第22話 1月1日
みんなのもとに行くと、日野さんと鈴木さんがおみくじを引いて盛り上がっていた。
「私末吉だった。ことちゃんは?」
「私は・・・大吉」
「いいな〜」
そんな会話を聴くと自分はどうだろう?と、おみくじを引きたくなって来る。
「それじゃあ俺も」
拓海も同じらしく、100円を入れ、折り畳まれた白い紙を木箱から取り出す。
ワクワクとした顔で紙を開いていく拓海の表情は一瞬で消え去った。
「どうだったの?」
その様子を見て鈴木さんが紙を覗き込む。彼女は目を閉じると、そっと拓海の肩に手を置いた。
「なんだったんだ?」
状況から何となくわかってはいるが、それでも悠人が拓海に聞く。
拓海は何も言わず、紙を俺たちのほうに見せた。
その紙の上には大きく凶と書かれていた。
「なんだ凶か」
俺は紙を見てそう口にしていた。
「なんだとはなんだよ、凶だぞ、凶!」
「俺たちはてっきり大凶だと・・・ねぇ?」
拓海と鈴木さん以外の全員に目を向ける。みんな目が合うと頷いた。
「変わらないって。今年は災厄だな」
「まぁ、くじなんだし、絶対に今年がそうとは限らないよ」
「・・・そう、だよな」
余程ショックだったのだろうが、鈴木さんの励ましで拓海は調子を取り戻しつつあった。
「それじゃあ俺も」
次に箱に手を入れたのは悠人だった。悠人は箱の中をかき回してから一枚取り出す。
「俺は・・・中吉だな」
紙を広げ、自慢げに拓海に見えるように見せる悠人。それが気に入らなかった拓海は、今朝俺にしたように悠人の首を腕で絞めた。
「苦しい、まじで」
「本気で絞めてるからな」
そんな2人を見て笑っていた日野さんがこちらを向いた。
「秋原さんは引かないんですか?」
「俺は・・・引こうかな」
財布を出し、100円玉を2枚取り出す。財布を鞄に直してから木箱の前に立つ。一度振り返り、手招きで黙ってみんなの会話を聴いていた村上さんを呼ぶ。
彼女は俺の手招きに気が付くと木箱の前に来た。
「どうかしました?」
「くじ引いていいよ」
そう言って彼女に聞こえるようにお金を1枚ずつ入れた。
俺は箱に手を入れ、1番上に置かれていた紙を握ると、横にいる彼女に場所を譲った。
「ありがとうございます」
彼女は木箱に手を入れ、紙を取り出す。それを見届けてからみんなの方を向いた。
振り返ると悠人は拓海から解放され、鈴木さんと日野さんはおみくじを読んでいた。
「晴太はなんだった?」
「大吉だったらお前も絞めるぞ」
拓海に絞められたくないなと思いながら紙を広げる。
「えーと・・・吉だった」
「吉か、うーん・・・まぁよし」
吉はいいようで、拓海に再び絞められることはなかった。俺はみんなに結果を見せた後、紙に目を通した。
学問はまぁいいようで、金銭運は少し厳しいようだ。旅行運と仕事については今は見る必要がないので飛ばす。失せ物は待っていれば見つかるらしい。そして気になったのは恋愛運。
「良い人ですが危ない・・・はぁ?」
書いてある意味が分からず頭を傾ける。これまでにあきらめなさいや、叶うなどのありきたりなものは幾度と見たことがある。しかし今回のはいつもと違う。危険だと言われているような気がする。
普段はおみくじや占いの結果はあまり信用しないのだが、どうしてもこの言葉だけが気になってしまう。
「晴太どうした?」
悪いおみくじを近くにある木にくくり終えたみんなが、突っ立っておみくじを凝視している俺を見つめていた。
「いや、なんでもない」
「さては健康面がやばいんじゃないか?」
「そんなことないって」
みんなのもとに行き、引いたおみくじを木の高いところにくくる。俺たち以外にも木におみくじをくくっている人は多く、もう少しで木の表面が紙で埋め尽くされそうだった。
くくり終えると鈴木さんが口を開いた。
「これからどうする?」
初詣に一緒に行くと約束はしたものの、そのあとの予定は何も考えていなかった。
「そうだな~・・・ひとまず屋台でも回ろうぜ。その間に考えればいいだろう」
「そうするか」
「そうだね」
拓海の提案に俺たちは賛成し、寺の横にある通路にずらっと並んだ屋台の方に向かった。
屋台のある通りは寺の中同様に多くの人が行き交っていた。屋台の種類も多く、たこ焼きやイカ焼きといった有名どころのほかに、焼き芋や大判焼きといったあまり屋台では見ないものまでやっている。
