想よくしたり、おちゃらけて見せたりもした。
学生時代に楽しかった思い出は特にない。
金曜日の帰りの会くらいだろうか?長くてつまらない一週間を耐え抜いた達成感と、集団行動から解放される安堵感で気持ちが高揚していたのは。
なんとか高校は卒業した。大学への進学は一ミリも考えていなかった。
もちろん両親は大学進学を勧めてきたが、頑なに拒んだ。
高校だってやっとの思いで卒業したのだ、学校嫌いな僕には論外中の論外であった。しかし、これが大人になって大きなコンプレックスになるなんて想像もしていなかった。
僕の人生は浅薄極まっていたのだ。
高校卒業してすぐに、家の近くのホームセンターでアルバイトを始めた。
職場には僕みたいな高卒の奴ら、つまりフリーターと大学生がいた。
バイト仲間同士仲良くて、仕事終わりには飲みに行ったり、休日が合えば外で遊んだりもした。
その頃はまだ学歴の格差に引け目を感じず惨めではなかったのだ。
むしろ大学生達はフリーターの僕らを羨ましい目で見ていた。
お金は稼げるし、宿題はない。その名の通り、なんて自由なんだと。
僕自身、日々の生活には満足していたし、特に何にも疑問を持たず、常に堂々としていたものだ。集団の枠に属さないという事で本来の自分を取り戻しているような感覚であった。
集団生活が長過ぎたのだ。
幼稚園3年+小学校6年+中学校3年+高校3年=15年。
15年間の溜まった垢をそぎ落とすには個人主義として動けるフリーターの道が自分には大事な大事な時間であったように思う。
バイト仲間に福祉の短大へ通っている女の子がいた。普通よりちょっと下の容姿ではあったが、清潔感があり謙虚で、嫌な感じが一切ない印象であった。
僕はその子と度々シフトが一緒になったが特に話すことはなかった。
ある日の仕事終わり、店の前の自販機で間違えて普通のジュースを買ってしまった。
僕が飲みたかったのはその隣の炭酸入りのジュースであった。
ちょうど彼女が着替え終わり店から出てきたので、差し入れと称して、そのただのジュースを差し出すと、受け取らずに、僕の手をじっと見て固まっていた。そして、想像もしていなかった、「好きです」という、生まれて初めての愛語を頂いた。
中高ではクラスの女子に興味がなく、正確には相手にされないと思ってこっちから興味を必死に刈り取っていた。
彼女がいる同年代のバイト仲間を見て、正直羨ましく、また、自分が童貞だという事に段々恥ずかしさが芽生え、焦りを感じていた。一生童貞だったらどうしよう、そればかりを考えていた。そんな時に僕は「なっちゃん」を買い、僥倖に巡り合えたのだ。
僕は彼女の言葉を受け取り、彼女はジュースをハニカミながら受け取った。
決して好きだからではなく、己の為であった。
彼女は見かけ通り優しくて、そして見かけによらずエッチであった。人前では大人しいのに二人きりになると大胆で献身的で、何より体力があった。
僕の死ぬまで童貞説は杞憂に終わった。
僕はそれ以降、いつも似たようなタイプの女性を彼女にし、それなりに満足していた。
そして、彼女達と過ごす時は大抵眼鏡をかけなかった。
彼女達は僕の気持ちを見抜いていたのか、ほとんどが浮気をし、最終的に僕は振られていた。彼女達は綺麗になり始めると決まって、僕に別れを告げるのだった。それも強気に、自信気に。
女性はやはり大事にしてくれる人といた方が輝きだすと心得た。
あの夜から2日が経って、忘れかけていた彼女からSMSが届いた。
「二番が嫁にバレタ。繰り上げで3番」
SMSは文字数が決まっているのでシンプルな文章になる。
冷静に考えると酷い話だが、選ばれている事への快感みたいなものがあって、妙に誇らしかった。順位が上がって喜んでいるなんて、どっかのアイドルグループみたいだが純粋に嬉しかったかったのだ。
