第348話 3人の姉妹達
姉の転生体を乗せた馬車が、王都ラーセンへ入っていく頃。
ファーゼル領にある探索者養成学校の1室。
ロディア教導官の部屋に、ファーラシア北部へ実地調査に出ていたリースリッテが訪れる。
ロディアと名乗っている4女から、その報告を受けた次女は、ロディアの助手として潜り込ませている"密偵"の身体に乗り移る。
「遅くなった。
……話し合いの最中だったか?」
「いやいや。
姉さんのお守りお疲れ様っす」
ロテッシオとリースリッテが、トージェンの乗り移った身体の持ち主とテーブルのお茶を囲うように、ソファーに腰掛けていたので、トージェンが確認を兼ねれば、今はロディアを名乗る妹から労いが返ってくる。
「……そうか。
今の段階で姉上には、配下のバイコーンをガルキュア囚人都市のあった盆地から山を隔てた西に配置するように助言した。
数百年後には、あの盆地にも人が住める程度まで環境が回復するだろう」
「まだ数百年も掛かるんすね。
"異界より来たもの"ってのは、ぶっ飛んだ化物じゃないっすか?」
あの盆地には、これまでも強力な呪詛が満ちており、水竜リペイアが2千年ほど掛けて、こびり付いた呪詛を薄めていたのだ。
やっと少し気味が悪い土地程度まで回復したので、彼女には貯まりに貯まった休暇を消化させている。
「……うむ。
本当に異世界から来たと思うか?」
「……どういう意味っすか?」
トージェンの意味深な言葉に、ロテッシオがいぶかしむ。
「今回手にいれたダンジョンスライムの中を、死んでいた兵士やゴーレムを使って調査した。
そこで手に入れた情報には、確かに異世界から突如現れた得体の知れない何かがガルキュア辺りで厄災を撒き散らし、それをどうにかしようとした古代文明は、姉上のせいで滅亡寸前だった余命を使いきったようだとある」
「そうっす。
私達が封印されていて、リッテも他の竜達の抗争に巻き込まれて、死んでいた期間っすよね。
姉妹の誰も情報を持っていなかったから、人間達が勝手に文明を放棄したと思っていた空白の時期の情報」
「……私が敵対した竜の群れに襲われる寸前まで、人間達が外敵に襲われている気配はなかったわ。
だから、本当に急な出現だったんだと思う」
トージェンの言葉に、ロテッシオとリースリッテが応える。
「その辺は良い。
気になるのは、これらの情報にある"異界より来たもの"の行動と描写だ」
「と言うと?」
「黒いもやの化物で、ガルキュア周辺に留まり続け、街とその住人が完全に滅びさると、空気に溶けるように消えていった。
その能力は全てを砂に変える異能とある」
「「……」」
トージェンの言いたいことが分からない妹2人は、沈黙で先を促す。
「まず、そのモノの目的はガルキュアとその住人の殲滅と仮定した上で、ガルキュアの特徴は何か憶えているか?」
「……トージェン。
私はその仮定を支持したくないわ。
それが成立した時点で、"異界より来たもの"はこの世界から弾き出された大姉様の呪いと結論付くじゃない」
リースリッテが率直に返す。
姉妹の中でも姉贔屓が強いリッテは、セフィアがそんな恨みがましい真似をしたとは思いたくないのだ。
しかし、
「……リッテ。
自分の願望で目を曇らせてはダメよ。
ガルキュアが例の姉上のお嫁さん願望の掲載された雑誌提出を拒んだ者が、押し込められた都市である以上冷静に判断しましょう?」
普段のお気楽口調を引っ込めたロテッシオが忠告をする。
ガルキュアが大々的に"囚人都市"等と言う名前を名乗るのは、あの街がセフィアの無茶振りで投獄される可哀想な人間の受け皿だったからだ。
犯罪者はガルキュアと言う都市に押し込められて出られないと言えば、世間知らずで本当の投獄を知らないセフィアは満足して追及しなかった。
それを利用してトージェンが人間族の有力者達と作った詭弁のための街。
当然、他にこれと言った特徴がない都市である。
「……理の違う世界でまともに動けなかった可能性もあるわ」
リースリッテ自身も苦しい言い分と、理解しながら投げ掛ける言葉。
「消えて、なお今に続くまで緑豊かな土地の砂漠化状態を維持する化物が、この世界の理に負けたと?」
「……」
トージェンから当然の指摘があれば、リースリッテも言葉に詰まる。
「間違いなく姉さんの仕業っすね!
往生際の悪さがらしいっすけど……」
「振っておいてなんだが、本人も忘れた話はいい。
それよりも今後の話だ。
あの盆地を長年地図から消して来たが、これから徐々に復活していく土地でもある。
ロテッシオが補助すればそれも早まるだろうと思うが……」
「良いっすよ。
探索者養成学校の教導官と言っても、そこまで忙しくないっす。
それにあの地は姉さんを信奉した
骨は拾ってやらないとダメっすから!」
オタク同士の共感から安請け合いをするロテッシオ。
だが、真竜が近くを根城にした余波が、後々近隣を襲って、長姉からネチネチと嫌みを言われる羽目になるとはこの時はまだ誰も気付いていないのだった。
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