だが俺たちは見るだけで、屋台のものを買ったりはすることはなかった。
屋台を一通り見終わると、俺たちは拓けたスペースで足を止めた。
「お腹空いてきたし、この後ジョイフルにでも行かない?」
「俺も空いてきたな。いいんじゃないかな」
鈴木さんがお腹を押さえながら言うと、拓海はその提案に賛成した。
「いいんじゃないか。もう時期12時になるし、行くなら早めがいいかもな。他は?」
悠人は俺たちの方を見る。
「俺は別にいいよ、午後空いてるし。日野さんは?」
「私も大丈夫です」
村上さんに目配せをすると、彼女はそっと頷いた。
「姉ちゃんも大丈夫らしい」
「なら全員一致ってことで、早速向かうか」
俺たちは神社を降りてジョイフルに向かった。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
店に入ると目の前にたまたま立っていた店員さんが挨拶をしてきた。
「6名で」
なぜかわからないが先頭に立っていた俺が答える。
「ではこちらにどうぞ」
俺たちは店員さんに誘導され、店の奥に進んだ。
少し進むと4人席と2人席がある場所に来た。店員さんは2人席を4人席に引っ付ける。
「こちらにどうぞ」
6人が座れるようになると、俺たちは男女に分かれて座った。
俺は席の端に座り、悠斗が横、村上さんが目の前、日野さんが右前に座った。拓海と鈴木さんが端の方で向かい合うように座っている。
「何にしようかな?」
拓海はメニュー表を手に取る。元々2人席なので、メニュー表は1つしか置かれていない。そのため、鈴木さんは逆方向から拓海の見ているメニュー表を覗き込んでいる。
俺たちの方には2つあるので、片方を村上さんと日野さんに渡し、もう片方を俺と悠人で見ることにした。
「メニューがお決まりになりましたらお呼びください」
店員は俺たちの様子を見て、礼をしてからその場を去った。
注文を頼み、全員が食べ終えた後、俺たちはすぐに店を出なかった。
「それで、晴太は休み中なにしてたんだ?」
「週末以外全部バイトだよ」
「うぇ〜」
話を振って来た拓海がなんとも言えない顔を向けてくる。
「なんだようぇ〜って」
「だってさ、今年最後だぜ冬休みを満喫出来るの。来年は受験で遊べねんだぞ」
「いいんだよ、これが俺の冬休みの使い方だから」
本当は遊びたいという気持ちがないわけではない。現にこうしてみんなと初詣に来ているのだから。
しかしバイトのシフトは先月に決めてしまった。急に休みを入れると美智子さんに迷惑がかかる。それに日野さん1人に任せるのは心配だから。
「そっか、せっかく遊びに誘おうと思ったのに」
「悪いな、課題もまだ終わってないから」
「課題か・・・俺もまだ残ってるな〜、悠人は?」
「終わらせたよ、丁度昨日の夜に」
「マジか!」
「マジ」
男だけで学校の課題の話をしている一方、女子の方では村上さんへの質問コーナーが行われていた。
「お姉さんは大学生ですか?それとも社会人?」
「社会人・・・だよ」
そう言いながら目を泳がせている。内定が決まったのだから自信を持って言っていいのに。
「社会人か、いいな〜。私も早く学校卒業したいです」
「れいちゃんは行きたい場所とか決まってるの?」
小首を傾げながら日野さんが尋ねる。尋ねられた鈴木さんは人差し指を自分に向けた。
「私?私はまだ全然決めてない。でも大学はもう決めてるよ」
「私は大学すら決めてないよ」
「2人は大学に行くの?」
村上さんもこの2人とは打ち解けてたようで、自分から話に入っていっている。
「そりゃあそうですよ。就職のこともありますが、キャンパスライフにも憧れてて・・・お姉さんは大学行かなかったんですか?」
「もちろん行ったよ。・・・でもあんまり楽しい思い出はないかな。サークルとかに入らなかったから、友達と呼べる人がいなくて」
村上さんの沈んだ表情を見た2人が慌てだした。
「きっとこれからいいことありますよ、ね?」
「そうですよ、それにお姉さん可愛いから、彼氏だってすぐに出来ますよ」
「・・・ありがとう」
表情が戻った村上さんを見て、2人は胸を撫で下ろした。
そんな会話を入店から2時間ぐらいして、俺たちは解散となった。
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