第314話 ダンジョン攻略を前にして

 外の騒動を知らない俺とテイファは、スマホと心臓の融合体のようなダンジョンコアを無視して、宝物庫の宝を漁っていた。

 あれからダンジョン攻略に方針変更をした俺達は、ひたすら強い敵の湧く方を目指して進み、間違えて期間限定イベントエリアに迷い込むトラブルを数回経験したくらいであっさりとダンジョンマスター撃破と宝物庫到達を成し遂げたのだった。

 クライマックス的演出処か、まともな苦戦イベントすら起こらない。

 何せ、レールガンだろうが、プラズマ兵器だろうが問答無用で拒絶する俺の防御と、物理防壁も魔術防壁も関係なく貫通させるテイファの攻撃では、苦戦のしようがない。


 むしろ、ジューンブライドイベントのエリアに入り込んだ時に、前世セフィアのトラウマをほじくられたり、水着イベントエリアでスク水になった精神ダメージの方が遥かにでかかった。

 どうにもこのダンジョンのその手のエリアは、侵入と同時に衣装チェンジ現象が起こる仕様らしい。

 製作者に文句を言いたいところではあるが、この場合の製作者が誰かを追及するのも無駄なのでやめておく。

 と、まあそんな不幸な出来事は、さっさと記憶の片隅に追いやって、宝物を漁ることに専念しよう……。

 ……ろくな宝物がないけど。


「さすがに生まれたてのダンジョンね。

 宝物庫も普通の財宝ばかりだわ」

「……だな。

 日本にいた頃なら大喜びなんだが……」


 近くに来たテイファが洩らす言葉に同意を示す。

 金銀財宝と言うのは、一定の価値があるので通貨の代替品としても使える便利な宝だ。

 換金もしやすいし、何処でも安定した金額で引き取って貰えるので便利ではあるのだが……。

 同時に何処に持ち込んでも大して値段が変わらないと言うことでもある。

 加えて、


「魔道具に比べれば、嵩張るだけ効率が悪いんだけどね?」

「魔道具がない世界では分かりやすい資産価値の象徴だったんだよ。

 通貨は国に縛られるが、金や銀は何処でも押並べて貴重だったからな」


 もっと言えば魔物がおり地球に比べて、閉鎖性の強いこの世界では金銀の価値は高くない。

 国の興亡が少ないので、貨幣の価値が変動しにくいから、金銀財宝の形で資産を保持する必要性が低いのだ。

 結果、これらの形で資産を保有したがるのは、新たな販路開拓を目指す弱小の行商人などが多い、国交がない国同士を跨いで商売をするなら必須だから。


「金銀は持っていくのが面倒だな。

 便利な魔道具1つあれば、ここの宝物庫全部よりも莫大な資産になるからな……」

「そうね。

 特に運搬系の魔道具や強力な武具の類いは、1つあれば国が買えることも珍しくないし」

「さすがにそれは大袈裟だろう?」


 俺の感覚では、たった1つのアイテムで国を売り渡すと言うのは、信じられんのだが、


「そうでもない。

 ユーリスが持っている剣があれば、小さな『魔物の領域』ぐらいは解放出来るだろうし、それを買うなら男爵位を譲るくらいは普通にあり得るのよ?」

「……確かに困窮している貴族家くらいは手に入るか」


 後は、ダンジョンで稼がせて家を建て直せば問題ない。

 しかし、その後、武器の持ち主はどうなるのか?

 さすがに使い捨てにはされないと思うが……。


「さて、駄弁っていてもしょうがないか。

 そろそろ、帰らないと駄目だろうな……」

「そうね」


 そう言いつつ、再び財宝の山に足を向ける駄目な俺達。

 ……自覚はあるのだ。

 しかし明日から、また書類漬けの日々が始まると思うと、つい有りもしない貴重な魔道具を求めて、宝物庫の中を彷徨いてしまう。

 学生時代の夏休み最後の1日のような寂寥感。


「……それで、このダンジョンはどうするの?」

「……ああ。

 使いにくいダンジョンだよな。

 便利そうで今の世界では役に立たないアイテムが多い。

 一旦、閉鎖してこの辺のアイテムの効果が実証されたら、辺境伯家主体で運用かと思っている」


 基本的に敵が固すぎて、消耗が大きい。

 そんなダンジョンなのにスマホのゲームが基盤のせいか、役に立つアイテムが分からないのだ。

 鑑定や解析をしてもゲーム時代の説明文以上のことが分からなかった。

 今回は使えそうなアイテムを持ち帰って、その効能を実地試験していくことにする。


 例えば、病院で見つけた銃を敵のアンドロメイドに当てて、ドロップさせるスタミナタブレット。

 これの説明文は『高い栄養価の錠剤型保存食。食べると体力を回復する』とあるが、その体力や栄養価が何を示しているのか、現状では検証出来ない。

 なにせ、"竜の心臓"を持つ俺やテイファじゃ、飲まず食わずでもダンジョン内の魔力を生体エネルギーとして、利用できるので効果が分からないのだ。

 しかし、


「これが一番有力なんだよな。

 適当な罪人に1ヶ月くらい、これだけ投与してみて、生きてるようならかなり利用価値の高い保存食だし」

「そうだな。

 冒険者でも軍隊でも、糧食の小型化は永遠の課題とも言える。

 上手くすれば革命的な価値だ」


 俺の言葉にテイファも同意する。

 当然だな。

 ラムネ1粒で丸1日動けるなら、ダンジョン探索の荷物は今の百分の一以下だろう。

 それはある種の革命なのだ。


「……と言うか、これが無駄になったらシュールにどんだけ怒られるか。

 大分、行方を眩ましていたわけだし。

 マジでヤバい……」

「……そうか。

 あの少年は微妙にトージェンに似てないか?」

「ああ。

 ……空気がな。

 多分あいつもキレると笑顔でグチグチ文句を言うタイプだぞ?」

「相変わらず、そう言う相手に縁があるのだな」


 肩を竦める俺に苦笑で返すテイファ。

 俺も釣られたように笑うしかない。

 さて、俺達の冒険はこれまでだ!


「いくか?」

「ああ」


 テイファに確認を取って、宝物庫の扉に手を掛ける。

 こうして、長くダンジョンをさ迷った竜姉妹は、再び辺境伯家へ舞い戻っていったのだった。

 て! 長くミフィアモードだったけど、俺は男だから、竜兄妹が正解だわ!

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