思えば子供の頃は何かと順位があった。テストや50メートル走、習字にそれから女子が作った人気ランキング。大人になってからは順位なんて付けられないし、評価されることも少なくって、自分の成長が見え辛くなった。だからだろう、何もしていないけど、ただ相手の男がミスって不倫がバレただけだけど、素直に喜んでいる自分がいた。
僕は誰かから評価されたかったのだと思う。Face bookやTwitterをやらない僕には新鮮だったのかもしれない。イイねと言われたら誰だって嫌な気持ちはしない。
承認欲求は本能なのだ。ね、アズロー。
20分程経った14時頃、再び彼女からメールが来た。
「今、空いてる?」
突然のお誘いメールに驚いたが、不覚にも心ときめいてしまった。
「16時なら大丈夫です」
本当は今すぐでも良かったのだが、いかにも僕には用事があって忙しくしているケド、16時ならまぁ、なんとか都合がつけられるかな~みたいなニュアンスを出したかったのだ。
やっすいプライドだ。
すぐに返事をしてしまったのは、トキメキを隠す計算ができなかったからだ。
しまった事に、その日の17時に歯医者の予約をしていた事を思い出した。
歯医者には体調が悪いと適当に嘘をつき、反故の電話を入れた。
準備は万端だ。時間を気にしながら事をするのは是が非でも避けたい。
好きなタイミングでいかなくちゃ意味がない!
僕は自由でいたいのさ!
愛裸撫フリーダム!
「15時は無理?」
再び彼女からメールがきた。これを逃したら、きっと別の男の所へ行ってしまい、僕はいつまで経っても3番手なのかもしれないと焦った。やっすいプライドは今すぐにでも捨ててしまおう。
「なんとかできそうです。では15時で」
デキる男感をちゃっかり出してみた。
時間に余裕のある僕は少し早めに指定された駅へ向かった。
早入りしたのはもちろん、コンドームを買うためである。
ラブホのゴムは誰かの悪戯によってぶつぶつと小さな穴が空けられている、と都市伝説風に聞いたことがあって以来、信じるか信じないかは僕次第なので、非常に注意をしている。
前回は酔っていて、すっかりゴムの穴の事など忘れてしまっていた。
そう、恥ずかしながら別の穴にしか意識がいっていなかったのだ。
もし昇天と同時に切れてしまったら、やはりここは男として責任をとらなくてはならない訳で、できるだけそのような惨事、面倒は避けたいというのが男の本音。
本当は買いやすいドンキホーテに行きたかったが指定された町にはドンちゃんは居らず、仕方なくコンビニで買う事になった。
改札口へ戻り彼女を待っている間、ゴムをこっそり再確認。このゴムで果たしてよかったのだろうかと真剣に考える。
というのも、人の出入りが気になって落ち着いて選べず、取り敢えずゴムなら何でもいいと買ってしまったからだ。
各メーカのモチベーションや構造内容なんかをじっくり吟味したかったのに。
あぁ、なんて情けない男なんだ、と落ち込んでいる最中、彼女はやって来た。
僕に気づくと一度前を通り過ぎ、そしてすぐに振り返った。
「お金持ってるよね?」
挨拶もせず、会いたかった~などの情緒的な言葉もなく、この一言。
イライラとピリピリを混ぜ合わせたイラピリ菌をまき散らしながら早歩きする彼女について行くと、「ホテル代!」と言い放った。
あ、お金を持っているかの確認はホテル代に使うから、という事ですね、なるほどね、そうですね、と納得をしているとすかさず、
「え?何?家ですると思った?」彼女は立ち止まり、僕の目を厳しく睨んだ。
「あ、いえ」
「シーツ汚れるの嫌だもん。毛とかすごい落ちるんだからね。それに彼氏じゃないから、3番目だから」
最後の「3番目だから」のセリフは鼻で笑い小バカにしているのが明らかに分かるものだった。野放図な振る舞いに僕のときめきは一気に鼻白んでしまった。
このままホテルへ行ったところで、彼女のご機嫌取りから始まって、おそらく不倫相手の男の愚痴を聞き、そして彼女のうっさんを晴らす為、僕は性処理として利用されるだけじゃないだろうか?いや、僕だって性処理をしたい。
お互いが性処理として利用するという事か。
っていうか、性処理ってナンダ?
