第317話 義憤により、義勇軍立つ

 地上に復帰したユーリスが、ミフィア姿でシュールと話し合っている頃。

 ラーセンの郊外にて、集まった人間達を前に演説をする男が1人。

 その名は、アルフォード。

 先代のファーラシア王である。

 無能故に助命されたに過ぎない元愚王は、


「よくぞ集まってくれた!

 国を愛し、人類の独立を護らんとする清廉の士が、これほどいたことを私は感謝している!」


 少数の元貴族に、あぶれ者の冒険者。

 一見、山賊の集まりにしか見えない集団を前に、無知蒙昧に宣言した!


「この国は、今や邪悪な悪竜ゼファートの操り人形と化した。

 我が息子を名乗る邪竜の傀儡が我が物顔で、国を動かし、国の在り方を壊していく。

 だが、不意を突かれ幽閉の身となった私にはどうすることも出来ない……。

 どれほど、永く苦しい日々を耐え忍んだことか!

 だが!

 数多の義憤に駆られる志士の手により、私はこうして助けられた!

 今こそ人の手に国を取り戻す時だ!

 いざ! 進め!

 敵はラーセンにある!」

「「「おおー!!」」」


 意気揚々と自分の演説に酔いしれる男に、同じく元国王の演説を聞いて舞い上げっている自称憂国の士が賛同する。


「……普通に考えれば、国を奪った相手にこんな少数で挑むなど無謀でしかないのだが……」


 密偵として、紛れ込んでいる男が思わず呟く。

 既に権力を持たないただのオッサンだが、腐っても王家の血筋。

 監視の目があるのは必然だった。


「……まあ、俺の目を欺いたんだから、世間で言われるほど無能ではないのかもしれないが」

「所詮、御輿だ。

 無能かどうかは関係ないさ。

 主に動いていたのは冒険者ギルドを介した何処かの勢力だ」

「……片目か。

 お前がいると言うことは、ロックネ伯爵家も協力しているのだな」


 今は伯爵家に降格させられた南部の雄ロックネ家に、遣わされていた同僚が声を掛けてきたので応じる。

 下手な路地裏よりもこういう場の方が疑われずに、情報交換出来るものだ。


「ああ。

 ……まあ、ロックネ伯爵としては、長年国を護ってきた矜持を傷付けられた気分だろうよ。

 これと同時に、領地で挙兵するらしい」

「そうか。

 それでどれくらいの勝算だと妄想を膨らませている?」

「言うね。

 絶対に勝てると思っているぞ?

 何せ、多くの貴族が賛同する手筈だからな。

 しかも切り札として、異世界人を操る気でいる」


 私の言葉にクックッと笑う片目。

 彼自身もこれが無謀だと言う認識でいたか……。


「……順に伯爵の思惑を知りたい」

「任せろ。

 南部の片隅に追いやられている連中は、元々親ギュリットの家ばかりだ。

 それを潰したゼファート竜に恨みを募らせている。  

 と、思っている」

「あり得ん。

 これまでは行き止まりだった各家はレッドサンドとイグダードが守護竜領になったことで間道を通す許可が出た。以前より財政が良くなっていくはずだ」


 間道を勝手に開かれたら、国防に関わるので制限があったのだが、それが撤廃された。

 2つの勢力がゼファートに逆らうはずがないだろうと。


「まあな。

 異世界人については、オオイケ子爵の側室に捩じ込んでいる姪に絆されると読んでいるらしい。

 ……発想は悪くない。

 同じように旅をした相手が辺境伯で、自分は子爵だ。

 嫉妬しても不思議じゃないからな」

「……貴族目線の発想だがな」


 仕事柄、異世界人の観察報告にも目を通しているが、あの少年達は爵位が上がる方が迷惑だと考えそうだ。

 と考える密偵。

 そもそも、


「確かに、辺境伯殿も地盤固めの最中だが、それはロックネ伯爵様も一緒だろうに……」

「……名族の自分に従うのは普通とか考えているんじゃないか?」


 周囲の目もあるので、密偵がユーリスを殿呼びにしつつ、現状を確認すれば片目が無茶な理論付けを行う。

 とても成功するとは思えない杜撰な計画だが、場所が場所だけに、処置に時間が掛かるだろう。


「せめてラーセンから遠く離れた所なら、助かるんだがな……」

「問題はそこじゃないぞ?

 義勇軍に加わる冒険者の数が異常だ。

 ラーセンの冒険者ギルドに警戒しないと寝首を掛かれるかもしれない」


 片目が気にしているのは、この騒動を主導しているのが、冒険者ギルドではないか?

 と言うことだった。


「……確かに辺境伯殿は冒険者ギルドと逸りが合わんと思うが、連中だって辺境伯殿から大いに利益を得ているのだぞ?」

「だが、辺境伯殿がやらかさなければ、もっと利益があったかもしれない。

 ……馬鹿馬鹿しいがな」


 お零れで満足すれば良いのに! と言う口調の片目に頷きつつ、


「一旦、俺は王都へ走る。

 場合によっては各地で造反が起きるからな。

 こっちの内偵を頼めるか?」

「ああ。

 それじゃあ、またな」


 自然な仕草で離れていく片目を横目に、密偵の男は、この局面をどう抜け出すかと思案を開始するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る