その色気も情もない言葉に我に返った僕は静かに駅の方へ引き返した。
毛が落ちるから嫌だって、そんなこと普通言うか?シーツが汚れるなら下にバスタオルでも敷いときゃいいわ。つうか、汚すのはお互い様だろ?
反論出来なかった言葉が次々に顔を出して忙しい。
彼女の「ちょっと~」という言葉が背中をかすったが一度も振り返らず等閑視してやった。
受けた屈辱は屈辱で返してやりたかったからだ。
この時ばかりはアッラーを信じ、生姜焼き定食をから揚げ定食に変更出来る思いであった。
直ぐに帰る気にはなれず、5分程ほっつき歩いたが、ほどなく飽きてしまい結局電車に乗って大人しく家へ帰った。
この日、僕は自分のプライドの高さを知ってしまった。
「やっぱり女は顔じゃねぇ」
家に着くなり溜まった洗濯をし、溜まった洗い物をして、溜まった缶や瓶を分け、溜まった埃を掃除機で吸い取り、溜まった、いや、出し損ねたモノを、二枚重ねの白い薄紙、いわゆる、ティッシュペーパーの中へ吹き飛ばした。
部屋もすっきり、体もすっきりして気持ちに余裕が出てきた僕は、溜まった録画のお笑い番組を見て久しぶりにほっぺたが痛くなるほど笑った。笑ったらお腹が空いて、珍しくご飯を炊いてみた。早炊きコースに設定。
レトルトカレーがどっかにあった事を知っていた僕は、台所の棚や引き出しを探した。賞味期限が少し切れていたが何の問題はない。
むしろカレーは寝かせた方が美味いのだ。
机の上を片付け、飲み物を用意し、なんだかんだしている内にピィーという、炊けたよ音が鳴り、心が踊った。2膳半程の白飯を皿に盛り、チンしたルーをかけてみたがどうも色のバランスが良くない。
一体全体、一人分とは誰が決めているんだい?
背が高い人、低い人、体が細い人、太ってる人、みんなそれぞれ食べる量が違うというのに一人分はどんな基準で決まるんだい?
日本人の平均的な体型を想定して割り出したカロリー計算によって一人分が決まるってか?
僕は今物凄く腹が減っていて、減った人の一人分というのは、一人分では足りないのだ。
カレーライスはライスカレーといった感じになってしまい、ライスの主調が強い。
僕はのりたまふりかけをその名の通り振りかけて、カラフルな陽気なカレーに変身させた。
小さい頃からお世話になっているのりたまは、いつだって僕の見方だ。
丑三つ時、奥歯をずんずん、どんどん、と小さなドラマーがリズムを刻み始めた。
欲望を優先してしまった代償だ。
翌朝になると、ドラマーはYOSHIKIに代わっていて、ヘッドバンキングされていた。
営業時間前にフライングの電話をし、その日の一番早い時間の予約をお願いすると、「担当の先生が辞めた為、他の先生でもよろしいでしょうか?」と聞かれ、とにかくこの痛みをどうにかしたくて、何も思う事なく直ぐに承諾した。
歯医者に着くといつもの席ではなく、別の席に案内された。特に親しかったわけでもないが、長年お世話になっていた、僕の歯を知り尽くした先生がいなくなってしまって想像以上に寂しかった。
先生は高齢だったからいずれ引退するだろうとは思っていたけれど、それにしても突然だなと思った。正確には僕にとって突然だったというだけで、先生は前々から辞める事を考えていたかもしれない。
自分中心に全てが動いているわけではないのに、なんて勝手な考えなんだと口を大きく開けながら反省した。
診療後、会計を済ませ診察券を返されると、前の先生の名前が修正テープで消され、上から新しい先生の名前が手書きで書かれていた。
奥歯の痛みは静まったが、心の奥の何かが欠けてしまった様な、そんな気持ちで家路に帰った。
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